（本編完結済み）孤独な前世と異世界転生による第２の人生〜賑やかと騒がしいの違いがわからん〜

第71話 天誅

「き、貴様ら一体･･･」

　ん？

　ようやく俺たちが普通じゃないことに気がついたのか？

　だが、許してやらん。

「良いからとっととかかって来い。さっきのは手加減してたんだろう？」

　指でちょいちょいとしてやると、煽り耐性が低いのか、すぐに青筋を立てた。

「調子に乗りやがってニンゲンがぁ！！死ね！死ねぇ！！」

　中々鋭い攻撃が飛んでくる。

　動き回っていてそこそこ早い。

「･･･」

「どうしたぁ！さっきのはやっぱりまぐれだな！さっさと死ねぇ！！」

　無言で俺が躱し続けていると、ニヤつきなからそんな風に叫んだ。

　ほう？

「なら、攻撃しよう。」

「何？ぎっ！？」

　ゴキィッ！！！

　俺は、相手の爪による上からのなぎ払いを半身で躱し、振り下ろした手の逆側に瞬間的に気闘術を使用し蹴りを当てた。

　骨をへし折る感触があった。

「次は腹だ。耐えろよ？」

「てめ･･･ごふぅ！？」

　同じように、腹に突きを打つ。

　これは、修行の成果の一つだ。

　止めの一撃だけじゃなく、瞬間的に気闘術を使い、根本的な攻撃力の上昇を図っているのだ。

　これは良い練習相手だな。

「な、なんでニンゲンがこんな力を･･･」

　顔色を変えた氏族長。

　そんな狼狽していて良いのか？

「足。」

「があっ！？ぐぅぅぅぅぅ！？」

　虎の獣人の太い腿（もも）に足刀を当てる。

　勿論、気闘術を使用して、だ。

　蹴りが直撃した場所は、おそらく筋断裂を起こしているのだろう。

　動きは完全に止まっており、足を押さえている。

「こ、こんな事をして、ただで済むと思うなよ！？おい！てめぇら何やってやがる！！ニンゲンが獣人を奴隷にしようと攻めてきてるんだぞ！てめぇらも手をかさねぇか！！」

　虎の氏族長の言葉に戸惑う遠巻きに見ている獣人達。

　しかし、

「違う！あの人達は、ボク達を助けてくれてるんだ！あの人はイービルウルフの群れからボクを助けてくれた！それに見てよ！彼の仲間には、エルフ種も、人魚種も、鬼族や精霊族だっている！ボクには彼女達がイヤイヤ戦っているようには見えない！！今だってボクが彼に頼んだから、彼らは戦ってくれているんだ！！」

「てっめぇチユリィィ！！！獣人の誇りもねぇのかキサマァ！！」

　俺たちを弁護しようとしたチユリさんの叫びを聞き、目を剥いてチユリさんを睨む虎の氏族長。

「うるさい！！お前が･･･やりたい放題やってたお前が獣人の誇りを語るなぁ！！獣人の誇りを持たないのはお前の方だ！！」

　チユリさんが叫んだ。

　まさかチユリさんにそんな事を言われるとは思っていなかったようで、明らかに狼狽えている氏族長。

　だが、次の瞬間ハッして、チユリさんを睨みつける。

「て、てめ･･･」

「そ、そうだ！！」

　言い返そうとした虎の氏族長の言葉を遮るように、遠巻きに見ていた獣人から声が上がる。

「お前の方が面汚しだ！！」

「そうよ！！このクズっ！！私の夫を返して！返しなさいよ！！お前が殺した私の夫を返せぇ！！！」

「俺の妻をよくも辱めてくれたなこのクズ野郎！！」

「私の娘もよ！！この獣人の面汚し！！」

「なっ･･･？」

　獣人達からの罵声が虎の氏族長に飛ぶ。

「て、てめぇらが弱いからいけねーんだろうが！！」

　それに怒鳴り返す虎の氏族長。

　そうか。

　お前がそう言うなら仕方がないな。

「ほう、なら、お前も俺より弱ければ、どうなっても良いという事だな？」

「な、そ、それは･･･」

　俺が一歩近づきながらそう言うと、明らかに氏族長は狼狽え、後退りし始めた。

　キョロキョロするも、既に氏族長の仲間が皆ボロボロになって倒れている。

「男なら、一度言った事を翻してはいけないそうだぞ？少なくとも、俺の大事な相棒はそう言って俺を叱ったからな。」

『あら？男性を叱咤激励するのも、支える女性として大事なことだと思いますよ？』

「だとさ。」

「な！？メスの声！？ど、どこから声が！？」

　さて、そろそろ終わらせるか。

「チユリさん！それに獣人達！俺は今から、あなた達を苦しめた罰としてこいつを打ちのめす！人間の俺が打ちのめすんだ！文句があるか！？」

「「「「「「「「「「「「「無いっ！！！！」」」」」」」」」」」」

　大声で返事が返ってきた。

　思わず、にやりとしてしまう。

「うっ！？」

「さて、男なら責任を持て。俺もそうする。もう一度言うぞ？歯を食いしばれ！！」

「ま、待ってくれ！俺が悪かっ･･･」

「行くぞ！！」

「ひぃっ･･･」

　気闘術発動！

「ふんっ！！！！」

「あがっ･･･！？」

　ゴキゴキゴキィッ！！！！！！！

　横面を殴る。

　頬の骨を砕く音。

　先程顎を殴った時に無事だった歯が全て砕かれる感触がある。

　そのまま吹っ飛んでいく氏族長。

　そして氏族長の家を突き破った。

「「「「「「「「「「「「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉ！！！！！！」」」」」」」」」」」」」」」」」

　遠巻きに見ていた、虐げられていた獣人達から歓声が聞こえる。

　よし、これで終わったな。

　笑顔のチユリさんが駆け寄って来るのを見て、頬を緩めながらそう思うのだった。