第1話 世界の果て
「ふぅ・・・しかし、ここは何も無いな・・・いや、あるにはあるが。」
周りを見ると、深い森の中。
近くにあるのは、自分の慣れ親しんだ家。
今、男は付近の木を斧で切り倒している。
「ここに来て一週間か。幸い、周囲の森には食える山菜も獲物もいるが・・・にしてもここが世界の果て、か。」
男は思い返す。
自分がここに来た理由を。
そう、それは男が死んだ時から始まったのだ。
『目覚めなさい。』
・・・ここは?
目を開け、周りを見る。
何も無い世界。
ただ、真っ白な世界。
その中に、一人椅子に座る女性。
この世のものとは思えないほど、寒々しく美しい、それでいて何か得体のしれない力を感じる。
『目が覚めたみたいね。』
「ここは・・・どこだ?あんたは誰だ?」
『私は、あなたがいた世界とは別の世界の神よ。』
「神・・・だと?」
男は、女性をまじまじと見る。
確かに、美しさは人ならざるものと思えるほどだ。
そして、うっすらと感じる畏敬の念。
なるほど、確かに神なのだろう。
「神様が俺になんの用でしょうか・・・ん?俺、だと・・・?」
『ふむ、やはり精神が肉体に引っ張られているようね。ほら、これであなたの姿を確認してみなさい。』
「これは・・・」
女神が何もない空間に大きな姿見を出し男に向けた。
男はそれを見て驚愕する。
その姿は、死ぬ間際のよぼよぼの己の姿ではなく、自分が一番力に満ち溢れていた二十歳前の姿だった。
『あなたは一度死んだわ。そして、その魂を呼び寄せ、若返らせ、生まれ変わらせたのよ。』
「・・・なぜ、俺なんでしょう?」
そう問い返すと、女神は少し目を見開いた。
驚いているようだ。
『・・・へぇ。思ったよりも冷静なようね。ふむ、実は、あなたにはお願いがあるのよ。』
「それが、生き返らせた対価というわけですか。」
『・・・本当に驚いたわ。想定していたよりもずっと知恵もあるのね。あなたは限界集落・・・よりももっと過酷な場所で一人生きていた筈でしょう?』
「お袋が読み書きを教えてくれました。家は確かにど田舎でしたが、何故か本はありましたからそれで物事を学びました。」
そう、俺のお袋は、なぜ田舎にいるのかわからない程知識がある不思議な人だった。
『好都合だわ。で、受けてくれるかしら。』
「・・・」
考える。
別に生き返るのは構わない。
この女神が言うのが本当であれば、俺が居た世界とは別の世界という事だ。
心機一転、新しい自分で過ごすのも悪くは無い。
だが、
「条件があります。」
俺はただ利用される気は無い。
『言ってみなさい。』
「俺は、悪いことはしたくない。あなたの願いがもし悪い事であれば拒否させて下さい。」
『・・・その結果、生き返れないとしても?』
「はい。」
そう、俺は、俺の信条に反する事をしたくはない。
自分を曲げてまで生き返りたいとは思えない。
しかし、俺の答えは、女神的にはむしろ良かったようだ。
なにせ、目の前で微笑んでいるからな。
『・・・なるほど。これはむしろ良かったかもしれないわね。』
「・・・どういうことでしょうか?」
『いいえ、こちらの話よ。あなたが言う悪いこと、なんてお願いしないわ。私がお願いするのは一つ。好きなように生きて欲しい。』
どういうことだ?
俺が疑問に思っていることがわかるのか、女神は語り始めた。
『実は、その世界は既に滅んだ世界なの。言う慣れば、世界の果て、ね。』
・・・なんだって?
『ああ、誤解しないで欲しいわ。滅んだと言っても、別に世界が無くなっているわけじゃないから。ただ、文明が消え去っているだけ。滅んだ原因のここを管理していた他の神が事情によって消えてしまって、代わりに私が管理することになったの。でも、このままだと、何も産まない世界になってしまうのよね。』
「・・・それを俺にどうにかしろ、と?」
『いいえ、そこまで期待はしていないわ。ただ、あなたがその世界で生き、少しづつで良いから人の生きる領土を広げて欲しいのよ。具体的には、開拓して欲しいってだけ。』
そんなことで、どうにかなるのか?
『そうすれば、そこにリソースが生まれる。様々な物を消費し、生み出し、育てることでね。それが増えれば、出来ることも増える、そういう事よ。』
「・・・しかし、俺一人では微々たるものでは?」
『・・・本当に頭が回るわね。ええ、その通りよ?だけど、一人でやる必要は無いわ。』
・・・という事は、
『ええ、その通り、今あなたが考えている通りよ。人は死滅していない。散り散りになってはいるけどね。もし出会ったら、仲間にするのも良いと思うわ。可能であればいっぱい子供を作ってくれると嬉しいわね。』
ふむ。
『で、どうかしら?』
「わかった。俺に悪いことはなさそうですから。」
俺がそう言うと、女神はにっこり笑った。
『決まりね。じゃあ、あなたに力を授けようと思うのだけど・・・さっき言った通り、リソースがあまり無いのよねぇ・・・何か欲しい力があるかしら?一応聞いてあげる。』
・・・力、か。
俺は考える。
自分に必要なものを。
「では、俺に丈夫な身体を頂けますか?」
俺がそう言うと、女神は目を丸くした。
『そんなので良いの?もっと色々あるでしょう?』
「いえ、病気や怪我などした場合、一人ではどうにもなりませんから。」
『ふ〜ん・・・ま、良いわ。じゃあ、丈夫な身体を上げる。』
そう女神が言うと、身体が光に包まれた。
『後、一応ナビゲーターをつけてあげるわ。向こうについたら、ステータスオープン、と言いなさい?』
「すてーたす?」
『そう、そうすれば、あなたの前に黒い窓が現れる。あなたの身体の状態や能力が書かれているわ。それと、ステータスには疑似人格を付与して自我があるようにしておいたから、話も出来るわよ?』
それはありがたい。
一人に慣れているとはいえ、一人で居たいわけでは無いからな。
『あと、言語理解のスキルもつけておいたから、その世界の住人とも普通に会話が出来るからね。』
すきる?
『スキルって言うのは、能力の事よ。それがあれば他世界であろうと異民族であろうと言葉が分かるし、通じるわ。』
おお、それもありがたい!
「ありがとうござます。」
『良いのよ。さて、他に何かある?』
「いえ、何も。」
『・・・本当に、欲が無いわねぇ・・・ま、良いわ。じゃあ、行きなさい?
九十九忍。
それは俺の名前だ。
どうやら、新しい世界でも同じ名前を名乗れるらしい。
俺の名前は、親からもらった大事な名前だ。
ありがたい。
「それでは、失礼します。」
光が溢れて来る。
段々と女神の姿が見えなくなって行く。
さて、新しい世界はどんな世界なのか・・・
『・・・これで良かったの?』
『はい。』
消える直前、女神の声と、とても懐かしく感じる女性の声が聞こえた。
「ふぅ。」
転生時の事を思い返しながら木を切り倒していると、この世界の太陽がちょうど中天に来ていた。
『忍様?少しご休憩されてはいかがでしょうか?』
「ああ、ありがとうリーリエ。そうするよ。」
俺の耳に女性の声が聞こえる。
彼女は俺のすてーたす?らしい。
あれは、ここに降りた最初の日のことだった・・・
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