第16話 湖での遭遇
「今日は湖まで行くぞ。」
「ふ〜んなんで?」
「ちょっと魚が食べたくなったんだ。」
「近場の川じゃ駄目なの?」
「ああ、以前湖に仕掛けをしていたから回収するだけで良いんだ。」
「なるほど。良いわよ。」
こんなやり取りをして二人で移動する。
訓練の為に、俺とレイリーはお互いに気功術と魔纒術を使用し、速度を底上げしながらだ。
湖の場所は、以前レイリーを助けた場所からもう少し奥に進んだ所にある。
位置関係的には、俺の自宅を北として、レイリーを助けたのは5キロ程南、その南東に5キロ程行った所だ。
普通に移動すれば自宅からだと一時間半程歩かなければならないが、この速度であればそんなに大した時間では無い。
程なくして、湖に到着した。
「ふぅ・・・かなり持続時間が伸びたわね。」
「だが、それは長距離走の速度を保っていたからだ。瞬間的に力をあげる場合は維持する時間が減少するから気をつけろよ。」
「分かってるって。」
こんな軽口をしながら、湖の仕掛けがしてあるポイントに移動する。
「おお、結構かかっているな。」
「うわぁ!大漁じゃないの!これ、全部食べきれるの?」
「いや、食べきれない分は干物にしたり、粉末にしたりする予定だ。さて、一休みしたら戻ろうか。」
「そうしようか。」
そんな風に湖の際に座り込んで話をしていたところ、ガサガサという音がしたので、すぐに立ち上がり警戒する。
音がする方向を見ていると、そこから何人か人が出てきた。
む?あれは・・・エルフか?
「みんな!無事だったのね!?」
レイリーが嬉しそうにそう叫ぶ。
それで彼らもこちらに気が付き、一瞬レイリーを見て嬉しそうにしたが、すぐに俺を見て武器を構え始めた。
「レイリー様!?ご無事・・・貴様!ニンゲンか!!」
「くそう!ニンゲン!!レイリー様を解放しろ!!」
槍や弓を持ったエルフが何人か居た。
「ちょ、ちょっとみんな!シノブは確かにニンゲンだけど別に何も・・・」
慌てて俺とエルフの間に入り、両手を広げて止める。
それを見て、エルフ達は一瞬唖然としたが、すぐに表情を憎悪へ変えた。
「・・・レイリー様!何故ニンゲンなどをかばうのです!!そいつらは敵だ!!」
「そうです!目を覚まして下さい!!」
ああ、駄目だな。
最初の時のレイリーと一緒でまったく聞く耳を持たない。
「だから違うんだってシノブは・・・」
「レイリー、良いんだ。俺の事は良い。それより、早く向こうに行ってやれ。」
「シノブ!でも!!」
「気にするな。お前と過ごした一ヶ月、中々退屈せずにいた。それに魔法も教えて貰ったからな。ありがとう。元気でな。」
「シノブ・・・」
俺は笑顔でレイリーを送り出そうとした。
レイリーは複雑な表情で止まっている。
「シノブ、また会いに行っても、良い?」
「ああ、いつでも来い。」
俺がそういうと、ようやく決意がついたのか、レイリーは仲間たちの元に歩き出す。
そして、向こうについた時だった。
「いまだ!やれ!!」
『『『エアリアルカッター!!』』』
俺は一足飛びに魔法の範囲から離れた。
まさか攻撃してくるとは・・・
「ちょっと何を!?」
レイリーがそれを見て声をあげる。
「あの下等種を殺すのです!!レイリー様は下がって!!行け!中々素早い!!さっさととどめを刺せ!!」
牽制で矢が飛んできたので躱し、そこへ槍や剣が襲いかかってくる。
正直、倒すのは難しくない。
しかし、レイリーの仲間を傷つけるのは・・・
『忍様!応戦してください!!』
「いや・・・それはできない。」
『ですがっ!!』
「レイリーの仲間を傷つける事はできない。」
『・・・っ!!いえ、でしたら撤退を。』
「そうだな。」
俺がそこから逃走しようとした時だった。
「何をしているさっさと殺・・・」
「いい加減にしなさい!!」
「レイリー様!?ぐあっ!?」
いきなりレイリーが叫んで、指揮していた者を殴り飛ばした。
「あんた達!!やめなさい!!」
「レイリー様なんで・・・がっ!?」
「な・・・っ!?はや・・・ぎゃっ!?」
魔纒術を全開にして次々とエルフを倒すレイリー。
「レイリー・・・。」
「シノブは何もしてないじゃないの!!それにシノブは私を助けてくれたの!それをただニンゲンだからって!!」
悔しそうな顔で叫ぶレイリー。
エルフの仲間はそれを呆然と見ていた。
「くっ・・・レイリー様!ニンゲンに味方するつもりですか!!氏族に戻れなくなりますぞ!!」
最初に殴り倒した男がそう叫ぶ。
レイリーはそれを悲しそうに見た。
「・・・わかったわ。それじゃお別れね。私は行くわ。」
「レイリー様!!」
驚いた顔をしているエルフたちに視線を向ける事無く、俺の所に歩いてくるレイリー。
「・・・行きましょうシノブ。それと・・・ありがとう手を出さないでくれて。」
「良いのか?俺の事は気にする必要は無いぞ?」
「良いの。恩人をただニンゲンだからって殺そうとする人達と一緒に居たくないの。私はそんな醜い生き方をしたくない。」
「・・・そうか。」
思えば、ここ一ヶ月のレイリーはとても素直で、気持ちの良い心持ちをしていた。
最初こそあまり聞く耳を持たなかったものの、打ち解けてからは、疑問は素直に聞いてきたし、ちゃんと聞いてから物事を判断していた。
彼女の性格は清廉なのだろう。
「レイリー様!!」
エルフ達の叫び声を聞きながら、俺たちは自宅方向に駆け出した。
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