第70話 獣人の集落にて

sideチユリ


「さて、チユリィ?ノルマは達成できたのか?え?」

「・・・」


 今、ボクはノルマを届けにクヴァイのいる集落の中心まで来ている。

 

 周囲には、同じように狩りの成果を虎の氏族に献上しに来た他の氏族の者や、心配そうにボクを見ている者達がいる。


 お母さんは、ボクの住んでいる掘っ立て小屋で横になっている。

 病気のお母さんは動けないんだ。


 ニヤニヤとしている虎の氏族の者たち。

 

 オスも、メスも、みんな意地悪そうにボクを見ている。


 この集落は、全部で60人くらい。


 そのうち、虎の氏族は20人くらいいる。


 最初は、みんなでクヴァイに反抗しようとしたんだ。


 でも、反抗した者が残虐に殺されてから、誰も手出しができなくなった。


 ボクは、多分クヴァイ以外にはなんとか戦えると思う。

 ボクの血は少し特別な狐の血を持っているらしく、他の狐の獣人なんかよりも強いんだ。

 でも、今はまだクヴァイには敵わない。


 あいつは、虎の獣人の中でも、特別強いみたいで、誰も逆らえない。


「おい、どうしたんだ?ノルマはどうした?」

「・・・今日は、無い。」

「お?なんだぁ?ついに諦めたか?おい!聞いたか!こいつはノルマを達成できなかった!よって罰を与える!今から、俺の寝所に来い!可愛がってやるからよぉ?俺が思う存分やった後は、お前らにも回してやるよ。」

「ひゅ〜♪さっすがはボスだぜ!」

「おお!あの乳を好き放題できんのか!!たまんねぇなぁ!!」


 クヴァイが鬼の首をとったかのように大声で叫んでいる。

 表情を醜く、いやらしく歪めており、それは、他の虎の獣人も同じだ。


「はっ!ちょっと強いからって生意気だからそんな目に遭うってんだよ!」

「ひゃはは!ざまあねぇなチユリちゃ〜ん?」

「キャハハハ!なんだったら、ボスの後、ここで犯ってもらえば〜?処女のチユリちゃ〜ん?みんなに見てもらおうね〜?」


 ・・・気持ち悪い。

 メスを欲望のはけ口としか見ていない目。

 なんて醜い・・・


 あの、シノブってニンゲンのオスとは大違いだ。


 彼は、目つきこそ鋭い感じはしたけど、その目の奥は温かい感じがして、優しさに溢れていた。

 こいつらとは大違いだ。


 彼がボクを助けてくれた馬を救った時、深くにも僕はドキッとしてしまったってのに・・・なんて情けないオスどもなんだ。


 でもそれは、メスの虎の獣人も同じ。

 

 嘲りの目でボクを見ている。


 シノブって人の周りにいたメス達と比較にならないくらい醜い。

 その目も、容姿も。


「おしっ!そうと決まれば文句がある奴はいねぇな!?まぁ、弱いお前らには文句も言えねぇか!なっさけねぇクズどもがっ!!弱い奴が悪いんだよっ!!・・・よし!チユリ!早速俺の寝所へ・・・「文句ならあるぞ?」・・・何!?誰だ!!そんなふざけた事を抜かすのは!!」


 ああ、来てくれた。


 ボクはバッと声がした方を見る。

 そこには、


「二、ニンゲン!?ニンゲンだと!?何故ここにニンゲンが!?」

「おい!?どういう事だ!?」

「あ、あれはエルフ!?それに鬼族や・・・人魚もいる!?」

「あっちのチビは精霊族じゃないか!?なんでこんな所に!?」


 彼らはちゃんと来てくれた。


 虎の氏族も、他の獣人も、みんなざわざわとしている。


「てめぇ!劣等種族の分際で俺に意見しやがったか!!」


 殺気混じりに睨みつけるクヴァイ。

 そして、その周りの虎の獣人達。


「うん?外道に種族も何も無いだろう?」

「キサマァ!!八つ裂きにしてやる!!てめぇらは他の女どもを捕まえろ!!殺すなよ!嬲りものにしてやるっ!!」


 虎の氏族が臨戦体制に入った。


 しかし、


「はぁ?あんた達には出来るわけないじゃない。」

「そうだよぉ?カッコわる〜い!」

「まったくだねぇ?頭の中、お花畑なのかい?」

「身の程を知るの。愚かなにゃんこ共。」


 まったく動じる事無く言い返すレイリーさん達。


「てめえらぁ!さっさとその女どもを黙らせ・・・」

「おい、にゃーにゃー言ってないでさっさと来い。それとも、口喧嘩がしたいのか?」

「き、き、キサマァ!!!!」


 シノブって人の挑発でクヴァイが激昂した。


「チユリさん!他の人を避難させてくれ!」

「はいっ!!」


 クヴァイがシノブって人に飛びかかるのと同時に、他の虎の氏族もレイリーさん達に襲いかかった。



side 忍


「死ねェェェ!!ニンゲン!!」

 

