第85話 各々の力

sideキョウカ


 アタイは集中する。

 リーリエは言った。

 アタイもゴウエンやガンダン・・・伝説の鬼の血筋だって。

 なら、アタイにだってある筈だ!


 【鬼神の血】が!!


 アタイは守りたい。

 仲間を!アタイらの為に死力を尽くしているルールーを!そして・・・惚れた男を!!


 ここでやらなきゃどうするってんだ!!


 アタイはキョウカ!


 クロガネであり、ツクモであり、英雄の血族であるキョウカだ!!


 リーリエが言う事は極論だ。

 だけどアタイはリーリエを信じている!


 アイツはすげぇ奴だ。


 死んで尚、惚れた男を守ろうと、力になろうと頑張っている!!

 そんなあいつに情けないところは見せられねぇ!!


 ここでやらなきゃ女がすたる!!


 ご先祖様!!

 どうか・・・どうかアタイに力を!!


 鬼族の誇りにかけて!!!


 ドクンッ!!!!!!!


 身体から力が溢れる。


 Pon!


 世界の音。

 スキルの獲得音だ!!


 見なくても分かる!


 これは・・・


 アタイは目を開ける!

 目の前には苦戦しているルールーがいる!!


「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「!?むぅっ!?」

「っ!!キョウカ・・・あなたそれは・・・」


 ヴィクトリアさんを殴り飛ばす。

 体中から力が溢れる。

 

 さっきから頭の中で破壊しろってうるせぇ。

 だがな?


「アタイはキョウカ!キョウカ・クロガネ・ツクモだ!!!破壊衝動なんかに負けるかってんだ!!惚れた男と仲間に情けない所は見せねぇ!!!」


 そう叫んで顔面を殴りつける。

 鼻血が出る。


 しかし、頭はすっきりした。


「・・・呆れた。でも、ありがと。一緒にヴィクトリアを止めましょう。」

「おう!行くぜヴィクトリアさんよ!!鬼の力、魅せてやるさね!!」


 

sideチユリ


 ボクは、まだ迷いの中にいた。

 

 シノブさんに対する気持ち。

 レイリーさんもリュリュさんも、キョウカさんも、そして・・・おそらくリーリエさんも、はっきりとシノブさんの事を好きだとわかる。


 そんな人達と自分の気持ちが同じかどうかわからない。

 胸を張って言えない。

 

 いえ、言えなかった。


 ボクには覚悟が足りなかったんだ。




 でも、今は!!


 さっきヴィヴィアンさんを焚きつける言葉はボクも聞いていたんだ。

 あの局面で、自分が嫌われるかもしれなくても、それでも後悔しない選択をつきつける強さ、そして優しさ!

 あの人はやっぱり素敵だと思う。

 

 そんなあの人の力になりたい!

 ボクは【妖狐】だってリーリエさんは言ってた。


 伝承にある【妖狐】は凄い力を持った獣人だった。

 だったら、ボクだって!!


 みんなの・・・あの人の力になりたいんだ!!!


 ドクンッ!!!

 

 身体熱い・・・特にお尻が・・・


 Pon!


 あっ!?世界の音!?


 目を開けると、そこには・・・


 うわっ!?尻尾が増えた!?


 でも、体中から力が沸いてくる!

 これなら!!


 僕はなんだか凄い力を発しているキョウカさんとルールーさんと戦っているヴィクトリアさんの隙を突く!!!


「ガァァァァァッ!!!」

「くぁっ!?く、くはは!これは予想外だわぇ!!」

「チユリ!?それ・・・尻尾が増えてんぞ!?」

「・・・覚醒、ですか。これは嬉しいですね。」


 よし!戦える!!

 ボクも力になれる!!




sideヴィヴィアン


 わたくしは絶望の中にいました。


 かあさまがわたくしを殺そうとするような状況が飲み込めなくて。


 でも、


『あの人は誰よりも君の幸せを願っている。ならば、子として、親に恥じないように生きたい、俺はそう思って生きている。君はどうする?このまま泣いて臥せっていて良いのか?』


 あのシノブ殿の言葉に頭を殴られた気分でした。

 彼の生い立ちは既に聞いています。


 わたくしよりも過酷な人生を送られた方。

 そして、人の身でありながら、吸血鬼であるわたくしは元より、エルフ、人魚、鬼を凌駕する力を持つ方。

 それでいて、優しく努力し続ける強さを持つ方。


 負けて以降、ずっと気になっていました。


 正直、殿方とお話するのは初めてでした。

 少し怖く思っていたのですが、とてもお優しく、ゆっくりとお話してくれました。

 

 そんなあの方の決意の眼差し。


 わたくしは強く心を揺さぶられました。

 この気持ちはもしかしたら・・・


 ですが、それはまた後の話。



「『我が内より来たれ!その力を以て我が身を助けよ!!』顕現せよ!ミネルヴァ!!」


 わたくしは|知識ある武具を召喚する。

 頭に使い方が流れ込んでくる。

 なるほど!この武具はそう使うのですね!?


『我が主よ。辛い戦いですが、それでも気丈に前を向くあなたに敬意を表します。』

「ありがとうミネルヴァ。かあさまを助ける為に力を貸して下さい。かあさまに安らぎを!」

『はい。では喚んで下さい!あなたの英雄を!!』

「ええ!来て下さい!私の英雄!」


 光が集まり目の前に人の形が現れる。


「ああ・・・あああ・・・」


 知らずと涙が流れる。

 人影はにこりと笑ってわたくしの頭を撫でました。


『・・・大きくなったな。俺は嬉しいよ。あの時、あの選択をして良かった。ヴィクトリアにも感謝しなきゃな。』

「とう・・・さま・・・」


 そう、わたくしの杖の能力は英霊召喚。

 わたくしに縁故ある者を呼び寄せ共に戦って貰うというのも。


『さぁ、お母さんを助けてあげよう。』

「っ!!はい!!」


 とうさまは剣を抜きました。


 そして乱戦の中に飛び込みます。


「なっ!?れ、レンベルト!?なにゆえ!?」

『やぁ、久しぶりだな、我が最愛の妻ヴィクトリア。相変わらず美しいな。』


 鍔迫り合いになり目を白黒させているかあさま。


「え?え?れ、レンベルト!?どうして!?」

『ルールーか。久しいな。だが、今はそれどころでは無いだろう?さぁ、ヴィクトリアを助けよう。』

「あれが・・・英雄レンベルト・・・」

「何故死者が・・・?」

「わたくしのミネルヴァの能力ですわ。」

「ヴィヴィアン・・・」


 わたくしが並び立つと、キョウカ殿もチユリ殿も唖然としておられました。


「かあさま。これがわたくしのミネルヴァの力ですわ。とうさまと共に、あなたを止めます。」


 わたくしがそう言うと、かあさまは最初は唖然としていましたが、すぐに苦笑し、そして一筋の涙を流した後、


「く、くく、くくく!そうか!我が愛する娘ヴィヴィアンよ!愛する夫に会わせてくれて感謝するぞ!!レンベルト!さぁ!踊ろうかぁ!!」

『やれやれ、意地っ張りめ。変わらないな君は。だが、望む所だ!ヴィヴィアン!ルールー!それにその仲間の子達!今のヴィクトリアは魔王級だ!気を引き締めるぞ!!』


 ええ、がんばりますわよ!

 かあさまはわたくしが・・・わたくし達が救うのです!!

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