第77話 英雄の吸血鬼?
長い銀髪。
服の上からでも分かる神がかったスタイル。
怜悧であるものの、凄まじく整った顔。
気だるそうに俺たちを見る目。
あまりの美しさに皆声も出ない。
しかし、そんな目の前の彼女からは、強い圧力を感じる。
俺たちを一段高い玉座から見下ろす彼女からは、俺たちを拒絶する印象しか無い。
「何故黙る?ここに来たという事は、それなりに覚悟をしてきた筈だが?勿論、命を失う覚悟を、な。」
「・・・いや、俺たちは・・・」
「・・・」
俺が反論しようと口を開き、横目でルールーを見る。
旧知のルールーであればと思ったのだが、ルールーは口を噤んだまま微動だにしない。
それどころか、目を閉じている。
「まぁ、良い。妾としても、長らくこの住処に来る命知らずはいなかったゆえ、身体が多少錆びついている。ちょうどいいサビ落としになりそうだ。」
玉座から立ち上がり、身体から魔力を放出する。
かなりの魔力量と殺気だ。
・・・だが、まだ本気では無いのだろう。
この力・・・ゴウエンに近いものを感じるが、それでもそれを超える程では無い気がするが・・・
「俺達は戦いに来たわけでは・・・」
「口答えは許さん。さぁ、妾にその力を見せてみよ!」
有無を言わさないその感じ。
どうやら戦いは避けられないようだ。
「シノブ。」
そんな時だった。
ルールーが目を閉じたまま俺を呼ぶ。
「なんだルールー?」
「シノブがアレと戦うの。」
「俺が?」
「そうなの。アレを黙らせるの。」
「・・・まぁ、良いが。」
何故、ルールーはそんなに敵対的なのだろう?
大事な仲間だと言っていたはずなのだが・・・
「ニンゲン、お前が戦うのか?そちらのエルフや鬼族、もしくは精霊に戦わせないのか?それに・・・人魚?何故戦闘が苦手な人魚がそこに・・・まぁ、良い。ニンゲン程度速攻で叩き伏せ、そちらの強者と楽しむとしよう。」
俺を嘲笑いながらそう言うヴィクトリアさん。
レイリーとキョウカ、リュリュから怒気を感じる。
リーリエも同じだ。
無言だが、怒っているだろう。
ならば、
「・・・あなたが英雄だと言う事は知っている。だが、人間の強さ、それも知っている筈だと思っていたが、どうやら見込み違いだったようだ。」
「・・・何?」
ピクリと眉を潜めて俺を見るヴィクトリアさん。
どうやら、挑発に乗ってくれたようだ。
「俺程度に負ける人なら、こちらとしても期待外れだ。」
「キサマァ!!!」
魔力を漲らせ、こちらを睨みつけるヴィクトリアさん。
「さぁ、やろう。」
「身の程を分からせてやるわ!!このニンゲンがぁ!!!」
レイリー達が広間の隅に移動する。
俺も気功術を全開にした。
「消し飛ばしてくれるわ!!」
ヴィクトリアさんが手の平をこちらに向け、無詠唱で火魔法を放ってくる。
かなりの業火だ。
視界の全てが火炎で遮られる。
「舐めるな!!」
俺は水の魔纒術で火への耐性を上げ、そのまま突っ切った。
「むぅっ!?」
「はぁぁぁっ!!」
すぐに気功術に切り替え、突きを放つ。
「こしゃくなぁっ!!」
その突きを腕で受け止めるヴィクトリアさん。
「ぐぅっ!?な、何故ニンゲンにこれほどの膂力が!?ちぃっ!!」
逆の手で振り払うように手刀を斬られる。
その手からは風魔法による斬撃が放たれた。
「ふんっ!!」
「な!?魔法を打ち消しただと!?」
俺は気闘術を瞬間的に発動して、魔法の斬撃を殴り飛ばした。
「隙だらけだ。」
「ぐあっ!?お、おのれぇっ!!」
俺は驚いて止まっているヴィクトリアさんに風の魔纒術を使い、リーリエ曰く、風の砲撃と言うオリジナルの魔法を無詠唱で放つ。
全身を
だが、無詠唱で放っている為、威力が足りず大きなダメージにはなっていないようだ。
もっとも、風の砲弾はかなり強力な魔法ではある。
この程度のダメージしか与えられないのは、ヴィクトリアさんが強者だからだ。
まぁ、プライドはかなり深く傷つけたようだがな。
「キサマァ!殺してくれるっ!!」
「やってみろ。」
目を血走らせて叫ぶヴィクトリアさんを、俺は真っ向から向き合う。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
「はぁ、はぁ・・・馬鹿な・・・二、ニンゲンに・・・」
ヴィクトリアさんは、強かった。
しかし、それでも、ルールーに鍛え直して貰った俺には及ばない。
息も絶え絶えでしゃがみ込むヴィクトリアさんを、見下ろす形の俺。
結局、【鬼神の血】を使う事も無く圧倒する事が出来た。
しかし、疑問が尽きない。
ルールーの話では、ヴィクトリアさんはかなりの強者だと言う事だったが・・・
「う・・・ひっく・・・ひん・・・」
目の前のヴィクトリアさんの目からポロポロと涙が流れる。
な、泣いた?
