第82話 真相

「さて、なんの事だ?」

「・・・おかしいと思ったのは、ここに来て少ししてなの。で、疑念が深まったのが数日前なの。ヴィー、なんでそんなに焦ってるの?」

「はて?」


 息を飲む俺たちの前で、薄ら笑いを作るヴィクトリアさんと、真剣な顔をしているルールー。

 

「それに、さっきの一言、これが決定的だったの。なんでヴィヴィアンに教えるのが最後の教えになるの?」

「っ!!・・・」


 そう言った瞬間、ヴィクトリアさんが口を噤んだ。


「・・・あれは召喚魔法を教えるのが最後と言う意味で・・・」

「ねぇヴィー?もう一つ教えてなの。なんでそんなにフィルフィがの?」

「ぐっ・・・」


 歯噛みするヴィクトリアさん。

 というか穢れている?


「フィルフィはあの化け物と同じ力に汚染されていたの。召喚した幻想生物はヴィーの魂に左右されるの。という事はヴィーは・・・」

「もう、良い。ルールー、それ以上言うでない。」

「汚染されている、の。」

「ルールー!!もう言うな!!!!」


 今まで見たことが無いほど歪んだ表情を見せるヴィクトリアさん。


「か、かあ・・・さま・・・?」


 その表情にヴィヴィアンさんさえ口元に手を当てて驚愕する。

 少し目を閉じ顔を歪ませていたヴィクトリアさんは、そのまま無言だ。

 

 そして、次に目を開けた時には顔をあげ、苦笑していた。


「・・・やれやれ、まったく、同格というのはやり辛くてかなわん・・・」

「か、かあさま?嘘、ですよね?」


 ヴィクトリアさんにヨロヨロと近づくヴィヴィアンさん。

 しかし、手でそれは制された。


「さて・・・卒業試験じゃ。妾を屠ってみせよ!勇者と英雄の子シノブとその仲間達よ!これなる身は魔王なりっ!!」


 そう叫んだ瞬間だった。


 ヴィクトリアさんから放出される膨大な魔力!

 圧倒的な圧力!!

 凄まじい殺気!!

 

 俺たちは反射的に距離を取る。

 足が震える。

 冷や汗が止まらない。


 ・・・あの化け物を前にした時と同じ、いや、ソレ以上かもしれない。


「やっぱり、そう、なの。ヴィーも汚染されていたの?いつからなの?」


 悲しそうにそう言うルールー。

 

「・・・それは、妾を倒した褒美として教えてやろう、ルールーよ。さて、準備は良いかのぅ?今、これより、妾は魔王なり!!ヴィヴィアン!いつまで腑抜けておるか!構えよ!!我が身は、世界の敵じゃ!!娘であろうと容赦はせんっ!!」

「・・・いや・・・いやぁ・・・」


 ヴィヴィアンさんを睨みつけるヴィクトリアさん。

 ヴィヴィアンさんは涙を流しながら顔を振るのみ。


「・・・そうか。ならば・・・腑抜けたまま死ぬがよい!!妾が楽にしてやろうぞっ!!」

「ひっ・・・」


 ヴィクトリアさんがヴィヴィアンさんに襲いかかる!

 させるか!


 【鬼神の血】!【気功術】!【気闘術】!!


「おおおおおぉぉぉっ!!!」


 ヴィヴィアンさんの前に立ちはだかり、ヴィクトリアさんの手刀での斬撃を受け止める。


 ぐっ!?お、重い!?


「シノブ!?え〜い!震えている場合じゃ無いわね!!援護するわ!!」

「ウチも!!」

「アタイが時間を稼ぐさね!行くよ!」

「ボクも行きます!!」


 レイリーとリュリュが魔法の詠唱を始め、キョウカとチユリさんが気功術を全開にしてヴィクトリアさんの間合いに飛び込む。


「甘いわぁ!!」

「うぉっ!?」

「わわっ!?」

「ぐっ!?」

 

 ヴィクトリアさんがもう一方の手を振るうと、影が足元から飛び出し、キョウカとチユリさんを迎撃した。

 辛うじてヒットはしていないものの、俺を含めて弾き飛ばされる。


「まだ呆けておるかぁっ!!この愚娘が!!」

「そんな・・・嘘・・・嘘よ・・・」


 ヴィクトリアさんはそのままヴィヴィアンさんを貫こうと手刀を構え、


「させないっ!『ウィンドスラッシュ』!!」

「ヴィヴィちゃん!!『アクアロード』!!」


 風斬撃がヴィクトリアさんを襲い、水の放出がヴィヴィアンを押し流し強制的に距離を取らせる。

 風の斬撃はそのままヴィクトリアさんを通り抜ける。

 

 斬ったのか!?


「この程度では妾にはダメージを与えられんよ。」


 なんでもないように佇むヴィクトリアさん。

 驚愕するレイリー。


「どうやったの!?絶対当たった筈なのに!?」


 次の瞬間、ヴィクトリアさんは横を見て手を伸ばす。


「ヴィー!!」

「ルールー!!」


 そして、ルールーの魔法とヴィクトリアさんの魔法がぶつかりあい、俺たちは衝撃波に耐える。


 ルールーの魔法が負け、衝撃がルールーの方に流れたが、すぐに障壁で防いだのか、ルールーにダメージは無い。

 だが、ルールーは目を丸くしていた。


「ヴィー、その力・・・」

「・・・ルールーよ。以前の妾と同じと思わぬ事じゃ。先日の戯れの際には使わなんだが、今の妾はこれが標準なのだ・・・忌々しい事にな。」


 吐き捨てるようにそう言うヴィクトリアさん。

 

 どうやら、望んで得た力ではないようだ。


「リーリエ。」

『はい、忍様。』

「解放、でいけると思うか?」

『・・・おそらく、無理だと思われます。』


 悔しそうなリーリエの声。


「何故だ?」

『あれは、前の化け物と同じです。多分、神の力の残滓が取り付いています。スキルでは抗いようがありません・・・』


 そうか・・・


 なら、止めるしかない。

 死力を尽くしてな!! 

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