第83話 ヴィクトリアとルールー
「ヴィー!なんでなの!?どうしてそんな事に!?」
「先程も言ったであろう!!妾を倒したら教えてやる!!」
「くぅっ!?このままじゃムリなの!・・・仕方が無いの!」
ルールーの身体が成長する。
以前、あの化け物と相対した時と同じ様に全開で力を振るうためだ。
「ヴィクトリア!あなたは実の娘にまで手をかけるつもりなのですかっ!!」
「はっ!この程度の事で戦えなくなるのであれば、どの道この先、生きて行けぬわ!!ならば、一思いに楽にしてやる方がよかろうがっ!!!」
全力でぶつかり合い、凄まじい衝撃波が飛び交う中、ルールーとヴィクトリアさんは言葉の応酬もしていた。
それを聞いて、ヴィヴィアンさんはずっと震えて目を反らしている。
「あなたはっ!それをレンベルトが望んでいると思っているのですかっ!!」
「っ!!」
そうルールーが叫んだ瞬間、ヴィヴィアンさんの身体がビクッとして顔を上げる。
それを聞いたヴィクトリアさんの顔も歪む。
「・・・うるさい、うるさいっ!妾がどんな気持ちで今日まで生きてきたかも知らぬ癖にっ!お前があいつを語るなぁ!!!」
「分かりませんよ!!あなたが言わなければっ!!」
戦いが一瞬止まる。
そして・・・ヴィクトリアさんの目からは一筋の光るものが見えた。
「では教えろ!!お前に分かるか!?子を守る為に、夫の命を奪わねばならなかった妾の気持ちがお前に分かるのかぁっ!!!!」
「「「「「「『!?』」」」」」」
「え・・・?」
衝撃の告白に全員が固まる。
辛うじて声が出たのはヴィヴィアンさんだけだ。
「どういう事です?」
「どうもこうもない!妾はレンベルトと100年の蜜月を過ごし、15年前に子を宿した!!だが、その時、妾達を襲う化け物に行き逢った!!それは魔王の残滓を色濃く残す漆黒の獣であった!辛うじて討伐したがな!」
・・・あれと同等の化け物を倒したのか。
流石は英雄の二人だ。
「だが、そこからだ!妾は魔の眷属じゃ!死の間際に魔王の残滓が・・・油断した妾の身体にこびりついてしまった!!」
頬を伝う涙を拭うこともせず、叫ぶように話すヴィクトリアさん。
「なんとかしようと努力したさ!しかし、どうにもならなかった。・・・子を宿し、抵抗力が落ちていたのも関係していたのかもしれぬ・・・」
「ヴィクトリア・・・」
「段々と破壊衝動が大きくなり、自分でも止められなくなりそうだった。魔力も弱まり、抵抗力が無くなっていたからな。そしてヴィヴィアンを産み、一番抵抗力が落ちたその時だった。妾は限界になった!だから死のうとしたのだ!しかし、レンベルトが言ったのだ!」
『ヴィクトリア。ヴィヴィアンを頼む。俺の血を吸え。一滴残らず吸って力にしろ。俺は充分に生きた。お前に幸せを教えて貰った。ありがとう、何も無くなった俺と共に居てくれて。』
全員が息を飲んだ。
「当然妾は反対したさ!むしろ、妾を殺せと言ったし、自殺しようともしたさっ!だが・・・あやつは子の為に生きろと言った!そして、家族を守るのは夫の役目だから、先に逝かせろと・・・そう、言ったのだ・・・」
溢れる涙をそのままに、ヴィクトリアさんの告悔は続く。
「わかるかルールー!?お前に分かるか!?愛する夫の命を奪わねばならぬ妻の気持ちが!!己の失態により、そうせざるを得なかった女の気持ちがっ!!キサマに分かるかぁ!!!」
そう言って何も言えないルールーを睨みつける・・・いや、あれはそうじゃないな。
悔やんでも悔やみきれない感情を発露させているんだ。
「わたくしの・・・せい・・・で・・・とうさまは・・・」
ヴィヴィアンさんはうつむいて顔を押さえてしまった。
そうか・・・ヴィヴィアンさんに聞かせたくなくてヴィクトリアさんは言わないようにしていたのか。
そこでヴィヴィアンさんに気が付き、ヴィクトリアさんは顔を手で押さえた。
「・・・は、はは・・・情けない・・・激昂してぶちまけてしまったわ・・・こんな女が家族では、レンベルトも浮かばれぬし、ヴィヴィアンも・・・」
自嘲するようにそう言うヴィクトリさん。
いや、それは違う!
