第65話 地魔法を学ぶ

 ルールーからおふくろ達の仲間の事を聞いた後、俺たちはヴィクトリアさんを探しに行くための打ち合わせを行い、翌日から旅立ちのための準備を始めた。


 まず、エルフ族のレガリア、それと鬼族は、ルールーの所で仮死状態になっていた者で、鬼族では一番年輩の大工のゲン、人魚族はララさんをそれぞれのまとめ役とし、俺たちのいない間のディアを頼む事にした。


 俺たちが英雄の一人であるヴィクトリアさんを探しに行くという事を伝えた後、最初は驚いていた村のみんなも、すぐに納得してくれた。

 場合によっては、ヴィクトリアさんもこの村に来てもらうかもしれないと伝えてもそれは同じだった。


 俺は、魔族がディアに来るかもしれない事に思うところはないかを聞いたのだが、レガリアもゲンもララさんも苦笑した。


「魔族であっても、楽しく暮らせるように、それがこの村の理念でございましょう?」

「ははは、シノブ殿の事は、ここに来て他の者からもたくさん聞きましたぜ?あっしらの大将として申し分ありませんでさぁ!大将の言うことに従う、文句も無し!それで良いじゃねえすか!」

「うふふ。シノブさん?わたくし達は、もう種族の垣根を越えた関係ですよ?今更、魔族だから、だとかで差別や区別をしたりしませんよ。その方が善良な方である限り、どんな種族であってもよろしいと思いますよ。」


 そう言って貰えると助かる。

 俺個人としては、ヴィクトリアさんには色々と教示して頂きたいので、是非ディアに来て貰いたい所ではあるのだ。





 住民の理解も得られたので、次に俺たちがすべきことは、物資の準備と、ルートの構築、そして・・・実力の向上だ。


 力の向上は、一朝一夕にはいかない。

 だが、一つだけ激的に変わるものがある。


 それが・・・


「・・・そうなの。魔法の威力を上げるコツは、大地に流れる地脈を如何に感じられるか、が大事なの。勿論、地脈を利用しなくても放てるの。でも、威力は段違いなの。そして、更に威力を上げるには、火魔法であれば空気中の酸素や、燃える空気と呼ばれるガスというものを意識したり、風魔法であれば嵐の時の強風やかまいたちと呼ばれる現象の理解、水魔法であれば・・・」


 そう、地魔法の習得だ。


 地魔法については、俺は相変わらず高威力で、レイリーも相性が良いらしい。

 リュリュは普通で、キョウカも相性が良いようだ。


 そして、更にはルールーによる魔法の講義。

 おふくろから教わったというコツの教示だ。

 リーリエ曰く、科学的アプローチによる威力の増大、だそうだ。


 なかなか想像しづらいが、ルールーが実際にやって見せる事で、ルールーが使える風、地、水は問題なく威力が上がった。


 火はあまり得意では無いらしい。


 というか、当たり前のように複数の魔法を行使できる事に驚いた。


「その辺はレナのおかげなの。レナが言うには、得意不得意はあれ、どんな種族でも魔法自体は使えるようになる、らしいの。ただ、”相性があるので、一人一つの属性しか使えない”という、前のバカ神が広めた教えのせいで、呪のように使えないって思い込んでいるだけなの。ルールーは、それを払拭して貰ったから使えるの。ただ、光と闇の属性については、ヴィーしか使えなかったの。」


 という事らしい。

 是非とも、ヴィクトリアさんにその属性について教えて貰いたいものだ。


「ヴィーは凄いの。光、闇、そして召喚魔法が使えるの。」

『!?ル、ルールーさん!その辺の事を詳しく!!!』


 お、おお?

 リーリエの食いつきが凄いな。

 召喚魔法というのは、そんなに凄い魔法なのか?


 まぁ、その聞き取りはリーリエに任せて、俺は俺に出来ることを一つ一つやっていこう。


 まずは、地魔法をある程度使えるようにしなければ。


「九十九忍が命じる。地よ!礫となり、我が眼前の敵を討ち滅ぼせ!!『ロックバスター』!」


 俺の眼前に、50センチ位の岩の塊が浮かび上がり、目標に向かって飛ぶ。

 

「シノブ流石なの!もう、地魔法 中くらいにはなっているの!後は、地脈を利用出来れば及第点なの!!」


 ・・・それが難しい。

 中々地脈というのを感じ取れない。


 どうしたものか・・・


「シノブ、思い出すの。あの時、あの化け物が聖樹を倒した時、何か気が付かなかったの?」


 あの時・・・か・・・


 確か、聖樹が光って・・・そういえば、あの瞬間、あの化け物に何かの力が流れていたな。

 そして、聖樹は地脈を使ってあの化け物を遠くに飛ばしたとルールーは言った。


 ということは、あの時感じた力は地脈の力って事だ。


 目をつぶって集中する。


 少しの間そうしていると、地面の下の奥深くに何やら力が流れているのに気がついた。

 いや、実際に動きがあるわけでは無い。


 これは・・・魔力の流れだ。


 地面の奥深くに、何かの流れがある。

 そして、その流れは地面の上に湧き出ているような感じがする。


 これを辿ればもしかしたら地脈を辿れるのではないか?


 ・・・くっ、これはきついな・・・


 これを汲み上げて使うイメージ・・・俺の身体に溜めて・・・






 くっ!?

 

 凄まじい魔力の流れだ!気を抜くと持っていかれそうになる!!


「・・・九十九忍が命じる。地よ!礫となり、我が眼前の敵を討ち滅ぼせ!!『ロックバスター』!」


 先程と同じ詠唱をし、汲み上げた魔力を上乗せして放つ。


 眼前にある岩は先程の倍ほどになり、放たれる速度も上がった。

 

 ドゴーーーーーーン!!!


 直撃した目標物が砕け散る!


 俺はあまりの疲労に思わず片膝をついた。


「シノブ!そう!!それなの!!凄いの!!もう出来たの!!」


 ルールーが笑顔で駆け寄ってきた。


「ぐっ・・・だが、これはきついな・・・凄まじい集中が必要だ・・・」

「慣れなの!いずれは、簡単に、とは言わないけど、今よりは軽くできるようになるの!」

「っ!エルフとして負けてられないわ!わたしだって!!」

「ウチもぉ!ウチも頑張るもん!!」

「アタイだって!!戦闘種族を舐めるんじゃないよ!!」


 みんなも成功させた俺に負けじと気合を入れて訓練している。

 これは、みんなもすぐに成功させるな。


 



 俺の予想通り、すぐにレイリーが出来るようになり、次にリュリュ、そしてキョウカが出来るようになった。

 俺と同じように、成功させた後はへたり込んでいたが。


「みんな凄いの!良い子なの!!」

『・・・くっ!これは負けていられません!私ももう少し戦闘技術を学ばなければ・・・』


 両手を上げて喜ぶルールーと、何やらぶつぶつと言っているリーリエ。


 こうして、俺たちは着々と旅への準備を進めるのだった。

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