第36話 招かれざる客

 ミスリルを発見してから数日。

 俺は未だにミスリルの加工が出来ないでいた。

 理由は簡単、火力が足りないのだ。


 最初、普通の鉄と同じ様にやってみたのだが、まったく鍛造出来る気がしない。

 リーリエも調べてくれたのだが、やはり温度が足りないという事が分かった。


 単純に温度を上げるには、このままではキツイ。

 なんでも、普通ミスリルを鍛えることが出来るほどの温度を得るには、精霊や魔法なんかで炉の温度をあげる必要があるらしい。


 ちなみに、炉そのものにも工夫が必要だ。


 炉の方は今まで倒して来た魔物素材でなんとか出来るのだが、肝心の温度をあげる事に関してはお手上げだ。

 

 どうしたものか・・・


「し、シノブ殿!」


 そんな中、エルフが一人屋敷の敷地に飛び込んできた。

 かなり焦っており、息も絶え絶えだ。

 

「なにかあったのか!?」

「それが!住処に襲撃を受けたのですっ!!」

「なんだと!?相手は魔物か!?」

「いえ、そうではありません。相手は4人で恐ろしく強い相手です!あれは・・・」

「取り敢えず詳細はいい!俺はすぐに向かう!レイリー達が来たらこっちに向かってくれ!」

「わかりました!!」


 今、ここにレイリーとリュリュはいない。

 だから取り敢えずこのエルフはここで休ませ伝言を頼み、俺はエルフ種のところに駆け出した。









 到着した俺の目に飛び込んできたのは、倒れ伏すエルフの戦士達と怯えて離れている戦えないエルフ達、そして、


「馬鹿め!儂を追放するからこのような目に遭うのだ!!」

「まったくだ!お前ら俺をバカにしやがって!!」


 そう叫びながら戦士達を踏みつけるレイリーの叔父親子だった。

 その光景に頭に血が上る!


「その汚い足をどけろっ!!」

「なっ!?きさ・・・ぶげっ・・・!?」


 俺は高速で飛び込み息子の顔を殴り飛ばした。


「ひっ!?で、出た!お願いします!こいつが原因ですっ!!このニンゲンがっ!」


 俺を見るや否や駆け出すレイリーの叔父。

 そしてその方向を見ると、そこには・・・


「・・・へぇ。ニンゲンの癖にやるじゃないか。」


 俺を超える長身の女。

 野性味のある整った顔を凶悪に歪ませている。

 浅黒い身体はしっかりと鍛え上げられているが、大きな胸が女性である事を主張している。

 背には大きな斧を背負い、ギラギラとした目で俺を見ている。

 その女には大きな特徴がある。

 誰しもの目を惹く大きな特徴、それは・・・額から映える二本の角。


「お前がこの惨状の原因か。」

「ああ、そうさ。なんでも汚い手でエルフを騙し、好き放題してるらしいじゃないか。」

「・・・騙す?なんの事だ?」


 本当にわからん。

 

「そうです!そいつが誑かし、誇りあるアダマス氏族をメチャクチャにしたんだ!」


 そんな俺を指差し、唾を飛ばしながら叫ぶレイリーの叔父。

 

「・・・お前、あんなの信じてるのか?」

「ああ?なんだ命乞いか?ニンゲンが狡猾なのは誰だって知ってるだろ?アタイを騙そうったってそうはいかない。アタイは嘘や裏切りが大嫌いなんだ!騙したお前も、騙されて氏族長を追放したこいつらも許せないねぇ!」

「・・・ちゃんと彼らの言い分を聞いた・・・」

「うるさいっ!とっとと構えな!弱者の言うことを信じるつもりはねぇ!!口八丁でやりあうつもりはないんだ!!」


 駄目だ。

 聞く耳を持ってない。

 それに・・・


 俺は改めて角の生えた女を見る。

 凄まじい殺気だ・・・強敵、だな。


『忍様!彼女は鬼族です!戦闘種族で身体能力では他の追随を許しません!危険です!』


 ・・・鬼、か。

 なるほど、強そうなわけだ。

 だが、


「リーリエ、俺は自分が守ろうと思っていた者達が傷つけられて、それでよしと思えるほど、人が良くないんだ。」

『忍様・・・』


 彼らは出会いこそ悪かったし、最初は見下されていたが、今俺を心から慕ってくれているのがわかる。

 かなり頭に来ている。


 それに、レイリーの元仲間だ。


 助けないわけにはいかない。


「俺の名前は九十九忍。お前、名前は?」


 気功術を発動させながら目を見てそう問いかけると、鬼族の女はピクリと眉を動かしながらニヤリと笑った。


「貴族でもなさそうなニンゲンの癖に姓持ち、それも『ツクモ』とは御大層じゃないか。アタイは鬼族が戦士クロガネ・キョウカだ。」


 クロガネだと?それにえらく俺の故郷に似た名前だな。


『忍様!鬼族は姓を持てるのは強者のみです!警戒して下さい!』


 リーリエの言葉により深くクロガネに集中する。


 そして、


「行くぜぇぇぇぇ!!」

「来いっ!!」


 俺たちは共に駆け出した。

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