閑話 キョウカの気持ち

 今、アタイの目の前には信じがたい光景がある。

 

 鬼族、エルフ族、人魚族、そしてニンゲンがどんちゃん騒ぎをしている。

 誰も彼も笑顔だ。


 アタイら鬼族は宴会好きだ。

 まだ世界が滅びる前は、色々な理由をつけては宴会をしていた。

 

 だが、あの日、突然世界が滅びた日以降に宴会はしていなかった。


 それが目の前にあるのだ。

 それも、アタイら鬼族だけじゃなくて、様々な種族と一緒に。


 すげぇ・・・

 ・・・こんな光景が見れるなんてな。

 アタイの父ちゃんや母ちゃんにも見せてやりたかったなぁ・・・

 

 二人共、楽しんでくれただろうに。

 

 ぐいっとシノブがくれた酒を煽る。


 ・・・うめぇな。


 シノブ・・・シノブかぁ・・・


 まさか、アタイがニンゲンに惚れちまうなんてなぁ・・・昔のアタイを知ってる奴らはみんな信じねぇだろうな。


 アタイは、こう見えて、里では男どもから結構言い寄られていたんだよ。

 母ちゃん似で、見た目は良いらしいからな。

 まぁ、気の強いところも似ちまったんだけどよ。


 だけど、な〜んかしっくりこなくて、誰とも男女の仲になった事はね〜んだ。


 第一、アタイは鬼族の戦士だ。

 自分よりも弱いもんと一緒になろうなんざ思えねぇ。


 そう思って、言い寄ってくる奴らと力試しをして勝ち続けて・・・気がつきゃ、スメラギ、ツクモに次ぐクロガネの姓まで貰ってたんだ。


 そしたら逆に誰も言い寄って来なくなっちまったんだこれが。

 まぁ、アタイとしては面倒が減って良かったんだけどよ。


 そんなアタイを母ちゃんは心配してたんだが・・・ま、昔大魔法師が言ってたっていう、結果おーらいって奴だな!

 

 おかげで、一生を添い遂げるに値する奴と出会えたんだからよ!




 少し離れた所でレガリアさんやララさんと話しているシノブの顔を見る。


 あの時


 レイリーとリュリュを守る為に、ゴウエンの前に立ちはだかった時、アタイは正直死を覚悟してたんだ。


 ゴウエンは強かった。


 ミスリルの武器や防具が無かったら、瞬殺されてたかもしんねぇ。


 それに、レイリーもリュリュも強かった。

 必死で戦うのもそうだが、レイリーの切り札のあの魔法。


「リュリュ!キョウカ!離れて!!行くわよ!【魔力混合】『トルネード』『ファイヤーストーム』!!喰らいなさい!!」


 魔法を合成させるってのかな。

 凄まじい炎の竜巻がゴウエンを包んだんだ。


 それでかなりのダメージを与えられたんだと思う。

 魔法が収まった後のゴウエンはボロボロだったからな。


 その後、【自己修復】スキルで回復する為か、ゴウエンの攻撃がかなり緩やかになったし。

 正直、あれが無かったらアタイらはシノブがスキルを制御するのを待たず、殺されてたか犯されてたか・・・


 まぁ、それでも力及ばず、倒しきれずにいたんだけどよ。

 だから、実はシノブとゴウエンの戦いはかなりゴウエンに不利だったんだ。

 完全には回復していなかったからな。

 それでも、恐るべき強さだったけどよ。


 まぁ、それはそれとして、あの時だ。

 アタイにも意地があった。

 母ちゃんを殺された悔しさは勿論ある。

 だけど、仲良くなったし、強さを認める二人を守るために死ぬなら悪くねぇって思っちまった。


 そんな時だった。


 いきなりゴウエンをぶっ飛ばしてくれたんだ。


 シノブが。


 額からは一本だが光る角を生やし、こちらを心配そうに見るシノブ。

 そして、ゴウエンを睨みつけるシノブ。


 アタイは、思わずほっとしちまった。


 なんだろうな?

 父ちゃんみたいな安心感ってのを感じたのかな?


 そしてその後だ。

 ゴウエンをぶっ飛ばしてくれって頼むアタイに言ったシノブの言葉。


『任せとけ。君の、鬼族の悲劇の責任を取らせてくる。』


 アタイは、その時どうしようも無くシノブに惚れちまったんだろうな。


 ただ怒るだけじゃなく、アタイの心情も思いやってくれるシノブの優しさって奴に。


 それまでも、惹かれてはいたんだと思う。

 ・・・勢いで床を共にしちまった事もあるくらいだからな。


 勿論、なんにもしてねぇけどな!

