閑話 鬼の伝説
むかしむかし
あるところに鬼の住む国がありました
その国の鬼はとても強く、他の国の人はその国の鬼を
その国には、とても強い鬼がいました
その鬼はツクモという鬼で、とても強いのですが乱暴者でした
いつもケンカにあけくれていて、他の人の言うことを聞きませんでした
ツクモには兄と妹がいて、妹をとても可愛がり、兄の言うことはかろうじて聞く、といった具合です
だから、鬼の国の人も、その他の国の人も、ツクモというその鬼の事が大嫌いでした
ある時、その国にニンゲンとエルフ、そして精霊が訪れました
そのニンゲンは大魔法師と名乗りとても美しく、鬼達はそのニンゲンを手に入れようと戦いを挑みました
しかし、そのニンゲンはとても強く、鬼たちはみんな負けてしまいました
そんな中、鬼の王様であるツクモの兄は、そのニンゲンにお願いをしました
「弟を助けて欲しい」
実は、ツクモは他の鬼よりも特別な力があり、その力に振り回されていて、行き場のない憤りをぶつけていただけだったのです
本当なら兄である王様、スメラギという名前の鬼でしたが、スメラギが助けてあげたかったのですが、ツクモはスメラギよりも強かったのです
そんなスメラギの弟を思う心に胸を打たれ、大魔法師はツクモと戦う事にしました
ツクモはそんな大魔法師に言いました
「女なんかと、ましてやニンゲンなんかと戦っていられるか」
そのニンゲンは言いました
「力も満足にコントロール出来ず、他人を思いやれない半端者。口だけは上手いのね。」
ツクモはとても怒りました
そして戦いが始まりました
驚くことに、その大魔法師は他の鬼と戦う時に手加減をしていたようで、容赦なくツクモを色々な魔法で叩き伏せました
ツクモは何度も何度も立ち上がりましたが、やがてその力も失い、倒れ伏しました
そんなツクモに大魔法師は言いました
「あなたは弱い。あなたの苦しみは私にはわからない。でも、他人に当たっているような脆弱な精神では私には勝てない。あなたも、家族を思いやるお兄さんや、乱暴者のあなたを心配する妹のように、他人を思いやる強さを身につけなさい。むしゃくしゃしたらどれだけでも付き合って叩き伏せてあげるから。」
ツクモは、優しい笑顔でそう言う大魔法師を好きになってしまいました
それから、ツクモは何度も大魔法師に仲間になりたいとお願いしました
大魔法師は何度も断りました
しかし、ツクモは諦めず、何度も、何度もお願いしました
「勇者よ、あんたは強い。そして綺麗だ。俺はあんたに惚れた。どうか俺を仲間にしてくれ。」
大魔法師は言いました
「私は、勇者では無いわ。先祖の申し送りで勇者にはなるなと言われているの。だから私の事は大魔法師と呼んで。私は、この世界に迷い込んだだけで、他の世界から来ている。ここにずっといるわけにはいかない。魔王を倒したら帰るつもりなの。だからあなたと一緒になるわけにはいかないわ。」
ツクモは言いました
「なら、俺はあんたを惚れさせて、魔王を倒した後、この世界を捨て、あんたと一緒にそっちに行く。」
ツクモの真っ直ぐな気持ちに絆され、大魔法師はツクモを仲間にしました。
ツクモが大魔法師達と旅立ち何年かすると、鬼の国にはある変化がありました
王様であるスメラギが暴力的になったのです
最初は、何度も何度も攻めてくるニンゲンの国のせいで苛立っていると思われていました
しかし、ある時、スメラギに諫言した忠臣をスメラギが殺したのです
スメラギはそれを期に、逆らう者は殺し、女を襲い、暴虐の限りを尽くしました
そんな中、唯一その暴力が向かわなかった妹が、そんな兄を止めるため、旅に出ました
そう、ツクモを探す旅です
妹は半年程でツクモに会う事が出来ました
その時のツクモは、以前の様な粗暴なところは見られず、落ち着きがあり、他者にも優しくなっていました
妹は言いました
「あんちゃん、鬼の国を助けて。ゴウエン兄ちゃんがおかしくなっちゃった。」
ツクモは泣きながらそう言う妹から全てを聞き、悔しそうな表情をしました
「俺のせいだ・・・。俺のせいで兄者は無理して・・・」
そんなツクモに、大魔法師は言いました。
「今から転移で戻るわね。ゴウエンさんを止めましょう。」
寄り添うようにツクモにそう言うと、大魔法師は転移で鬼の国に向かいました。
一方その頃、妹がいなくなった事に気がついていたゴウエンは、怒り狂い、暴れまわり、暴虐の限りを尽くしていました
そんな中戻ったツクモ
そんな兄を見て悲しそうにしました
「兄者・・・もうやめようぜ?」
スメラギはそんなツクモに襲いかかりました
しかし、魔王を倒すために旅するツクモは、以前よりも遥かに強い力を使いこなし、更に強くなっていました。
圧倒的な力でスメラギを倒し、倒れ伏すスメラギに止めをさそうとしたツクモ
しかし、どうしても出来ませんでした
ツクモの目には涙がありました
そんなツクモを見かねた大魔法師は言いました
「泣かないで。そんなに悲しそうに、苦しそうにしないで。ゴウエンさんは私が封印します。いつかまた会える事を祈りましょう。」
こうして、スメラギは大魔法師により、大岩に封印されました
それから少しの間、スメラギに代わりツクモが鬼の国の復興を手助けしました
誰よりも働き、苦しんでいる人がいれば助け、悲しんでいる人がいれば元気づけ、怒っている人がいれば、その怒りを受け止めていました
以前とまったく様子の違うツクモに、鬼の国の人達は驚きましたが、寄り添うようにそんなツクモを支える大魔法師を見て、その理由に頷きました。
いつしか、誰しもがそんなツクモを認め、ツクモは鬼族の英雄となりました
ある程度復興が終わった後、鬼の国の重臣達に引き継ぎ、ツクモ達はまた旅に出ました
ツクモはその後、大魔法師とエルフ、精霊、そして魔王に従わない変わり者の魔族である吸血鬼と旅をして、魔王を倒しました
しかし、ツクモの姿を見た者はいません
大魔法師の仲間だったエルフ、精霊、吸血鬼は何も言いません
いえ、一言だけいいました
「あいつらは、きっと仲良く暮らしているだろうさ」
とだけ
ツクモはその後、鬼族の英雄、伝説の鬼と呼ばれ、国を滅ぼしかけたスメラギは災厄の鬼と呼ばれるようになったとさ
おしまい
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