第66話 この先を生き抜くために
「やっぱり、ヴィーがいる可能性が高いのは魔族領なの。地図はあるの?」
「ああ、一応な。リーリエと一緒にマッピング?というのか?マッピングしたのがある。」
「ちょっと見せて欲しいの。」
「ちょっと待ってくれ・・・これだ。」
俺はアイテムボックスから地図を取り出した。
この地図は、リーリエの指示と、みんなで確認しながら作ったものだ。
現在、俺の自宅を中心に、ディアや鬼族が居住していたところ、エルフ族が暮らしていたところ、更には、レガリアやゲン、ララさん達からも聞き取りして、エルフの国があった場所や鬼族の国があった場所、人魚の里がある場所なども大まかには書いてある。
地図には、リーリエが教えてくれたこの世界の形に沿って、位置関係がわかる縮図・・・というか、世界地図のようなものが一枚。
そして、この近辺や資源がある場所をわかりやすく拡大したものが数枚だ。
ルールーはそれをじっと見る。
「・・・おそらくだけど、現在地はこの位置であってるの。で、魔族領は・・・ここなの。」
「・・・遠いな。」
かなり遠い。
先日の鬼族が避難していた場所よりもずっと距離がある。
「なぁルールー。ここから魔族領まで行くと、日数的にはどれくらいになりそうだ?」
「・・・普通に歩いて行くなら、半年はかかるの。この前、ルールーの居た森から走って帰ったくらいの速度でも・・・25日はかかるの。」
『となると、調査期間を10日とったとして、最低二ヶ月近くかかりますね・・・』
二ヶ月、か・・・長いな。
だが、あの化け物への対策もある。
ルールーよりも知識があるというヴィクトリアさんには是非意見を聞きたいところだ。
それに、もしかしたら未だ手がかりすら無いレンベルトさんの行方も何かわかるかもしれない。
やはり、行くしかないようだ。
「さて、ここで考えるのは、全員で行くかどうか、だ。」
俺は、レイリー達を見回す。
「わたし達が全員で行けば、ここの防備は間違いなく弱くなるわよね。」
「でもぉ、二ヶ月は長いよぉ?あのわけのわからない奴に出くわした時に、戦力は多いほうが良いんじゃない?」
「いや、どうだろうな・・・アタイらがどこまであの化け物に食らいつけるかわからねぇ。前よりかは戦えるだろうが・・・まだまだまともには勝負できねぇだろうな。」
「でも、レイリーもリュリュもキョウカもかなり魔法の腕を上げているの。逃げに徹すれば、撹乱して逃げ切れる可能性は高いの。ただし、化け物がここに来る可能性もあるの。その場合、ここにいる誰かがいなければ、防衛を選んだら多分全滅するの。」
・・・どうするか。
正直、今、俺はこのディアを第二の故郷だと思っている。
できれば、みんなに命を散らしてほしくない。
誰かが残れば、一人でも助かる可能性が高くなる。
俺たちは考え込む。
『忍様・・・よろしいでしょうか?』
「リーリエ、遠慮なく言ってくれ。」
『では・・・個人的には、全員で行動した方が良いかと思います。その方が安全に旅を出来ますし、道中ルールーに鍛えて頂く事も出来ます。それは、結果としてディアの安全に繋がります。』
「確かにそうだ。だが・・・現実的にこの村の防備は弱くなる。」
『はい。ですから・・・みなさんに聞いてみたらどうでしょうか?』
みんなに聞く?
『良いですか、忍様。あなたは、ディアに住む全ての者から長だと認められています。』
「いや・・・それは・・・」
『忍様がどう思われようと、それは事実です。レイリー達もそう思いますよね?』
俺がみんなを見ると頷いた。
『その長が、今後の事を考えて旅に出ると言っています。本来であれば、まとめるものが旅に出るなどありえません。しかし、あの化け物のような存在がいる限り、危険性はここでも同じことです。』
・・・まぁ、極論を言えば、な。
『そして、この村に住む者は、訓練をつみ、多少の魔物であれば問題なく倒せるようになりました。そうそう犠牲が出るとは思えません。』
「だが、あの化け物は・・・」
『ですから、そこでみんなに聞いてみるのです。可能性は旅先で出くわすのも、ここにあの化け物が来るのも同じ。で、あれば、私の予想では皆さんは少しでも忍様の安全姓をあげる事にすると思いますよ?』
・・・そう、だろうか?
「ま、リーリエの言う通りじゃない?明日聞いて見ましょ?」
イマイチ納得しづらいが、レイリーのそんな言葉で、俺は翌日みんなに聞いてみる事にした。
「リーリエ様のおっしゃる通りですな。シノブ殿は皆様でいかれるべきです。」
「そうだぜ!大将に何かあったら、万が一があった時に再起がはかれねぇ!」
「わたくしも同意見ですね。極論を言えば、シノブさん達さえいれば、万が一その化け物がここを襲ったとして、無理に抵抗せずに散り散りに逃げて生き残った場合、いくらでも立て直しは出来ますから。」
みんなを集めて話をしたが、レガリアも、ゲンもララさんもリーリエと同じ意見だった。
同じように他のみんなも頷いている。
「・・・だが、それで犠牲が・・・」
「そりゃシノブ殿も同じでしょう!」「そうだ!俺たちも頑張ってます!シノブ殿が帰るまで守り切ってみせますから!!」「安心してシノブ殿!男達だけじゃなくてあたしたちも頑張るから!」「そうよ!シノブ殿!」
難色を示した俺に、口々にみんながそう叫んでいる。
「シノブ殿。皆の者もそう言っております。」
「おう!大将!安心しろって!」
「うふふ。シノブさん?みんなあなたの為に頑張りたいのですよ?わたくしも、微力ながらお手伝いしますよ。人魚の里は全面的にディアの為に尽力しますから安心して下さいな?」
「・・・ありがとう。」
胸が熱くなる。
これが、仲間と共に生きる、という事か。
一人きりだった前世と違い、俺にはこれほどに頼れる仲間がいるんだ。
この幸せ、この信頼に報いる為にも、ヴィクトリアさんを見つけて、あの化け物に対抗するための情報や、力を手に入れなければ!
「みんなの覚悟は分かった。ならば、明後日俺たちは魔族領に向けて出発する!向かうメンバーは俺、レイリー、リュリュ、キョウカ、ルールー、そしてリーリエだ。」
「当然でしょ!」
「うん!ウチも頑張るよぉ!」
「へへ、久しぶりの長期の旅だねぇ。気合が入るってもんさ!!」
「ヴィーは必ず見つけてくるの。きっとヴィーは協力してくれるの。それまで、シノブ達はルールーが守るの。心配いらないの。」
全員が不敵に笑っている。
ああ、なんと頼もしいのか!
『忍様、私も一人と数えて頂きありがとうございます!とても・・・とても嬉しいです!!』
「当たり前だろう?リーリエ、君は俺の相棒だ。大事な相棒だよ。頼りにしている。」
『忍様・・・はいっ!!!』
嬉しそうなリーリエの声。
だが、嬉しいのは俺も同じ、俺には君が必要だ。
一緒にこの世界を生き抜こう。
死が二人を分かつまで。
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