よく似た街④
気を取り直して、靴を脱ぎ、家に立ち入った。年季の入った一軒家。柱にひっかいたような傷を見つけ、昔カッターで木を切ろうとして怒られたのを思い出した。大丈夫。何も変わっていない。自分の部屋は二階にあった。荷物をいくらか残して去ったので、それも確認したかった。母に尋ねると、部屋は依然と変わらぬまま残しているとのことだった。
木の階段はぎしぎしと不安になる悲鳴を上げる。親孝行として、ここらのリフォームで、階段の修繕や手すりの設置を行うのも良いかもしれない。部屋にたどり着くまで、いくらか迷った。別の部屋を開けては、見慣れぬ、他人の部屋のような空間に惑い、そっと扉を閉める。余計な空気が漏れ出てこないよう、何としても閉ざさねばならなかった。四つ目の扉で、ようやく自分の部屋と思しき場所を見つけた。部屋の間取りが変わっているように感じるのは、八年の歳月の作用だろうか。幼少期のおもちゃなどがまだ残っているのを見つけ、私は荷物を床に置いた。
きれいな部屋だ。定期的に掃除をしてくれているのだろう。なにかまずいものは残していなかっただろうか。
私も立派に大人になった。どうであれ、今やきっと、笑い話にできるはずだ。
三段ボックスに雑に放り込まれているおもちゃを取り出して並べ、感傷に浸る。時折、見覚えのないものがあった。最近発売されたような、目新しいものもある。母か、あるいは親戚の子供が遊びに来た時などに活用したのだろうか。一緒に並べるとノイズになるため、箱に戻しておいた。
勉強机も懐かしい。コンパスの針で掘った穴が深く残っていて、バカなことをと面白くなった。写真立てが伏せてあるのに気づいた。昔の私の写真だろうか。何気なく手に取って、写真を検めた。
写っているのは四人。大学生くらいの齢に見える。男四人で、浜風に吹かれながら手持ち花火をしている写真だった。うち三人には見覚えがあった。高校の同級生の顔によく似ている。一緒に放課後ゲームセンターに通い、くだらない日常を溶かした旧友。──覚えている。
あと一人は、私だった。一緒に笑う私。間違いない。三〇年弱連れ添った仲だ。見まがうわけもない。ただ、私にはこの花火の記憶がない。この浜風吹く海岸沿いの心当たりもなかった。
単に記憶違いをしているだけなら構わない。喉の奥底から渇いた息が出てこようとする。私がここを離れたのは、大学進学を契機にしてのことだ。それ以来、故郷には一度も帰っていない。いつも適当な理由をつけては帰らなかった。
ならばなぜ、大学時代の私が高校の旧友と一緒に写真に写っているのだろう。その写真が、ここにあるのだろう。違和感が背筋を這い上がり、ここにいることがひどく気持ち悪くなった。
写真にうつるこの「私」はいったい誰なのだろうか。
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