第40話 災厄の鬼

「奴は、伝説の鬼と同じ時代に生きていた。だが、封印されたんだ。あまりにも凶暴すぎてな。」


 キョウカの話によると、勇者や伝説の鬼が居た時代は、300年程前らしい。

 当時は、全ての種族は滅びる直前ほど仲が悪く無かったそうだ。

 ・・・人間は除くらしいが。

 一体何をやっていたんだか。

 

「魔王っていう共通の敵が居たからよ。」


 疑問に思っていた俺にレイリーが補足してくれた。

 なるほど。

 

「伝説の鬼ツクモと災厄の鬼は兄弟だったらしい。伝説の鬼のは残ってないが、災厄の鬼の方は名が残っている。ゴウエンだ。災厄の鬼スメラギ・ゴウエン、奴は、当時の鬼族の種族長であり、種族長の証であるスメラギの姓を名乗っていたそうだ。災厄の鬼と呼ばれる前は、人格者で誰もが認める種族長で、むしろツクモの方が粗暴でいい加減な奴だったって事らしい。だから強かったツクモが種族長にはならず、次に強かった兄のゴウエンが種族長になったそうだ。」


 ふむ、強さが全ての鬼族でも異質だったわけだな、その伝説の鬼は。


「おかしくなったのは、伝説の鬼が大魔法師に負けて、その強さに惚れてついていった後かららしい。人が変わったように暴力的になり、だんだんと周りから敬遠されるようになったそうだ。で、ある日、側近の一人が口答えしたとかなんとかで、ゴウエンはその側近を殺してしまったそうだ。そこから恐怖支配の始まりだ。逆らうものは殺され、鬼族は疲弊していった。そんな中、鬼族の一人・・・ツクモとゴウエンの妹が、ツクモに助けを求めに逃げ出したそうだ。それがアタイの先祖らしいが今はいいか。ゴウエンがそれに気がついたのは少したった頃で、気がついたときには荒れ狂ったらしい。そして、妹からゴウエンの今を知らされ、戻ったツクモがゴウエンと戦い、勝利した。」


 なるほど。

 流石は歴代最強の鬼と呼ばれるだけはあるな。


「だが、ツクモはゴウエンを殺せなかった。血を分けた兄だ。色々あるんだろうよ。それを見かねた大魔法師がゴウエンを封印したそうだ。どうも大魔法師は伝説の鬼ツクモと男女の仲だったみたいだな。葛藤するツクモを見ていられなかったようだ。」

「え!?やっぱりそうなのぉ!?」


 リュリュが驚いて声をあげる。

 そんなに驚くことなのか?

 そんな俺を見て、リュリュは鼻息荒く語り始めた。


「人魚種の言い伝えに残ってるのよぉ。鬼族をボコボコにする勇者様の話がねぇ。なんか人魚を見て鼻の下を伸ばしてた鬼族を、鬼のような形相になって魔法で蜂の巣にしたって。鬼族の戦士は泣きながら許して貰ってたってさぁ。この間まではなんでかわからなかったけど、今なら気持わかるなぁ・・・気をつけてねシノブン?」


 うん?

 なんでそこで俺なんだ?


「・・・ほんと、気をつけてよシノブ。」

『まったくです。』


 ・・・何故だろう。

 とても怖い。


「・・・あ〜、一応伝説の鬼で鬼族の英雄だからそういう醜聞はちょっと複雑なんだが・・・まぁ良いや。で、大魔法師が封印したゴウエンなんだが・・・2年前の滅びの日、封印が解けたらしい。封印していた岩がぶっ壊れてな。鬼族が気がついた時にはそこにはなんの気配も残ってなかったらしい。その時は所詮言い伝えなんてこんなもんだって思ってた。でも・・・奴は現れた。滅びを乗り越えたアタイ達の前に。」


 そう言って憎悪にまみれた顔をするキョウカ。

 どうやら本題のようだ。


「奴は、アタイら鬼族を殺して回った。裏切り者だと言ってな。当然アタイも戦った・・・が、てんで歯が立たなかった!奴は・・・奴は強すぎた!ヤツのスキル【鬼神の血】が発動した瞬間、アタイはぶっ飛ばされてたんだ!!」


