第38話 愚か者への沙汰

「う・・・くっ・・・」

「あ!?目が覚めた!」

「シノブン大丈夫!?」

『忍様!!』


 三人の声が聞こえてしっかりと目が覚めた。

 ここは・・・俺は・・・?

 確か、クロガネと戦っていて・・・倒したはずだが・・・


「ようツクモ、目が覚めたか?」

「クロガネ・・・」


 俺の横で座っているクロガネ。

 手当はされているようだが、まだ完全に傷が癒えていないようだ。

 ・・・妙に機嫌が良さそうで、ニコニコしているが。


「ここは?俺の家のようだが・・・」

「あれからの事は今から話すわ。あのね?」


 レイリーが話始めた内容に俺は目を瞬かせるのだった。






「リーリエ!これで良いの!?」


 私は、私とリュリュの魔法で身体を凍らせて、立ったまま意識を失っているシノブに走り寄る。


『はい!ですが、すぐに氷を溶かし手当しなければいけません!』

「あれって一体なんだったのぉ?」

『あれは・・・』

「・・・スキル【鬼神の血】だろう?」

「あんた・・・!?まだ意識があるの!?」


 まさかの声に反射的に振り向くと、そこには座り込んでいる鬼の女が居たわ。


「ああ、今戻ったのさ。にしても、そのスキル・・・アタイ達鬼族の中でも伝説級のスキルだぜ?なんでニンゲンのツクモが持ってるんだ?・・・いや、そもそもそれを持っているのが『ツクモ』の姓を持ってるなんて出来すぎだぜ・・・」

「どういう・・・」


 首を傾げながらそう言う鬼の女に聞こうと口を開いたが、


『レイリー!それは後で!今は忍さんを暖めないと!!』


 あ、そうだ!

 でも、わたしもリュリュも風と水の属性魔法だから温めるのは弱いのよね。

 ここからじゃお風呂も遠いし、生活魔法で火を起こしてゆっくり温めるしか・・・人肌じゃ時間がかかり過ぎるし・・・


「ん?溶かしゃ良いのか?だったら任せな!あんた達、離れてろよ!鬼の子キョウカが命ずる!火よ!渦巻き踊れ!『ファイヤーダンス』」


 鬼の女の指示で私達は離れると、シノブを囲むように火が起こり、徐々にシノブの体表を覆う氷が溶けていったの。


『もう大丈夫です!魔法を解除して下さい!』

「あいよ・・・って、能力の窓がじゃべってんのか!?あんた達面白いねぇ・・・」

「リュリュ!」

「うん!シノブン!!」


 わたしとリュリュは徐々に倒れていくシノブを支え、横にする。

 息を吸っているのも、心臓の動きもしっかりと確認できた。

 よかったぁ・・・


「とりあえず、命に別状はなさそうよ。」

「そうか・・・よし!おい!そこの!そこにいる、アタイを騙した奴を連れてきな!!」


 鬼の女は立ち上がり、叔父様とバカ息子を指さした。


「や、やめろー!」

「離せ!離せぇ!!」


 叔父様達と、それに付き従う一人が暴れながら鬼の女の前に連れていかれた。


「おい、よくもまぁアタイを騙してくれたもんだね。落とし前、つけさせてもらうよ?」

「うるさい!鬼のお前がニンゲンなんていう下等な者に負けるのが悪いんだろうが!!」

「・・・おい、アタイに勝ったツクモをこき下ろすんじゃ無いよ!」

「「「ひぃっ・・・!?」」」


 凄まじい形相と殺気を放ちながら睨みつける鬼の女に、叔父様達は震え上がった。 


「あんたらに問う!こいつら殺っちまって良いか?」


 その言葉に、みんなは複雑そうな顔をしたわ。

 ・・・正直、わたしも。

 だって、いくら襲撃をかけて来たからって、流石に殺すのまでは・・・


「・・・はぁ、本当はメンツに関わる事だからきっちりとしたい所なんだけどね。アタイも騙されたとはいえ、迷惑をかけちまったんだから従うさ。おい、お前ら!今からお前らを開放する!但し、」


 そう言って鬼の娘は指先に火を灯した。

 その色は紫色。


 じゅっ

 じゅっ

 じゅっ


「「「ぎゃあああああああ!!!」」」


 無言で頬にその炎を押し付け、やけどを負わせた。 


「この炎でつけた傷は完治しない。もし、お前らがまた悪さをしたとして、そのやけどがあったら、次は容赦しない。これは他の鬼族が見つけても同じだ。あんたらも、それで良いか?」

「ええ、ありがとう。」

「なに、そもそも迷惑をかけたのはアタイだからね。あんたたちも、すまなかった!!」


 そう言って頭を下げる鬼の女。

 悪い鬼ではなさそうね。


「ほらっ!さっさと消えろ!!」

「「「ひぃぃぃぃ!!」」」


 凄まれて、一目散に駆け出す叔父様達。

 ・・・なんて情けない。


「さて、これからどうするんだ?出来ればあんたらの事を知りたいんだが・・・特にツクモの事をさ。」


 

 ・・・う〜ん。

 これって・・・でも、まぁ多分なるようになるでしょ。


「取り敢えず、家に帰りましょう?アダマス氏族の方は大丈夫そうだし。また明日来るわね?」

「はい、レイリー様。」

「その前に、シノブと・・・あんたは名前は・・・」

「アタイはクロガネ・キョウカさ。クロガネでもキョウカ、でも好きに呼びな。」

「シノブと同じような感じの名前ね。じゃ、キョウカで。わたしはレイリー、レイリー・ツクモよ。」

「ウチはぁ、リュリュ・ツクモです!」

『あ!?リュリュまで!?じゃ、じゃあ私もリーリエ・ツクモで!!』


 ・・・どさくさ紛れが過ぎるわね。

 ま、いっか!



 




「って感じで、自宅まで戻って、汚れを落として回復魔法をかけたってわけ。シノブは夜まで寝っぱなしだったわ。」

「なるほどな。ありがとうレイリー、リュリュ、リーリエ。」

『いいえ忍様のためならば。』

「そうだよぉ。家族だもんねぇ。」


 さて、後は・・・


「クロガネ。君はこれからどうするんだ?」

「ん?アタイ?アタイもしばらくここに住むぞ?」

「・・・なに?」

「もう、レイリーとリュリュ、それとリーリエだっけか?許可貰ってるからなぁ!ははは!」


 俺は三人を見る。

 そこには苦笑している二人と、渋々といった気配を出すリーリエが。


「ま、そうなるんじゃないかって思ってたしね。」

「そうだねぇ。それに〜、気になることもあるでしょお?」

『はい、忍様の発動したスキルの事、鬼族に伝わる『ツクモ』の姓について、それに火魔法についても教えていただけるそうです。』

「厄介になるんだから当然さね。これからよろしく頼むよ!ツクモ!」

「まぁ、良いか。君の人柄は戦いで分かった気がするしな。仲良くやれそうだ。それと、俺の事は忍で良い。」

「そうかい?なら、アタイの事もキョウカって呼びな!」

「ああ、よろしくなキョウカ。」

「おう!シノブ!!」


 こうして、キョウカがしばらく住む事になった。

 それにしても・・・あの俺の中から生まれたなんともいえない激情はなんだったんだろうか?

 何故、俺に【鬼神の血】などというスキルが・・・

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