第3章 幻想を打ち砕く人魚という生き物

第21話 鍛冶をする

「今日はちょっと鍛冶仕事をする予定だ。だからすまないが、レイリーは一人で何か獲物を仕留めて来てくれないか?」


 俺がそう言うと、レイリーはきょとんとした。

 ・・・う〜ん、美形のレイリーのそういう顔は可愛いな。

 

「え?鍛冶ってあのトンテンカンテンする鍛冶の事?シノブそんな事まで出来るの?」

「まぁ、手慰み程度だがな。」

「へ〜!凄いわね!見てたい気もするけど・・・ま、仕事は大事よね。じゃあ私は獲物狩ってくるわ。」

「頼む。もし魔物とかち遭ったらちゃんと逃げろよ?」

「大丈夫よ!今なら魔狼ぐらいならよゆーよゆー!」


 う〜む心配だ・・・

 リーリエでは無いが、レイリーはうっかりしている所があるからなぁ。


 レイリーが以前の仲間と袂を分かってからすでに2週間が経過していた。

 

 心に抱える事の無くなったレイリーはとにかく明るかった。

 それは良い。

 だが、


「ぶっ!?」

『レイリー!?なんで下着をつけていないのですか!!』

「あら?忘れてたわ。シノブ見ちゃったの?エッチねぇ。」

『あなたが痴女なだけです!!』


 朝食を食べていたら屈んだレイリーの尻が丸見えでお茶を吹き出してしまったり、


「シノブちょっとこれ押さえてて!!」

「ん?わかった・・・ってレイリー!?お前なんでタオルだけなんだ!?」

「え?だって後どうせ寝るだけだし、本当は私はいつも寝る時裸だからそろそろいつ通りで良いかなって・・・」

『良いわけないでしょうがっ!!レイリー!!ちゃんと寝間着を来なさい!!』

「え〜?」


 何かを取ろうとしているレイリーに呼ばれて行ったら、タオルで身体を隠していただけだったり。


 ・・・なんだか、方向性がそっち方面ばかりな気もするが、気のせいだろうか?

 まぁ、その度にリーリエが烈火の如く怒るから、今の所妙な事にはなっていないのだけどな。


 ・・・にしても、若い身体にこれは毒だなまったく。

 ただでさえ、前世でそういう経験が無いから刺激が強いと言うのに・・・

 

 おっと、いかんいかん。

 レイリーももう行ったし、俺は俺の仕事をしなければ。


 俺は鍛冶場に行き、魔熊の居た裏山の洞窟で採掘した鉄鉱石を取り出した。

 あの洞窟は、岩塩だけじゃなく、鉄も見つかった。

 大変助かる。


 炉に火を起こし、その火が適正温度になるまで見つめる。


 ・・・鍛冶仕事は本当に久しぶりだ。

 だが、今後の事を考えると、必要になるだろう。

 鈍っているだろうから、鍛え直さないとな。


 鉄鉱石を炉に入れ、叩いて伸ばして折り返して成形していく。

 叩くことで不純物も剥がれて行くのだ。


 カーン

 カーン


 槌を振るう音が響く。

 一心不乱に叩き続ける。


 ・・・久しぶりだが、楽しいな。

 こうやって没頭するのは。


 俺は出来上がった鉄の棒を見る。

 ・・・うん、悪くない。

 そこまで腕は落ちていないようだ。


 よし、取り敢えず必要な釘なんかを作って置こう。


 カーン

 カーン!

 

 何本も釘を作る。 最初のうちは歪だったが、10本位から段々と綺麗な釘が出来てきた。


 Pon!

 

 お?もしかして・・・


『忍様、おめでとうございます。【鍛冶】スキルを入手しました。』

「ありがとうリーリエ。それにしても習得が本当に早いな。これもやはり称号の効果か?」


 気になった俺はリーリエに聞いて見ると、意外な答えが返ってきた。


『確かに【祝福を受けし者】の効果は大きいですが、それだけではありません。忍様の転生前の技術が継承されている事も理由の一つです。』


 ・・・なるほど。

 言われてみれば、【体術】は生前散々やって来たし、【剣術】も熊や狼、猿や鹿に散々鉈を振るってきた。【気功術】や【気闘術】もその延長なのだろうか?

 そう言えば、昔親父に武術を仕込まれた時、【気】というものがあるという説明は受けた気がするな。

 あの時はよくわからなかったが、こうやって使えるようになってみるとよくわかる。


 ・・・ん?

 すると、親父は【気】を使えたって事か?

 いや、まさか・・・


 だが、お袋から教えて貰った精神統一法は、魔法の鍛錬の精神統一法と酷似していたな。

 現に、比較的すぐに【魔力操作】のスキルは手に入ったわけだしな。

 

 ・・・考え過ぎか?


