第37話 鬼族の娘キョウカ

「一撃で終わんじゃないよぉ!せあああああ!!」

「むっ!!」


 振りかぶって拳を振るってくるクロガネ。

 俺はそれを気功術を使った腕で防ぐ・・・が、


「ぐっ・・・!」


 なんて力だ!

 普通に防ぐのは得策じゃないな!


「ほらほら次に行くよぉ!!おらおらおらっ!!」


 続けて殴りつけてくるクロガネ。

 

「『防』!」

「お!?硬くなりやがった!やるじゃねーか!!どんどん行くぜぇ?どれだけ耐えられるか楽しみだなぁ!!」


 これなら、なんとか防げるな。

 しかし、連撃が止まらない。

 このままなら負けるな。

 

 このままなら。


「ちっ!どれだけ耐えるんだ!これで吹っ飛べぇ!!」


 思い切り振りかぶるクロガネ。

 焦れたか!

 待ってたぞ!


「ふん!」

「がっ・・・!アタイに痛みを!?この野郎!!」


 俺はクロガネの振りかぶった腕の付け根に突きを打ち込み動きを止め・・・止まらないだと!?


「ぐはっ!?くっ!せいっ!」

「ごっ!こ、こいつ!」


 威力が下がった拳に殴られながらも蹴りこみ牽制する。

 そこからは殴り合いだ。

 

 少しでも下がったら持っていかれる!

 クロガネの攻撃の起点にダメージを与え、勢いを殺しながらながらなんとか殴り合う。


「がっ・・・!」

「ぐぁ・・・!」


少しの間殴りあった後、クロガネの拳が左頬に当たり、俺の左拳がクロガネの脇腹に突き刺さった事で、お互いに数歩後ろに下がって動きが止まった。


「て、てめぇやるじゃねーか・・・ニンゲンの癖に、鬼族の・・・それも『クロガネ』の姓を持つアタイと正面から殴りあうとは・・・」

「それはこちらのセリフだ。俺は本当は女は殴りたく無いんだがな・・・にしても、お前みたいな真っ直ぐな奴がなんであんな奴に手を貸してるんだ?」

「・・・たまたま遭遇した時に、氏族を助けてくれって泣きつかれたんだよ。・・・だが、どうやらあんた達の方が正しそうだなこりゃ。」


 苦笑してそう言うクロガネ。

 なぜそう思うんだ?


「そりゃわかんだろ。あんた、アタイが女だからって顔殴ってこねぇじゃねーか。それはちょっとムカつくが・・・まぁそれ以上に、アタイと正面から殴り合えるような奴が、騙し討ちしたり口で騙したりする必要ねぇじゃねぇか。そもそもお前、武器使ってねぇだろ?なんでだ?」

「それは、クロガネが武器を使わなかったからだ。」

「だろ?そんな奴が人騙そうなんて考えるか?考えねぇだろ?」


 ふむ、確かにそうかもな。


「・・・そうか。なら、ここで止めておくか?」

「いや、お前は強ええんだ。ここはしっかりやり合っておきてえ!詫びは後で入れる!それと遠慮はいらねぇ!きっちり顔狙え!アタイは戦闘種族の鬼族、それも『クロガネ』の戦士だ!そりゃ侮辱だぜ?お前は人の種族を侮辱するような奴なのか?」

「・・・わかった。なら、きっちり狙わせ貰うさ。」

「そう来なくっちゃなぁ!行くぜぇ!!」

「来いっ!!」


 それからはどれくらい殴り合っていたかわからない。


 腫れて視界が大分ふさがって来ているが、遠くにレイリーとリュリュの心配そうな姿や、起き上がっているエルフ達、取り押さえられているレイリーの叔父とバカ息子達の姿も見える。 


 同じ様に腫れた顔をしているクロガネも満足そうな顔をしてふらついている。


「・・・かぁ、こりゃ良い喧嘩だった。まさかアタイが満足出来る程の喧嘩が出来るとはなぁ・・・それもニンゲンとは驚きだぜ・・・」

「・・・こんな痛い思いをして何が楽しいんだか・・・だが、確かに満足感はあるな。」

「だろ?そのうちやみつきになんぜ?」

「そりゃ怖いな・・・だが、否定できそうにない。」


 そう言ってお互いに笑い合う。


 俺には、そんなクロガネのボコボコになった笑顔がとても綺麗に見えた。

 なんというか・・・はしゃいだ女の子って感じで可愛い。


「・・・なんだ、そんな可愛い顔もできるんじゃないか。」

「っ!?な、誰が可愛いだって!?て、てめぇバカにしてんのか!?」

「いや、可愛いものは可愛いと思ったんだが・・・馬鹿にしてないぞ?」

「くっ・・・!?も、もういい!それよりも・・・次で最後だ。全力で行くぜ?」

「ああ、俺も本気の一撃を出す。勝負だ!」

「おうっ!スキル!【鬼の一撃】!!耐えろよ!ツクモを名乗ってるんだろう!!」


 九十九の姓がなんでそんなに気にかかるかわからんが、負けられん!!


「【気闘術】発動!クロガネ!お前こそ耐えろよ!!行くぞ!!」


 俺たちは拳に全てを乗せ突きを打つ!


 拳と拳の衝突!

 周囲に激しい衝撃波が飛び交う!!


「ぐぅぅぅぅぅっ・・・!!」

「おおおおぉぉぉぉ!!」


 じりじりと俺の身体が押され始める。

 視界に、レイリーとリュリュ、それとその傍にあるステータスの窓・・・リーリエ。


 あいつらに見られているのに・・・負けられる・・・かぁっ・・・!!


Pon!

 

 なんだ!?

 スキル獲得音!?


 身体が・・・力が吹き上がるだと!?


「お、おお!?ツクモお前それ・・・なんでニンゲンのお前にそれが・・・うああああああぁぁぁ!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 身体全体から光が溢れてそのまま拳を振り抜くと、クロガネの拳は弾き飛ばされ、そのまま吹き飛んでいった。


 倒れているクロガネを視界に収め、俺は息を整えようと・・・なんだ?

 身体が熱い!?

 これは一体!?


「ぐっ・・・がぁぁぁぁ!?」

『忍様!?』

「シノブ!?」

「シノブン!?どうしたのよぅ!?」


 ああ・・・なんだこれ・・・破壊したい・・・壊したい・・・犯したい・・・

 女の声が聞こえる・・・

 いや、そこに・・・女が落ちているな・・・良い身体だ・・・


 俺の足が女の身体に一歩出る。


『嘘っ!?なんで忍様に!?レイリー!リュリュ!!忍様を冷やしなさい!今すぐに!急いで!!』

「なんで!?」

「そうだよぉ!?なんでシノブンを・・・」

『早くなさい!このままだと忍様があの鬼族を犯し始めますよ!!』

「「!?」」


 ああ、うまそうだ・・・俺の子を孕んで貰おう・・・むっ!?


 身体が急速に冷えて行く。

 固まって動かない・・・

 なんだ・・・思考が・・・冷えて・・・

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