第48話 新たな居候

 俺が意識を取り戻したのは翌日だった。

 クラーケン戦に近いくらいボロボロにはなっていたが、これが【覚醒】の効果なのだろうか。

 こころなしか、回復も早くなっている気がする。

 まあ、まだ指は完全には戻っていないし、満足には動けないのだが。


 俺が倒れた後、レイリー達はそれぞれの手当をし、野営の準備とゴウエンの遺体を水魔法などで綺麗にしたそうだ。


 キョウカは言っていた。


「確かにゴウエンは憎いよ。でも、あれだって鬼族を必死に守ろうとした結果なんだ。だったら、アタイがそれを否定しちゃいけないだろう?それにゴウエンはあんたの叔父でアタイの遠い親族なんだ。ご先祖様は大事にしなきゃな。」


 複雑そうで、それでいて納得したように微笑むキョウカ。

 ・・・うん、キョウカはやはり優しい性格をしているな。

 良い女とはこういう人を言うのだろうな。


 まぁ、それを言ったら、レイリーやリュリュ、それにリーリエだってそうなのだろうが。

 

 なんとなく覚えている事がある。

 

 俺が【鬼神の血】を暴走しかけたあの時、俺は確かにリーリエの声を聞いた。

 何を聞いたのか詳しくは覚えていないが、それでもその中に百合さんを見たと思う。


 やはり、リーリエは百合さんの心を参考にして作られたのだろうか・・・


 百合さんとリーリエを同一視する気は無いのだが、どうしても意識してしまう。

 上手く誤魔化せれば良いのだが・・・にしても女々しいな俺は。


 半世紀以上に前の事なのになぁ・・・


 俺が意識を取り戻した後、キョウカが俺を背負い、帰路についた。

 ゴウエンの遺体はアイテムボックスに入れてある。


 俺の自宅の敷地内に墓を作るつもりだからだ。

 あれは、スキルを暴走させた場合の俺の未来の姿だろう。


 ゴウエンには少し同情する。

 だから俺は、ゴウエンに俺たちの・・・鬼族の行く末を見守ってもらう事にしたのだ。

 俺は、逃げ延びている鬼族を守る事に決めた。


 それが、ゴウエンの甥である俺の責任だと思うからだ。


 来た時と同じ2日をかけて湖の村まで戻った。


 この間に話し合った事もあった。


 キョウカの今後についてだ。


「アタイも今後定住させてくれねぇか?」


 そう言うキョウカ。

 俺に否やは無い。

 すでにキョウカは気心知れた仲間だからな。


「・・・良いけど、後で話し合いね?」

「うんうん!キョーちゃんも仲間だねぇ!色んな意味で!」

『・・・ううう、仕方がありませんね。くぅっ!どんどん出遅れる〜っ!!!』


 なんの事だ?

 すこし三人の受け取り方が俺とは違う気がするんだが・・・


「・・・やっぱわかるか?」

「「『当然!!!』」」


 ・・・何が?


 苦笑するキョウカに同じく苦笑しているレイリーとリュリュ、そして同じ雰囲気を感じるリーリエ。

 

 ・・・どういう事なのだろう?

 まったくわからん。









 

 俺たちの帰還にアダマス氏族やキョウカの同胞は大いに喜んでくれた。

 キョウカの同族4人は、既にアダマス氏族に挨拶を済ませており、ここに居住したい旨を伝えていたらしい。


 アダマス氏族もそれを受け入れていた。

 どうやら、もう種族的な偏見は持っていないようだ。


 俺が帰還した際に、鬼族の4人とアダマスの現氏族長・・・レガリアという名だが、レガリアはその意思を伝えに来た。


 大いに結構な事である。

 俺的にはそれは素晴らしい事だと思うしな。

 しかし、何故俺の許可を貰いに来たのだろう?