 だが、二人共そんなそぶりは見せなかったが・・・

 いや、待てよ?

 そう言えば、二人の死体は結局出てこなかった。

 ・・・まさか、生きている?


 もし、【気功術】や【魔纒術】を使えたのであれば、あの時の土砂崩れくらい・・・


 いやいやいや、それは無いか。

 なら、俺を一人にする必要がわからん。

 曲がりなりにも、あの二人からは愛情を貰っていたと言い切れる位には愛されていた自覚がある。


 しかしそうすると・・・


『忍様!!』

「うわっ!?」


 考え込んでいた所にいきなり大声でリーリエに呼ばれて考えが吹き飛んでしまった。


「ど、どうした?」

『鉄の温度が!!』

「へ?うわっ!しまった!加熱しすぎた!!」


 いかん、余分な事を考えすぎた!!


『どうされたのです?忍様らしくありません。何か考え事でも?』

「いや・・・なんでもないさ。釘以外に何が必要だったかなってさ。」

『そうですか・・・では、鉈を整えておいた方がよろしいのでは無いでしょうか?あの魔物化したムカデは中々硬そうでしたし、刃こぼれなんかがあるかもしれません。』

「なるほど、確かにな。ありがとう、リーリエ。」

『いえ!お役に立てたのであれば光栄です!!』


 ふぅ、よし!

 命を預ける大事な物だ。

 集中しよう。


 この後、俺は集中して刃筋を整えた為、それまでに考えていたとりとめのない事は消えてしまった。


「シッノブー!これどう!?」


 ある程度鍛冶仕事を終えた所に、ご機嫌なレイリーが帰宅した。

 その背には巨大な鹿を背負っている。

 

 魔纒術を覚えたレイリーであれば、あれくらい余裕だろう。


「おお!大物じゃないか!」

「ふっふーん!見直した?」


 得意げなレイリーに顔がほころぶ。


「元々凄いと思っているからな。見直すまでも無いさ。ありがとうレイリー。」

「えへへ♡じゃあご褒美に今日背中を流して欲し・・・」

『レイリー!!!調子に乗らないの!!そんな羨ま・・・じゃない、忍様のご負担になることさせるものですか!!』

「え〜?負担にならないと思うわよ?ね?シノブ?」


 ・・・いや、色々負担になるからちょっと勘弁してほしい。


『・・・なんというムッツリ助平。』

「はぁ!?言うに事欠いてムッツリスケベですって!?こう見えてアダマスでは『アダマスに咲く華』と謳われた私に向かって!!」


 まぁ、確かにレイリーは綺麗だからな。

 そう言われてもおかしくは無い。


『・・・?・・・ああっ!食虫花!!』

「ア・ン・タ・は〜〜〜〜!!リーリエ!!アンタ一回そこから出てきなさい!!ぶっ飛ばしてやるわ!!」


 ステータスの窓に向かってぶんぶん手を振り回しているレイリー。

 当然すり抜けるのでリーリエに痛手は無い。


『あらあら・・・何やら小蝿がいますね。』

「くぅ〜っ!!卑怯よこのっ!!」


 まったく、この二人はいつもいつも・・・


「リーリエ、その辺にしておけ。レイリー、安心しろ。お前は綺麗でそう謳われるのも当然だし、いやらしいとも思っていないから。な?」


 俺がそう言った瞬間、二人がピタっと止まる。

 そして、


「・・・ま、まぁ、シノブがそう言うのであれば良いでしょう!(・・・綺麗だって!やたっ!!)」

『ぐぐぐ・・・おのれっ!!ズルいズルいズルい!!忍様!私は!?』


 何?

 私はと聞かれても・・・


「いや・・・リーリエは黒い窓しかないじゃないか。」

『きぃ〜〜〜〜っ!!なんて妬ましいっ!!』

「あっはっは!ざまーみなさいっ!!」


 ・・・にしても、リーリエはレイリーが来てから、凄く感情表現がしっかりとしてきたな。

 最初は無機質な感じだったが・・・段々成長していくという事か?

 にしては違和感が・・・


『忍様には私が居れば良いんですっ!!』

「何言ってるのよ!あんたじゃシノブが触れないでしょ?可哀想じゃない、色々。」

『やっぱり助平じゃないですかっ!!』

「はぁ!?そんな想像するあんたの方がスケベでしょ!!」

『はぁ〜〜〜!?』

「何よっ!!」


 というか、誰かこれ止めてくれんかね?

 よくもまぁこんなに矢継ぎ早に話せるものだ。


 ・・・前世では寂しいと思っていたが、人が傍にいるだけで、こんなに賑やかになるんだな。

 だが・・・


「『はぁ〜〜〜〜!?』」


 ・・・やっぱり誰か止めてくれ・・・



 こんな騒がしい日々に変化が現れたのはその翌日だった。

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