 虎の氏族長と思われる奴が飛びかかってきた。

 中々に早い。

 これ、気功術が使えているな。

 チユリさんも使えているようだから、こいつも使えると思っていたんだ。

 

 だが、


「っ!?」


 俺はその攻撃を躱した。


 この程度、ゴウエンにも遠く及ばない。


 さっきまでのこいつのチユリさんに言う物言いは聞いていた。

 飛び出しそうになるくらい頭に来た。


 拳をぎゅっと握る。


「歯ぁ食いしばれっ!!」

「なっ・・・!?アギャ!?」


 顎を思い切り突き上げる。

 牙が飛び散る。

 気功術は使っているが、気闘術は使っていない。


 衝撃が脳まで抜け、一発で気絶したようだ。


「ボスッ!?」

「嘘!?」


 周囲の虎共が驚く。

 呑気に驚いていていいのか?


「戦闘中によそ見してるなんて余裕ねぇ?性格悪い猫ども、耐えなさい?『トルネード』!」

「「「ぎゃああああ!?」」」

 

 レイリーの魔法が、数人の虎の獣人を飲み込んだ。

 あの中は凍てつくような寒さと風魔法による裂傷が常に襲っている。

 一発で戦闘不能だろう。


「くっ!エルフ風情が・・・」

「それを言ったら、あなた達は猫ちゃんだねぇ。『ウォータースプラッシュ』!」

「「「あぐっ!?がっ!?ぐぉっ!?」」」


 リュリュの放つ魔法は多数の水の礫・・・というより塊が、絶え間なく効果範囲にいる者を襲う。

 終わる頃には立ち上がれないほどボロボロだろうな。


「な、なんだいこいつらは!?くっ!このぉ!!・・・へっ?」


 女性の虎の獣人がキョウカの腹に一撃入れた。

 というよりも、多分キョウカはあえて受けたんだな。

 格の違いを教える為に。


 なにせ微動だにしない・・・表情すら変えていないし。



「へぇ?アタイの腹はどうだったんだい?じゃ、次はアタイの番だねぇ?」

「あ、や、ちょっ・・・待っ・・・」

「一撃は一撃さ!性根を叩き直してやる!!そらっ!」

「ごっ・・・ふぅ・・・!?」


 おお、重い一撃だな。

 くの字に折れた獣人の女性は、色々とそこら中から液体を垂れ流しながら沈み込んだ。


「・・・っ!?・・・がっ!?」

 

 そして腹を押さえてゴロゴロと転がっている。

 腹の一撃じゃ気絶もできないし、痛みは続く。 

 えぐいな。


「おやおや、猫がころころとまぁ、可愛いもんさね。さて、次はあんただね?」

「あ、あ、あたしは・・・や、やめ・・・」


 キョウカは次に、それを呆然と見ていた虎の獣人の女性を見た。

 すると、その女性の足を液体が伝う。


「ん?なんだい?嬉しくてお漏らしかい?そりゃ張り切らないとねぇ!!」

「ひっ!?や、やだ・・・許し・・・ぎゃっ!?」


 そして、もうひとりも転がっている女性と同じ状態になった。



「ガキがぁ!」

「むっ!ルールーはこう見てて、子猫の何倍も生きているの!!」

「うるせぇクソがき・・・な、なんだこれ!?」

「う、動けない!?」

「離せぇ!離してくれ!!」

「悔い改めろ汚いにゃんこ共『グラウンドプリズン』」

「はぁ?ごっ・・・!?」

「ぐへっ!?」

「がぁぁぁっ!?う、う、腕がぁ!?」

「ぎゃあああ!?足ィィぃ!?」


 ルールーに襲いかかった奴らは、もっと酷い事になっている。

 ルールーは無詠唱で地面から土の手を生やし、周囲の虎の獣人達の足首を掴んで動けなくして、その後、檻を作り上げその中を岩が飛び交うという極悪な攻撃だった。


「それ、潰れろ!お前らにそんなのいらないの!」

「あぎゃぁぁっぁ!?」

「ぎひぃぃぃ!?」

「ごぉぉぉぉぉ!?」


 うおぉ・・・えげつない・・・ルールーは指揮者のように指を動かし・・・男の虎獣人たちのアレを狙い撃ちし始めた。

 檻の中は阿鼻叫喚だ。

 ・・・怖ぁ。


「ぐっ、て、てめぇニンゲンの分際で・・・な、なんじゃこりゃ!?仲間が・・・」


 お?

 ようやく目が覚めたのか。

 一撃で意識を失ってたからな。


 で、周囲の惨状を見てようやく自分の立ち位置が分かったようで、顔を青くしている。

 

 だが、まだだ。

 お前らが今までしてきた事のツケを支払わせてやる。


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