第84話 悲しい戦い

「せああああぁぁぁぁぁ!!!」

「はぁぁぁっ!!!」

「ぬぅぅぅぅっ!!!」


 キョウカの戦斧と俺の剣鉈がヴィクトリアさんの影の盾にぶつかっている。

 俺は【気闘術】も【鬼神の血】も発動しているが、有効打にならない。

 キョウカも気功術を全開だがやはり同じ。


「カァァァァッ!!!」

「ぐあっ!?」

「ぐっふっ・・・」


 そして、潜り込むように現れた影が俺たちの腹部を殴り飛ばす。


「くっ!?【魔力混合】『トルネード』『ファイヤストーム』!!」

「むっ!?だが甘いわぁ!!」


 そこに、【魔力混合】で火魔法と風魔法を混合させたレイリーの魔法。

 だが、一瞬包んだ火炎の嵐は、魔力の障壁で弾き飛ばされた。


「ウチも!!『アクアスラッシュ』!!!」


 直撃!

 ヴィクトリアさんを通り抜けるリュリュの魔法。


 いや違う!


「こんなものかぁっ!!!」

「えっ!?嘘ぉ!?」

「リュリュっ!!!」


 いつの間にかリュリュの背後に現れたヴィクトリアさんが手を振り下ろしリュリュを・・・


「させませんかあさまっ!!」

「むぅ!?よく防いだ!!!」


 同じようにいつの間にかその間に現れたヴィヴィアンさんが障壁でそれを防いだ。


「てやぁっ!!」

「おっ!?」


 そこへチユリさんが飛び蹴りをし、ヴィクトリアさんを足止めする。


「リュリュ!ヴィヴィアン!チユリ!そのまま離れなさい!!行きますよヴィクトリア!!『スラッジガーデン』!!」


 ヴィクトリアさんを中心に茨が現出し、ヴィクトリアさんを切り刻む!


「くはは!流石だルールー!」


 血を撒き散らしながらも凄惨に笑うヴィクトリアさん。


 だが、飛び散った血は逆戻しのようにヴィクトリアさんの身体に戻る。


「みなさま!お気をつけ下さい!かあさまは身体を霧状にして斬撃を躱せます!!それに、一見傷を修復してダメージが無いように見えますが、あくまでも血を戻し継続ダメージを無くしただけで、その分魔力を減らし、ダメージだって残っています!消沈せず奮起を!!」


 そういうからくりか! 

 となると、斬撃では無く打撃系の方が良さそうか。


「さぁ、どうする?妾は未だ健在なるぞ?」


 強い・・・


「来ぬのかえ?では、耐えて見せよ!!!」


 膨れ上がる魔力。

 大技か!!


「『ブラッドフォートレス』」


 周囲が血のように赤くなり・・・


「『ファイア』!!」


 魔法が発動される。

 その瞬間、体中を打ち付けるような衝撃!!!


「きゃあっ!!」 レイリーも

「きゃんっ!?」 リュリュも 

「ぎぃっ・・・」  キョウカも

「うぐっ!?」 チユリさんも

「くっ・・・!!」 ルールーも

「くぅぅぅっ!!!」 ヴィヴィアンさんも


「がっ!?」 そして俺も弾き飛ばされ倒れた。


 現在立っているのはルールーだけだ。


「どうした?次代の英雄の卵達よ?そんな様では妾を・・・魔王には勝てぬぞぇ?」


 なんという強さだ・・・!!

 どうする!?どうすれば・・・


『調査が終わりました!ルールー!時間を稼いで下さい!』


 そんな中、リーリエがそう言った。

 何か策があるのか!?


『レイリー!あなたはアレを使って足を止めて!リュリュ!あなたも修行の成果を見せる時です!足を止めたヴィクトリアさんに放ちなさい!』


 リーリエの叫び。

 レイリーとリュリュは頷く。


『キョウカ!あなたもまたゴウエンと岩男さんの血筋です!きっとあなたにもあの力は宿っている筈です!そしてチユリさん!あなたは獣人です!それも【妖狐】と呼ばれた九尾の血筋のようです!血の力を発現させるのです!!二人共、深く血を探りなさい!!』

「深く・・・」

「血を・・・」


 キョウカとチユリさんが目を閉じ集中を始めた。


『ヴィヴィアンさん?あなたは英雄ヴィクトリアさんとレンベルトさんの娘です。』

「・・・」

『あなたは眷獣を召喚しなさい!そして使いこなすのです!!きっとそれが攻略の一手になるはずです!』

「・・・わかりました!やってみますわ!!」


 ヴィヴィアンさんが詠唱に入った。


『忍様・・・』


 俺か。


『今から、召喚魔法を使って下さい。』

「召喚魔法を?」


 緊迫した空気を感じる。

 

『良いですか?まず、忍様には極限の集中をして頂く必要があります。そうですね・・・ルールーの鎖を斬った時を超える位に。』


 あれを・・・この状況で、か・・・


『すると、ある人物浮かんで来るでしょう。それがあなたが召喚できる者です。』


 ある人物?


『はい。ですが、焦ってはいけません。名前を絶対に間違えないで下さい。そこで間違えたら終わりです。』


 ・・・名前・・・


『その後、その人物を【覚醒】させて下さい。さすれば、その人物が修行で手に入れた力を使えるようになります。そして、【解放】して下さい。その役割から。』


 覚醒と解放か。


『はっきり言って、かなりの負担となるでしょう。ですが、きっとその人物はあなた達の・・・この局面を打破するための力になるでしょう・・・その為に力をつけたのですから。』

「分かった。」

『・・・かなり無茶を言っている自覚があります。本当によろしいので?』

「君は俺の相棒だ。地獄の底まで、信じるさ。」

『・・・本当に、あなたと言う人は・・・では、お願いします!!頑張って!!』

「ああ!」


 俺は集中する。

 目の前には、ボロボロにされていくルールーが見える。

 助けに行きたい!


 だが、俺のやることはそれじゃない!

 

 助ける為にも集中を!!


 額から汗が流れ落ちる。

 だんだんと周囲の音が聞こえなくなって行く。


 おふくろに教わった精神集中法。


 それを思い出せ!!



 いつしか何も見えなくなり、音も聞こえなくなる。


 詠唱を始める。


『我が内より来たれ!その力を以て我が身を助けよ!!』


 真っ白な空間。

 そして目の前には・・・


「ゆ・・・」


 目を閉じ立ち尽くす、あの頃のままの百合さんがいた。

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