第3話 魔物との初遭遇
「さて、そろそろ肉を獲らないとな。」
ここに来た日、たまたま庭のすぐ側にウサギが来たので仕留めて肉を入手したのだが、それ以降動物は見ていない。
少しずつ消費していたのだが、流石に一週間を越えると、無くなった。
付近の散策は既にしており、リーリエがまっぴんぐ?というのをしてくれているので、地形は把握済みだ。
少し離れているが、湖や川もあり、飲み水はなんとかなっている。
「よし、行くとするか。」
俺は、手製の弓と、剣鉈と腰鉈をそれぞれ腰に履いた。
剣鉈と腰鉈について説明すると、形状が大きな違いだと思う。
先端が尖っていてナイフのような形状なのが剣鉈で、四角い形状をしているのが腰鉈だ。
それぞれ、使用の際の状況に応じて使い分ける。
例えば、木のつるや植物を切ったりするのは腰鉈で、獲物を仕留めたり解体するのは剣鉈が優れている。
俺は常に自給自足だったので、2種類共に作って持っていた。
そう、俺は鍛冶も自分でしていたのだ。
この二本も、昔・・・というか前世に作っていたものだ。
この世界に来て、女神様が持ってきてくれた自宅を調べてみて驚いた。
俺が作ったこういった刃物や器などもあったからだ。
今の所、女神様には感謝しかないな。
ありがたい。
そんな事を考えながら歩いていると、動物のフンを見つけた。
どうやら、このあたりにはやはり何かがいるようだ。
フンを見る限り、ウサギのものと思える。
ちょうどいい。
俺は更に警戒して歩く。
そして、それと並行して罠をしかける。
簡単なものだが、効果的だ。
毎日確認に来よう。
捜索を続けていると、視界にウサギが草を食べているのを見つけた。
俺は弓を構える。
引き絞って弓を放つ。
矢は一直線に飛び・・・外した!?
ウサギは驚いて飛び上がり逃げていてしまった。
「くっ・・・腕が鈍っている・・・というか、力加減がまだうまくいかないな。」
どうやら、若返った影響なのか、微妙にコントロールがうまく言っていない。
これは、他の事にも同じで、早急になんとかせねばならんな。
そう、思っていた時だった。
『警告!異常接近する個体あり!魔物と思われます!!』
いきなりリーリエがそう言った。
魔物だと!?
俺は弓をつがえて付近を警戒する。
すると、
「グルルル・・・」
一頭の黒い狼が現れた。
魔物って狼の事なのか?
『魔物とは、魔力で汚染された生き物をさします。魔力で汚染される事で、汚染前よりも凶暴かつ強力になります。ご注意を!逃走を進言します!』
逃げろって事か。
だが、
「グルルルルル・・・」
とても逃してくれるとは思えん。
腹を決めるか。
「来い!」
俺は剣鉈を構える。
弓では外した時、対処出来ない。
今の俺では、おそらく狙ったところに弓を当てる事は出来ないだろう。
「ガァッ!!」
「うおっ!?早い!!」
魔物が飛びかかって来た!
俺は思わず転がって躱した。
かなり早い。
狼とは、前世で相対した事がある。
その狼とは比べ物にならない。
『危険です!まだ今の忍様では勝ち目は・・・』
「黙ってろ!!気が散る!!」
集中しなければ。
俺は剣鉈を向けて威嚇しながらその挙動を見守る。
「グォゥ!!」
また飛びかかってきた。
俺は横にずれながら剣鉈を振るう。
剣鉈は当たらなかったが、牽制にはなったようだ。
それが何度か繰り返される。
「ふぅ・・・」
汗が滴り落ちる。
しかし、拭っている暇も無い。
視線を切れば、隙を晒す事になる。
ぽとり、ぽとりと顎から汗が落ちる。
「グォォォォ!」
「ここだ!!」
俺は飛びかかってきた魔物に土をぶつける!
この土は転がった時に剣鉈を持つ手と逆の手で握っていたものだ。
突然顔に土がかけられ、顔を振る魔物。
「隙あり!せぁっ!!」
「ギャンッ!!」
俺は剣鉈を喉に突き刺した。
めり込む感触。
「ふんっ!!」
そのままねじって喉を引き裂く。
血がどっと溢れる。
魔物はフラフラとして・・・どさっと倒れた。
「・・・ふぅ。助かった。」
少しの間剣鉈を構えていたが、魔物は動かなくなったので、死んだと判断してその場に倒れ込む。
『・・・驚きました。まさか、魔物に今の状態で勝つとは・・・』
「まぁ、中々のものだろ?これでも前世では熊だって相手にしていたんだからな。」
『・・・本当に驚きました。』
唖然とする気配を感じる。
どうやら、リーリエはかなり感情表現が大きいみたいだ。
人間とかわらんな。
『ですが、』
ん?
リーリエの声色がちょっと変わったような・・・
『忍様。あまり無茶をするのは止めて下さい。せめて、もう少し勝算を持ってからにして下さい!いいですね!』
「あ、いや、その・・・」
あまりの剣幕に驚く。
まぁ、剣幕と言っても声だけなんだが。
しかし、リーリエは許してくれない。
『いいですね!』
「あ、はい・・・すみません。」
しどろもどろに謝る。
俺は何故自分のすてーたすに怒られているのか・・・
『・・・心配なんです。どうか、お願いします。』
その言葉と声色に、何故か心が揺さぶられた。
なんだこれ!?
よく、わからない。
だが、自分がとても情けなく感じた。
「・・・悪かったよ、リーリエ。今後は出来る限り気を付ける。」
『・・・はい、差し出がましい事を申しました。』
リーリエの声色がいつもの平坦な感じに戻る。
俺はホッとすると共に・・・先程の感情がなんだったのかを考えた。
俺は、何故、リーリエに申し訳なく感じたのか・・・
魔物を担いで川に向かう。
湖は家から2キロメートル位だが、川なら500メートルくらいにある。
そこで魔物の血抜きを行った。
なんでも、リーリエの話によれば、魔物も食えるらしい。
それと少し不思議な事もあった。
何故か足取りが軽い・・・というか、先程よりも剣鉈が軽く感じるのだ。
『それは、魔物を倒した事で、忍様の力が向上したからだと思います。』
リーリエによれば、魔物を倒すと、魔力とその魂の持つ力をその身体に内包して力があがるそうだ。
「それって、身体や魂が魔物に近づくって事か?」
『いえ、そうではありません。魔物は汚染されてなるものですから。内包されたからと言って汚染されるわけではありません。』
気になって聞いてみると、そんな回答が来た。
まぁ、問題が無いなら良いか。
とりあえず、今日は肉が食える。
大事な事は、それが全てだ。
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