よく似た街⑪
事態がつかめなかった。私は、この街で私を騙る彼こそ、私の安寧を脅かすものと信じていた。私を騙るもう一人が、私の座を奪おうとしているのだと考えていた。私の大切な人たちとの思い出が食い違ってしまうのも、すべて彼が私として同胞たちを欺いたせいだと感じていた。しかしどうだろう。彼は今、街の人々によって粛清を受けている。理由はわからない。ただ彼はいま、この街に殺されようとしていた。
彼を連れ去った集団の一人が、果物ナイフを持っていた。集団の中には、見知った顔もいた。記憶が確かなら、中学の同級生だったはずだ。喫茶店にいた客の姿も見えた。じっとこちらに目を向けていた。目元ばかりが記憶に焼き付いているが、間違いない。彼らのつながりは見えてこない。それでも、もう一人の私が駄菓子屋の椅子に括り付けられていたぶられているきっかけが、喫茶店での私のたわいもない一言にあるだろうことは予想がついた。
手を差し伸べるべきか逡巡した。もう一人の私に対して抱く感情は複雑だった。私を騙ったことによる敵意。理不尽にさらされることへの同情。同時に、私は私の身も案じていた。彼がもし、私と間違えられてこのような目に遭っているのであれば、私が姿を現すことは自殺行為だ。四、五人の大人相手に大立ち回りをする自信もない。もう一人の私が、私を釣るための釣り餌だとしたらどうだろう。街はもはや、異なる顔を見せている。今までのように隠すことなく、ごまかすことなく、直視している。見知った顔でさえも、もはや信じてよい相手なのか確信できない。私は半ば、この街に帰ってきたことを後悔していた。懐かしさや大切なものとの再会を上書きして余りある恐怖が、目の前で起きている。夢ならば、どれだけよかったか。
土を踏む音を聞いて、私が振り返ると、こちらを見てぼうっと立ち尽くす人影があった。もう一人の私を引きずっていた一味の一人で、中学時代に別のクラスの担任をしていた男だった。
「やはり、妙な音がしたと思ったが、気のせいではなかったか」
男の手には、大きな鉈が握られている。いつも田んぼで見かけるおじいさんが、似た鉈を持っていたのを思い出した。
「ぬかった。見られていたとは。さて。どうしよう。街の意志を聞かねばならない」
駄菓子屋の中から、ぞろぞろと集団がわいて出る。顔は見覚えがあるのに夜のせいか、皆焦点が合っていなかった。夢遊病のようにふらふらと歩く。ただ定規で引いた線のように、統率が取れている。
もう一人の私を見ると、首元が茶色く変色し、頽れていた。口から唾液を垂らしながら、土に返ろうとしていた。
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