英雄が?
「もう、分かったの?あなたではシノブにもルールー達にも勝てないの。いい加減、ヴィーを出すの。」
そんな声と共に、ルールーが一歩前にでる。
どういう意味だ?
「な、な、何を言っているの・・・妾はヴィクトリ・・・」
「まだ・・・わからないの?」
「ひっ!?」
ヴィクトリアさんは泣きながらルールーを睨みつけそう言いかけた所に、先程のヴィクトリアさんの放つ魔力を優に超える魔力がルールーの全身から放出され、ヴィクトリアさんは顔が引き攣り悲鳴があがる。
その瞬間、
ボンッ!!!
と音がして、ヴィクトリアさん・・・は、先程の妖艶な姿から、よく似た15,6歳の少女の姿に変わった。
「あ・・・術が・・・」
呆然とする少女。
「な!?」
俺たちは、その変貌ぶりに目を白黒させる。
呆れたようにその少女を見下ろすルールー。
「最初からヴィーじゃないのは分かっていたの。ヴィーはそんなに貧弱じゃないの。」
「くっ・・・!!」
悔しそうにする少女。
そんな時だった。
「なんぞ騒々しいのぅ。懐かしい魔力を感じたと思って起きてきたが、気のせいでは無かったわ。妾の娘をそう虐めるでない、ルールーよ。」
奥の部屋から一人の人影。
俺たちはそちらを見る。
その人影は伸びをしながら歩いてきて・・・
「なっ!?」
「「「『!?』」」」
驚愕しているレイリー、キョウカ、リュリュ、チユリさん、そしてリーリエ。
しかし、俺はすぐに視線を逸らす。
なぜなら、
「ヴィー、久しぶりなの。子供のしつけは・・・ってなんで裸なの!?シノブ!見た!?見たの!?あんなの目の毒なの!!すぐに忘れるの!!」
目を閉じたままそちらの通路を振り返りそう言うルールーが目を開けるや否や叫んだ。
そう、ヴィクトリアさんは一糸纏わぬ裸だったのだ。
その姿は、先程まで戦っていた妖艶な姿。
・・・お、俺には刺激が強すぎる・・・
「シ、シノブ!?あんた見たの!?あれを!?」
「シノブン!!駄目だよ!!すぐに忘れてぇ!!」
「そ、そうだぜ!?ありゃ駄目だ!あんなん反則だ!あれを女の基準にするんじゃないよ!!良いね!?」
「あわわわわわ・・・シ、シノブさんが悩殺されちゃいますぅぅ!」
『忍様!!すぐに忘れて下さい!!駄目!駄目ですぅ〜〜〜!!』
レイリー、リュリュ、キョウカ、チユリさん、リーリエが俺に詰め寄る。
・・・あ、あんな衝撃忘れられるか・・・初めて、おふくろ以外の女性の全裸をモロに見てしまった・・・
リュリュの時は布団で下半身が隠れていたから見ないように出来たのに、突然過ぎてモ、モロに・・・
「かかかっ!何やら楽しそうな気配を感じるのぅ?愉快愉快!」
「もうっ!ヴィーは相変わらずなの!!!この愉快犯め!なの!!!さっさと服着て来いなの!!!」
ケラケラと笑っているヴィクトリアさんとプリプリと怒っているルールー。
「か、かあさま・・・」
そんな面々を固まって見ている少女。
最初の顔合わせはそんな混沌の中で始まったのだった。
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