 

 ・・・そんなはしたないこと、婚姻前に出来るかってんだ!!


 ・・・・・・まぁ、シノブがどうしてもってんなら、仕方がねぇとも思ってたが・・・


 い、いやそれは置いといて、それでもだ!!

 決定的だったのはそん時だと思う。


 涙が零れそうになるのを止めるのが大変だったぜ。


 なんつーか・・・もし、シノブが負けそうになったら、アタイも突撃して盛大に散ってやるって思ったんだ。


 アタイより先に、死んでほしくねぇって、そう思っちまったんだよ・・・


 まぁ、そこからのシノブは凄かったんだけどな!

 アタイの心配をよそに、今は失伝したって聞いてる鬼組手を使って互角に戦ってたもんな。

 ゴウエンがそう言うまで、その技が鬼組手だって知らなかったくらいだし。


 最後はすげぇ技で倒しちまうしよ!


 ・・・それに、ゴウエンの真実とシノブの正体。


 あれにも驚いた。


 ゴウエンの方は本当に複雑だった。

 暴れまわったゴウエンは勿論許せねぇ。

 母ちゃんも殺されてるしな。


 ・・・だが、それでも鬼族を守ろうと、何度もスキルを使った結果だったと考えると・・・なぁ・・・


 シノブの正体にも驚いたぜ。

 

 まさか、あの伝説の鬼の息子なんてな。


 どうして300年前の大魔法師と伝説の鬼の息子が、今この世界に来ているかわかんねぇけど、新しい女神様ってのも粋な事をしてくれたもんだぜ!


 シノブに出会えたしな!!





 レイリーやリュリュ、リーリエとの話し合いもしたな。

 

『キョウカさん。実は私には隠している事があります。』


 リーリエの話。

 かなり驚いた。

 まさか、リーリエが実はシノブの昔なじみだったなんてな。


 だが、その生き様には尊敬を覚える。


 全てを捨てて惚れた男の元に行こうとした生前も。

 死して尚、また実体を持てるとは確定していないのに、惚れた男に尽くそうという心意気も。


 そしておそらく、暴走しそうになったシノブを引き止め、戻したのはリーリエだ。


 大した女だ。


 だから、


「リーリエ。あんた凄いよ。アタイは女として、あんたに敬意を表するよ。だから、アタイの事はキョウカと呼びな。敬称なんていらねぇ。」

『・・・はい、キョウカ。これからもよろしく。・・・だけど、忍さんとは私がそちらに行くまで最後までしないでね?』


 リーリエとも仲良くなれそうだ。

 だがな?


「・・・それは約束できねぇな。な?」


 アタイはレイリーとリュリュを見る。


「そうね。」

「だねぇ。」


 当然とばかりに二人は頷く。


『ちょっと!?』

「「「あははは!」」」

『きぃ〜っ!忍さん!早く!早くスキルを手に入れて下さいまし!女郎蜘蛛が三匹も狙ってます!!危険です!!私が行くまで食べられないで〜っ!』

「ちょっと!蜘蛛は酷いじゃないの!」

「そうだよぉ!リーちゃんだって狙ってる癖にぃ!!」

『・・・内緒です。』

「そりゃ酷いんじゃないかねぇ?」

『忍さんは最初に私が愛したんです!私が最初〜っ!!!』


 あっはっは!


 いや〜対等な関係って良いな!


 これから楽しくなりそうだ!

 

 ・・・そういや、落ち着いたら今度シノブと一緒に鬼の集落があったところに行ってみっかな。

 もしかしたら、何か使えるもんが残ってるかもしれねぇし、生き残っている奴らもいるかもしんねぇからな。

 

 ゴウエン。

 あんたの事はやっぱり許せない。

 でも、鬼族はアタイがなんとかするから、安心して眠りな。


 んで、しっかり謝罪して許してもらいなよ?


 誇りあるスメラギとして、な。


 父ちゃん、母ちゃん、アタイも頑張るかんな!

 見守っててくれよな!


「キョウカー?何してるのー?こっちに来なさいよ!」

「キョーちゃーん!シノブンを守るんだよぉ!」

『キョウカ!見なさい!あんなにいっぱい女狐達が忍様にたかっています!!早く早く!』


 あっはっは!

 本当に面白いねぇここは!


 アタイは、エルフの女達や人魚の女達に詰め寄られて困り顔をしているシノブを見る。


「おーう!今行くぜ!シノブー!アタイらをもっと構いな!鼻の下伸ばしてるんじゃないよ!」


 アタイはみんなと一緒にシノブの元に駆け寄った。

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