第7章 吸血鬼のお姫様

第75話 獣人の集落を出発してから

 俺たちが獣人の集落を出発してから一週間が経った。


 俺たちが元魔族領に行って帰って来るまでの間で、獣人達は引っ越しの準備を進めるそうだ。

 一応、簡易的な荷車のような物も準備してくれるらしい。

 

 引く動物はいないが、力に自信がある獣人が引いてくれるそうだ。

 それなら、体力に自信の無い者や、チユリさんの母親のように病気になっている者も問題なく移動できるだろう。


 


「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「よし、今日はここで野営しようか。」


 俺たちは、基本小走りで移動している。

 

 と、言っても、普通のペースよりかはかなり早い。


 現に、チユリさんは汗を拭って息を荒らげている。


「み、皆さん、本当に体力おありなんですね・・・ぼ、ボクもかなり自信があったのですが・・・」

「ああ、いっぱい訓練したからね〜。」

「そうだよぉ。大変だったんだよぉ?それに魔纒術もあるしねぇ。」

「アタイの場合は気功術だけどな。チユリも気功術が使えるんだから、もうちょっと訓練すれば、もっと楽になるさね。」

「が、がんばります!!」


 一応、レイリーやリュリュ、キョウカは汗こそかいているものの、息はそこまで荒らげてはいない。

 まぁ、レイリーやリュリュに比べたらキョウカはかなり余裕がありそうではあるがな。


 そして余裕な者がもう一人。


「鍛え甲斐がありそうなの。ルールーもレナにいっぱい走らされたの。懐かしいの。」


 ルールーだ。


 その小柄な身体のどこにそんなにスタミナがあるのかわからんが、余裕が窺える。


「まぁ、おいおい、だな。まずは、気功術をもう一段高めよう。それだけで、多分チユリさんもあの虎の氏族長に喰らいつけるくらいにはなるはずだ。」

「・・・はいっ!」


 うん。

 素直な子だ。

 こういう子は伸びるな。


 俺には転生前に仲間が居なかったから、人に教えるというのはこちらに来てからしか経験は無いが、それでもディアのみんなやレイリー達に教えた事で経験は積んでいる。


 その経験上、こういうタイプは成長が早い。


『チユリさん?あなたは獣人ですので、身体能力は元々かなり高いのです。気功術を極めれば、とても強くなれると思いますよ。忍様が言った通り、まずは発動時間を伸ばし、そして細かいところまでしっかりと操作出来るようにするのです。それに、あなたの適正魔法はレイリーと同じく風ですので、魔纒術と併用出来れば、更に速度を出すことが出来るでしょう。』

「あ、ありがとうございますリーリエさん!」


 リーリエも、俺と共に試行錯誤しながらスキルを成長させて来た為、ノウハウはしっかりと持っている。

 それになんというか・・・なんとなくだが、もしリーリエに身体があったら、実際に出来るような気がするんだよな。

 そんな風に思えるほど、的を得た指導なんだ。


 野営の準備をして、まもなく夕暮れだ。

 食事の支度は俺が担当し、みんなはチユリさんの訓練に付き合っている。


「せいっっ!!」

「お?大分威力が上がって来たな?だが甘めぇ!」

「くっ!?」


 今はキョウカと組み手をしている所だ。

 

 その前にはリュリュと魔力合わせという魔力を放出してぶつけ合う訓練をし、この後はレイリーを相手に風魔法を使用したぶつかり稽古だ。


 これは、毎日やっている。


 チユリさんたっての希望だ。

 

 正直、長距離を走るのでへとへとだろうが、それでも欠かさずやっている。

 少しでも早く強くなりたいそうだ。


 だから、俺は食事での栄養面と、もう一つを受け持っている。

 それは・・・






「さて、今日もやるとするか。」

「・・・は、は、はい!お、お願い・・・し、します・・・」


 俺の前で、半裸でうつ伏せになっているチユリさん。

 耳まで真っ赤になっている。

 

 俺は、その背中にとある植物から抽出した液体を塗り・・・おもむろに背中に手を伸ばす。


「ひゃん!?」


 触れた瞬間、チユリさんから声が漏れる。


「・・・ふっ・・・ん・・・はぅ・・・♡」


 俺が小刻みに手を動かすと、チユリさんは声を押し殺して息を漏らす。


「・・・どうだ?」

「気持ちいい・・・ですぅ・・・んんっ♡」


 チユリさんから艶っぽい吐息が漏れる。






 ・・・平常心だ。

 忍!平常心になれ!!


