第76話 元魔族領にて

「ここが元魔族領・・・か・・・」


 見回すが、何も無い平原が続いている。

 草木もあまり無く、ただただ平原となっている。

 

 いや、正確には違うか。

 遠くには山々があり、生き物にも出くわす。


 ただし、元魔族領に来てから出くわした全ての生き物は魔物化していた。

 俺たちは、そんな魔物を屠りながら進む。


「・・・確か、こっちなの。このペースなら、後数日で着くの。」


 ルールーの案内で元魔族領を移動する。


 遠くに見える険しそうな山。

 そこにヴィクトリアさんが隠れ住む住処があるそうだ。


 そう聞いたのは、数日前。

 元魔族領に足を踏み入れた時だった。


 道中、魔物をかなり倒した事もあり、チユリさんも基礎能力を大きく向上させており、移動の速度もかなり速まっている。

 気功術の習熟も進んでおり、魔纒術も習得していた。

 

 魔法についても、風魔法はかなり威力を上げ、火、土もそれなりになっている。

 水はあまり相性が良くないようだ。

 流石に、地脈を利用した魔法はまだ使えない。

 依然、練習中である。


 だが、十分戦力には数えられる位にはなっていた。


 また、レイリー達女性陣ではかなり打ち解けて来ていて、何やら楽しそうに話している時がある。


 ・・・まぁ、そういう時は俺は仲間外れなのだが。


 リーリエもそういう時は俺から離れ、仲良くやっている。

 ・・・ちょっとさみしい。


 まぁ、それはそれとして、元魔族領に踏み込んでからは、とにかく魔物との連戦だ。

 おかげで、チユリさんにかなり実践経験を積ませる事が出来た。

 それも、チユリさんが実力を上げる大きな要因の一つだろうと思う。


 一度、10頭くらいの魔狼に出くわしたのだが、チユリさんが自分だけで戦ってみたいと言ったので、いつでもフォロー出来るようにして戦闘して貰ったのだが、かなり余裕を持って対処していた。


 戦闘終了後、チユリさんも自信の強さに唖然としていて、


「ボク・・・いつの間にこんなに強くなっていたのでしょう・・・でも、嬉しいです!!」


 と、その事に喜んでいた。

 そう思うと、鍛えた甲斐があったというものだ。


 これなら、第二、第三の虎の氏族長のような者が出てきても、苦戦する事は無いだろう。






 しかし、本当に何も無いな。

 こんな環境で、生き延びられるものなのだろうか?

 魔物ばかりで、食料が調達出来ないのではないだろうか?


 そんな俺の心配は、ヴィクトリアさんの住処だった所に近づくに連れ払拭された。


 山の麓には森が広がっており、魔物以外の生き物も見受けられたし、綺麗な水が流れる川などもあった。

 どうしてこんなに山の外と環境が違うのだろうか?

 同じ元魔族領だと思うのだが・・・


『・・・この山を覆うように、結界が展開されておりますね。』

「多分、ヴィーなの。光魔法で結界を張っていると思うの。・・・そこから考えると、やっぱりヴィーは生きているの。」


 そんな俺の疑問は、リーリエとルールーにそう教えられて解消された。


 山を覆うほどの結界、か。

 やはり、ヴィクトリアさんはかなり強い力を持っているようだ。


 どうにかして協力して貰わなければいかんな。

 最低でも、光魔法と闇魔法、それと召喚魔法を教えて貰う。

 そして、あの化け物に対抗する知恵を得なければ!


 後は、レンベルトさんの行方を知っていたら僥倖だ。


 そんな期待をしながら、俺たちは森を抜け、山を昇る。


 そして、中腹に着いた時だった。


「・・・まだあったの。あの洞窟が、ヴィーが根城にしていた所なの。」


 ルールーがそう言って洞窟を指さした。


「どうするの?このまま向かう?」


 レイリーが俺を見てそう言う。


 時間は昼過ぎだ。

 

「行こう。」


 俺はそう決断し、洞窟に足を踏み入れた。







 生活魔法のライトで周囲を照らしながら進む。

 明らかに、人の手・・・と言って良いのかわからないが、整えられている、と感じた。


 洞窟の中はひんやりとしていて、広さは十分にある。

 

 そのまま進む事30分ほど。


 大きな門を発見した。


「・・・最近でも使われているわね。そういう形成があるわ。」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・取り敢えずノックをしてみよう。」


 俺の言葉にみんなが頷く。

 

 ゴンゴン!


 ノックの音が洞窟内に響き渡る。

 ・・・無反応、か。


 少し待っても反応が無い。


「行くの。中はそこそこ広いの。確か、最初に大きな空間があるの。」


 ルールーの言葉に、頷きドアを押し開ける。

 特に閂などは無く、ギギッと音がして扉が開かれた。


 室内は暗い。


 そのままライトの魔法で照らしながら進む。

 すると、


「・・・こんなところになんの用だ?ニンゲン。」


 女性の声。


 すぐに声がした室内の奥を見ると、玉座のようなものがあり、そこに美しい女性が座ってこちらを見ていた。

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