第17話 レイリーの過去
自宅に帰宅し、食事にする魚を捌く。
レイリーはそれをぼ〜っと見ていた。
俺は作業を進める。
本日食べる分と干物にする分の処理が終わったので、次は肥料と調味料にする分の処理に入ろうとしたが、レイリーは依然そのままだ。
俺は、レイリーに話しかける事にした。
「レイリー、今からでも遅くない。戻るか?」
「・・・ん〜ん。戻らない。ねぇ、それよりも話をしてもいい?リーリエもそこに居るのでしょ?一緒に聞いてくれる?」
「俺は構わない。」
『私も聞きます。』
俺が作業を止め、レイリーを見ると、リーリエもまたステータスの窓を現出させた。
レイリーが頷き、話し始めた。
「ん・・・あのね?私の名前は本当はレイリー・アダマスって言うの。アダマスってのは氏族名で、エルフ種はみんな氏族名を名乗るのよね。シノブだったら、シノブ・ツクモになるのかな。でね?・・・」
レイリーは淡々と話をしていた。
なんでも、レイリーは元々氏族長だった人の娘らしい。
だが、世界が崩壊して、安全は保証されなくなった。
それでも、レイリーの両親は上手くアダマス氏族をまとめていたそうだ。
そんな時、一体の魔物が氏族の集落を襲ってきたそうだ。
その魔物は、黒い影に覆われており、正体はわからなかったそうだ。
だが、大きさとシルエットから地竜だったのでは無いか、と予想されているらしい。
魔物は圧倒的で、氏族のエルフは次々と殺されたそうだ。
優れた戦士であった父と、氏族一の魔法使いであった母が、氏族が逃げる時間を稼ぐため、氏族の戦士と共に最後まで戦い続けたらしい。
なんとか氏族が避難した後、レイリーが集落があった場所に戻ると、そこには倒れ伏す両親がいるだけで、魔物は逃走していたようだった。
父はすでに事切れており、かろうじて生きていた母から魔物を撃退した事を聞いたそうだ。
泣きながら母を看取ったレイリーは、母親の遺言通り、氏族長を叔父に頼んだ。
それ以降、なんとか氏族はまとまっていたそうだが、先日の魔狼が氏族の集落を襲ったそうだ。
レイリーの話によると、魔物化した生き物は強く、普通の戦士では一人だと歯が立たないらしく、さらにはあの黒い影のような魔物を撃退した際に、里の優秀な戦士はほとんど殺されていた為、逃げる事になったそうだ。
叔父は、戦えない者を囮に逃げる指示を出したので、レイリーはそれに憤慨し、自分が囮になると魔狼に魔法を放ち、襲いかかってきた魔狼を引き連れて逃げてきていたそうだ。
「・・・笑えるよね。他の種族を見下すくせに、自分は弱いものを囮に逃げるとか。私、叔父様の息子と危うく結婚させられるところだったんだよね。あいつだいっ嫌い!!叔父様の悪いところ全部受け継いでるんだもん!!」
吐き捨てるようにそう言うレイリー。
なんでも、叔父は絵に書いたような種族至上主義者だったらしく、エルフは至高の種族で、他の種族を見下していたらしい。
そして、その息子にもそれは受け継がれていたそうだ。
『・・・そう、あなたも・・・』
ん?
リーリエが何か言ったみたいだが・・・よく聞き取れなかった。
なんだろう?
「シノブ、わたしはこれでも50年近くは生きているのよ。まぁ、ニンゲン換算だと多分17、8位だと思うけどさ。叔父様なんか200年は生きてるのに、自分よりも若い人を囮にしようとしたし、自分の子供は最初に逃がそうとしたのよ?あの馬鹿息子が私も一緒に来いって言うから、ビンタしてやったわ。」
笑ってそう言うレイリー。
しかし、俺にはわかった。
レイリーの瞳の奥に、寂しさがあった事を。
「あ〜せいせいした!これで私も自由になったし・・・」
「レイリー」
「あっ・・・」
俺はレイリーを抱きしめた。
レイリーは抵抗しなかった。
「それでも氏族と袂を分かった寂しさはあるだろう。俺で申し訳ないが、それでも温もりが欲しい時もある。顔は見えないから安心しろ。」
「・・・何よ。こんな時は気が利くんだから・・・グスッ・・・ちょっとだけ聞かなかった事にしてね?」
「ああ。」
「・・・ウワァァァァァァ・・・」
俺の胸に顔を押し付けて泣くレイリー。
俺は黙って聞かないふりをした。
リーリエも何も言わなかった。
ひとしきり泣いたからか、レイリーは落ち着き、赤くなった目をこすりながら俺を笑顔で見た。
「魚臭くなっちゃった。シノブのせいよ?」
「・・・すまん。」
そう言えば魚を処理していた最中だったな。
手ぐらい洗えば良かったか。
そんな時だった。
『・・・忍様の胸をお借りするという羨ま・・・光栄な事をしたのです。我慢なさい。それと・・・あなたはポンコツで騒がしく、ガサツですが・・・』
「ちょっと!喧嘩売ってるの!?」
突然話始めたリーリエに、そのステータスの窓を睨むレイリー。
『綺麗な心持ちと一人では無いことは私が保証しますよ。私も居ますし忍様も居られます。寂しさはそれで紛らわせなさいな。』
「リーリエ・・・うん、ありがとう。色々余計な言葉もついてたけどさ。」
優しい声色でそういうリーリエ。
やはり、彼女も優しいようだ。
そんなリーリエに微笑むレイリー。
そうだな。
俺たちが寂しさを感じられないくらいにしてやろう。
あんな思いをするのは、前世の俺だけで良い。
俺はそう誓うのだった。
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