 これはあくまでマッサージだ。

 

 そう、俺は指圧をしている。


 かなり筋肉を酷使しているからな。

 このマッサージは、昔おふくろにしていた指圧だ。


 気功術も併用しているので、効果が高いようで、翌日に疲れは残らないと聞いた。

 

 俺も、親父の訓練でいつも筋肉疲労があったから、最初はおふくろがしていてくれたんだが・・・いつの間にか逆転して俺がおふくろに指圧させられてたんだ。


 かなり仕込まれており、それなりに自信がある。


 最初にチユリさんにこれを始めた時の事を思い返す。

 





「よし、チユリさん、上を脱いでそこに寝そべってくれないか?」

「え!?」

「「「「『はぁ!?』」」」」


 辛そうなチユリさんを見るに見かねて、少しでも疲労を軽減するためにマッサージををしようと思い、申し出た時だった。


「え!?あ!そ、その・・・ぼ、ボク初めてで・・・で、出来ればもう少し覚悟が出来てからというか・・・その・・・出来れば二人だけの時に・・・」


 何故か真っ赤になって焦っているチユリさんと、


「ちょ、ちょっとシノブ!?どういう事!?」

「そうだよぉ!!シノブン!!順番があるでしょう!?」

「お、おい!シノブ!お前そんなに溜まってたのか!?だ、だったらアタイが身体を張るっての!!」

「むぅっ!シノブのスケベ!これがレナの言ってたおっぱい星人ってヤツなの!!」

『し、し、忍様!?ひ、ひ、酷いですぅ!私というものがありながら!!』


 何故かみんなから責められる。

 

 俺は自分が何故そんなに責められているのか理解できず、疲労軽減の為にマッサージをする旨を伝えたのだが・・・


「「「「『紛らわしい!!』」」」」

「・・・うう、ちょっと残念かも・・・です・・・」


 何故か怒られてしまった。


 まぁ、そんなこんなでマッサージをする事になったのだが、やりはじめて気がついた。


 これ、かなり照れる!

 

 女性へのマッサージなんて、おふくろにしかしていなかったから、こんなに恥ずかしくなるものだとは思わなかった!


 それに・・・


「じゃ、次はわたしの番ね?」

「その次はウチ!」

「・・・あ、アタイも頼むぜ・・・?」

「勿論ルールーもなの!差別はいけないの!」


 そう、何故かそんなに疲労が溜まっていないだろう、レイリー達もマッサージする事になってしまった。

 

 これがまた、照れくさい。


「あん・・・し、シノブ上手ぅ・・・♡」


 レイリーも


「はぁん・・・あ♡・・・し、シノブン・・・♡」


 リュリュも


「・・・ぅっ♡・・・ひぃん♡・・・はぅ♡・・・が、我慢!が、我慢だよアタイ!・・・ふっ♡」


 キョウカも


「・・・ん♡・・・シノブ、次は前なの。特に、胸の辺りを触るの。大きくするの。」


 ルールーでさえも色っぽくてかなわん!!

 こちとら、年頃の男の身体なんだ!

 色々我慢するのがきつい!!


 それにルールー!それは無しだ!!


『うう・・・みんなずるいぃぃぃ!!!!私も・・・私も・・・ふぇ〜ん!!』


 リーリエに至っては情緒不安定になってしまった。

 というか、私もって・・・どうしろと?


 まぁ、そんなこんなで更に一週間が経過し、無事元魔族領に到着するのだった。

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