よく似た街⑤

 薄気味が悪い。おもちゃも机もすべて他人のもの。ここも他人の部屋であるかのように思え、荷物を置くこともためらわれた。収まるべき場所が見つけられず、立ち尽くしたままでいた。チクタクと時計の針が進む音。どこから聞こえているのだろう。部屋の中で反響しているようにも思える。いつしか私を取り巻いて、異なる色に染めてしまいそうだった。

 気が狂いそうだ。細々と続いていた思い出の糸は途切れて、レールから外れていく。ノスタルジーを感じていたはずのあれこれが、縁日に見かけた知らないキャラのお面のような不気味さをはらむ。いつしか、私が目をつぶった一瞬間にも、牙をむいてとびかかってくるのではないか。そう思えてならない。八年の歳月のせいだろうか。皆故郷に帰るときは、思い出との齟齬に悩まされるものなのだろうか。

 誰かが部屋にいるような気がして、慌てて部屋を出た。階段を下りる間にも、上から見下ろされているように思えて、振り返ることができなかった。台所では母が昼ごはんの支度をしていた。懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。呼ぶ声があり声の主のもとへ赴くと、将棋盤の前に座る父がいた。私はあぐらをかいて将棋盤の向かいに座る。父がくしゃっと笑う。

 記憶に一致するものばかりを追いかけるようになってしまった。ここが自分の記憶する場所である確信を得るために、証拠を集めている。母や父と向かい合っている間はまだここが帰るべき場所であるように思えたが、一人になった途端、薄気味悪さが駆け回る。私にばれていないか、壁から、天井から、床から何者かが覗いている。彼らは、私がまだ気づいていないことを確認し、しめしめと笑っている。

 視線を感じて振り返ることが増えた。父との会話も上の空になってしまった。気づけば王は詰んでいて、父は嬉しそうにしている。昼ごはんができたようで、母が呼んでいる。

「あんたが仲良かった、Sくん? 昼前にスーパーに買い物行ったときに会ったわよ」

 食卓を囲む頃合い、母から懐かしい名前を聞いた。小中のころの親友で、私の黒歴史を余すことなく知っている盟友だ。お互いに弱みを握りあっているため、信頼関係は揺るがない。名前を聞いて、記憶が順繰りによみがえってくる。大池のヌシをさがしたこと。ジャングルジムでバランスを崩しておっこちたこと。夏の夜に、溶けかけのアイスを分け合ったこと。別の高校に進学して、疎遠になってしまっていた。姿が明に浮かぶと会いたくなる。

「まだこのあたりに住んでるんだ」

 味噌汁を一口口に含む。

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