「何を仰るのか。ここは、シノブ殿の作った村はありませんか。」


 という言葉を聞き、俺は首を傾げた。

 俺にそんなつもりは無い。

 あくまでも、立ち上げの手伝いをしただけなのだが・・・


「良いじゃないの。わたしもそれで良いと思うわ。」

『そうですね。私もそれで良いと思いますよ。』

「うん!シノブンは頼れるしねぇ!」


 というレイリーとリーリエ、そしてリュリュの言葉で、覚悟を決めた。




 今は宴の準備中であり、まもなく乾杯の合図となる。

 今日は、俺のアイテムボックスに入れてあった酒も提供した。


 乾杯の合図はレイリーやキョウカに譲ろうとしたのだが、


「ここはシノブの作った村でしょ。」

「そうだな。あんたが頭で良いと思うぜ。だから乾杯はあんたがするべきだ。」


 そう言われ頑として譲らなかった為、俺がする事にしたのだ。

 ちなみに、この場にはリュリュの母親であるララさんや人魚の数人の姿も見える。


 ここに到着してすぐにリュリュが呼びに行き、連れてきたのだ。


「もう人魚種も仲間でしょうぉ?だったらみんなで仲良くしたいもん。」


 ああ、そうだな。

 その通りだ。


 というわけで、乾杯の合図は俺となった。

 だから、俺はどうしても伝えたい事を先に伝える事にしたんだ。


「乾杯の前に話を聞いてくれ。少し長くなるが・・・」


 それは、ゴウエンの真実。

 そして、俺の正体について。


 俺はもう、ここにいる者を守ろうと決めている。

 なら、隠し事をしたくなかった。


 ゴウエンの・・・災厄の鬼の真実を聞き、キョウカの同族4人は驚いていた。

 そして、その最期にも。

 複雑そうであるが、それでもそれを飲み込み、追悼の意を示してくれた。

 

 そして、俺の生い立ち。

 

 これには、全員がかなり驚いていた。

 それは鬼族の四人も同じだった。

 なにせ、災厄の鬼の甥であり、伝説の鬼の息子だからだ。


 だが、納得もしているようだった。


 俺がどの属性の魔法でもかなり高いレベルで習得出来る事もそうだし、この世界の人達曰く、人間でありながら偏見を持たず、それでいて強い力を持ち、それでも人を思いやる事が出来るという所が、それぞれの種族に伝わる勇者・・・大魔法師と名乗った玲奈、つまり母さんの人柄なんかに酷似しているかららしい。


 あまりにも高評価の為なんだか気恥ずかしい気もする。

 俺は普通の事をしているだけだと思うのだが・・・

 

 みんなは最初は俺を崇めようとした。


 この世界を新たに管理する女神の使徒として。

 だが、それを俺は断った。


 別に俺にそんなつもりは無い。

 勿論女神様には感謝している。


 こうして、以前には無かった仲間を得ることも出来たしな。

 

 しかし俺はあくまで人間だ。

 崇められるような者では無い。

 だから、


「崇めるのならば、俺では無く女神様にして欲しい。名前は・・・」


 ・・・そう言えば名前を聞いていなかったな。


『女神様の名前はサマーニャ様です。』


 リーリエがそう教えてくれた。

 

 今後、サマーニャ様の像がこの村に祀られる事になるらしい。


 直接見た事がある俺と、サマーニャ様の姿を知っているらしいリーリエが監修し、木工や鍛冶が得意な鬼族の一人が作ってくれる事になった。


「村の名前も考えないとね。」


 レイリーがそう言った。

 ああ、そうか。

 本格的に村とするなら、名前が必要か。

 

「シノブンが考えれば良いんじゃない?」


 むむ・・・どうするか・・・最初の村・・・いやいや、初めの村・・・ぬう・・・俺にはネーミングセンスが無いな・・・いや、視点を変えるか。

 ここには色々な種族が集う村だ。

 なら、そう言った名前をつけるべきだろう。


「どんな村にしてーんだ?」


 キョウカの言葉に考える。


「色々な種族の者が幸せに生きられる理想郷にしたい。」

『なら、アルカディアなんてどうでしょうか?忍様の居た世界の他国の言葉ですが・・・少し長いですかね?』


 ふむ、なら・・・


「【ディア】としようか。意味はリーリエが教えてくれた【アルカディア】の通りに。」


 歓声があがる。


 これで、更に俺には守るものが出来た。 

 もっと強くならなきゃな!



現在のステータス

氏名 九十九 忍(ツクモ シノブ)

種族 人間 

性別 男

年齢 18歳

状態 疲労(弱)


スキル 

言語理解 状態異常耐性【中】頑強 アイテムボックス 加工 気配 察知【強】気配遮断【中】体術【極】剣術【強】気功術 気闘術 魔力操作 魔纒術 鍛冶 風魔法【中】水魔法【中】火魔法【弱】急所突き 覚醒 生活魔法 NEW暗視 NEW採掘 NEW鬼神の血 NEW魔法鍛冶 


称号 

転生者 祝福を受けし者 切り開く者 勇者の子 |大物喰い《ジャイアントキリング お人好し 水中の王者 愛の伝道師 NEw 災厄を超えしもの

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