よく似た街⑥
母にSの家の場所を聞くと、昔と変わらず郵便局の裏手に住んでいるとのことだった。彼はこの地に残って、生活を送っているのだろう。あるいは、私と同じように、折を見て帰ってきたのかもしれない。連絡先は残っていない。どこかの節目ですべて消えてしまった。あれは、携帯を無くした時だ。惜しいことをしたと数日間嘆いたのを覚えている。
会いに行こうと思った。昔なじみの友人の顔を見て、ちくちくと心に刺さる不安をぬぐいたかった。また、これを機につながりが戻るかもしれない。自分の人生の中で、大切な存在であることは確信できる。思い出で終わらせてしまうには惜しかった。
皿を洗って食洗器に入れたあと、散歩してくると告げて、外に出た。昼過ぎの空は晴天で、アスファルトから湯気が立ち上っている。額から垂れる汗を、服の袖にしみこませる。ポチャと呼ばれた犬がついて来ようとしたので制止した。犬は眉を垂れ、家に引き返していった。帰ったらまた遊んでやろう。時刻は十三時を回る。
郵便局の場所は、身体が覚えていた。いくらか違いはあれど、昔と大して変わっていない。歩くほどに、通学路を駆けた幼き頃の記憶がよみがえる。歩幅が変わったためか、長く感じた道程も一瞬で過ぎる。何度この道を往復しただろう。時には虫取り網をもって、時にはSに貸すための漫画を抱え。手土産の一つでも用意しておけばよかった。旧友に会うには、妙に手元が寂しかった。
Sの家はすぐに見つかった。薄茶色の屋根は記憶と重なる。年季のはいった車が二台停まっている。昔、スイミングスクールの帰りによく乗せてもらった車だ。
家の前をうろついていても不審なだけなので、さっそくインターホンを押した。母に会ったばかりのはずなので、きっと自分のことも思い出してくれているだろうとあたりをつけた。うしろの道を車が過ぎていった。
「はい、どちらさまでしょう」
若い男の声だ。私は私を明かす。いくらかの沈黙をはさんで、インターホンがぷつっと切れた。すぐに玄関扉が開いて、面影を感じる顔がのぞく。間違えようもない。懐かしい姿がそこにあった。
「やぁ、どうしたの、急に。どっか遠くに行くって言ってなかったっけ」
Sもまた、母や父と同じように、まるでつい最近まで私がここに存在していたかのようにふるまった。そのことに私は落胆しつつも、久しい顔が見れて喜ばしかった。心の距離は、ひどく離れてしまったように思う。それでも一言、また一言と言葉を交わす中で、また旧来の関係に戻っていく予感があった。
「ひさびさに、こっちに帰ってきたんだ。いろいろ話したいこともあるし、ちょっと付き合ってよ」
久々を強調したが、彼はさして違和感を持たぬ様子だった。Sは二つ返事で了承し、準備のため一度家に戻る。一つ、大きな息を吐いた。話したいことは山ほどある。ただそれを彼に話すのが適切なのか、迷いが生じていた。
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