「違う!あなたは母として努力した!!誰よりも辛い事に耐え頑張ったんだ!!そんなあなたをレンベルトさんが責めるわけがない!!」
俺は思わずそう叫んだ。
だってそうだろう?
この人は、愛する夫と子の為に、ずっと辛い事に耐え、生きてきたんだ!
そんな人を悪く言うわけがあるか!!
全員の視線が俺に集中する。
「ヴィクトリアさん!あなたの望みはなんだ!!」
「・・・我が子、ヴィヴィアンの幸せ、そして、魔王となってしまった我が身の消滅だ。我が愛すべき仲間レナとガンダンの子シノブ、そしてその仲間達よ。どうか妾を滅して欲しい・・・妾の意識があるうちに・・・この身が我が子を殺さぬうちに・・・最愛の夫との約束を守れるうちに・・・親であれるうちに。もう、限界なのだ・・・おそらく、これが最後の好機なのだ・・・」
「・・・わかった。」
俺がヴィヴィアンさんを立ち上がらせ、顔をあげさせる。
「ヴィヴィアンさん。」
「・・・」
俺はヴィヴィアンさんの目を見つめる。
その目に力は無い。
「俺は、あなたの最愛の母の願いを叶えるつもりだ。だが、君はそれで良いのか?蚊帳の外で良いのか?」
「・・・かあさまを殺すの?」
「ああ、そうだ。君のお母さんは、人として死にたいと願っている。理性を忘れた化け物になりたくない、と言っている。ならば俺は、ヴィクトリアさんの仲間の子として、そしてルールーの仲間としてそれを叶えてあげたい。」
「・・・」
「だが、それだけではおそらく、ヴィクトリアさんには未練が残るだろう。」
「・・・わたくし、ですか?」
俺は頷く。
「そうだ。あの人は誰よりも君の幸せを願っている。俺は子として、親に恥じないように生きたい、そう思って生きている。ならば君はどうする?このまま泣いて臥せていて良いのか?立ち上がる強さを見せなくて良いのか!!」
俺の言葉を噛み締めるようにし、しばし無言が続く。
そして、キッと顔をあげると、そこには強い眼差しがあった。
「いいえ、偉大なる英雄ヴィクトリアとレンベルトの子として、吸血鬼の姫として、それは認められませんわっ!かあさま!!」
ヴィクトリアさんを見上げるヴィヴィアンさん。
「・・・なんじゃヴィヴィアン。」
「もう、どうにもなりませんのね?」
「ああ、そうだとも。実は、既に限界でなぁ。明日になれば、妾は殺戮の限りを尽くす化け物に成り下がるだろうよ。」
「・・・わかり、ました。」
ぐっと唇を噛み締め、そしてキッとヴィクトリアさんを睨みつけるヴィヴィアンさん。
「ならば、あなたの子として、あなたの望みを叶えますわ!それこそが!あなたの子としてあなたにしてさしあげる最後の親孝行ですわっ!!!」
涙混じりにそう叫ぶヴィヴィアンさんはとても気丈で美しく、思わず見惚れてしまった。
ヴィクトリアさんはそんなヴィヴィアンさんに慈しむように微笑み、
「・・・ああ、それでよい。よくぞ申したぞ我らが最愛の娘よ。最後に心配事が消え去ったわ。ルールー、後は頼む。もはや、妾は自死は出来ぬのでな。この身体に蔓延る残滓が拒否するのだ。どうか妾を滅し、あの者らを頼む。」
「・・・分かりました、ヴィクトリア・・・いえ、ヴィー、覚悟するのです。私は・・・いえ、私達は強い!あなたを今助けます!!」
そして、最後のぶつかり合いがはじまった。
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