 歯噛みしながらそう語るキョウカ。

 俺たちは押し黙る。


「アタイは朦朧とする意識の中見たんだ!奴が・・・男の戦士達の屍がある中で、女の鬼族を犯し・・・そん中には生き残ってた母ちゃんも・・・母ちゃんは抵抗してボコボコにされて最後は首をへし折られて・・・クソッ!!アタイは奴を殺そうとしたんだ!犯されるならそれでいい!アタイを犯している最中に喉笛食いちぎってやるってな!!だが・・・」


 そう言って歯を食いしばりながら涙が滲む目を向けるキョウカ。


「アタイは逃がされたんだ・・・生き残っていた他の戦士にな。アタイ以外じゃアイツに敵わないから!アタイに強くなって仇をとってくれって!悔し涙を流しながら・・・死を覚悟しながらそう言われて・・・そんな風に言われたら・・・ヤケになれなくて・・・アタイは、奴に向かっていく鬼の戦士達を尻目に逃げ出して・・・クソッ!!あの野郎!!あのクソ野郎!!なんであんな奴がスメラギを名乗ってるんだ!!誇りある種族長のスメラギの姓を!!」


 キョウカの独白。

 俺も、リーリエも、レイリーもリュリュも言葉が出ない。

 壮絶な過去だった。


 そして怒りがふつふつと沸いてくる。

 それはレイリーもリュリュも、そしておそらくリーリエもだろう。

 

 ここ10日ほどしかキョウカとは一緒にはいない。

 だが、キョウカはまっすぐで気持ちの良い性格をしている。

 そして、芯にある優しさも好ましい。


 だから、


「キョウカ。災厄の鬼は今どこにいる?」

「・・・わかんねぇ。鬼の里はここからはかなり離れてっからな。だが、あのままそこに居続けるとは思えねぇ。・・・おそらく、奴はもう里の鬼を殺してどこかに移動している筈だ。」

「そうか・・・なら、強くなろう。」

「なに・・・?」


 俺がそう言ったら、キョウカは顔を上げる。

 まだ、目には涙がにじみ出ている。

 俺はそれを指で拭い取る。


「強くなって、その災厄の鬼を見つけ出し滅ぼそう。君が仇を取れるよう協力するよ。」

「・・・いや、迷惑はかけられねぇ・・・それに奴は強い・・・」


 戸惑ったようにそう言うキョウカ。

 

「何言ってんのよ。どうせ他の種族も殺して回るか、犯して回るかでしょ?そんな奴野放しにしておけないわ。もう勇者達はいない。私達でどうにかするしかないんだからさ。」


 レイリーもそう言ってキョウカの肩に手を置いた。

 その表情は不敵なものだった。


「そうだよぅ。ウチ、そいつ嫌い。キョーちゃんに悲しい思いをさせたのも、苦しい思いをさせたのも許せないんだもん。」


 リュリュもふんす!と鼻息を荒くしている。


「レイリー・・・リュリュ・・・あんたら・・・」

『キョウカさん。強くなりましょう。私も作戦を考えますし、何か手がないか考えてみます。それに、一つ今よりも確実に戦力強化出来る方法があります。私はそれが確実に成功するよう明日から・・・いえ、今日から調べますので、一緒に頑張りましょう?』

「リーリエ・・・」


 三人の言葉に、キョウカは上を向き涙を流す。

 そして、腕で涙を拭って俺たちを見た時、その目には涙は無かった。


「シノブ、リーリエ、レイリー、リュリュ・・・アタイに協力してくれ!アタイは絶対にアンタ達を守って見せるから!」


 決意に満ちた表情のキョウカ。

 だが、それは違う。


「キョウカ。違うぞ?俺たちで勝つんだ。俺たちは守って欲しいんじゃない。君が俺たちを守るなら俺たちも君を守る。君が傷つきながら戦うのなら俺たちも一緒に戦う。絶対に勝つぞ!」

「シノブ・・・アンタ達も・・・ありがとう・・・」


 微笑むキョウカ。

 ああ、やっぱりキョウカには笑顔の方が似合うな。

 災厄の鬼、か・・・どこにいるか知らんが、悪いがキョウカの為にもこの世界から退場して貰おう。

 強制的にな。

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