よく似た街②

 しばらく車を走らせると、ようやく見覚えのある道が見えてきた。大人になってからの数キロは車ですぐ、電車ですぐだったので感覚がおかしくなっていたが、子供のころは、学校の半径一キロでも冒険だった。いかに小さな世界で生きてきたかがわかる。見覚えのある神社。見覚えのある山並み。見覚えのある学校。この学校は、テニスの交流試合で何度も訪れたことがある。ようやく自分の知っている、懐かしい世界に触れ、気持ちも昂る。

 小学生が横断しようとしていたので、車をゆっくりと停めた。男の子が、ぺこりとこちらに律義にお辞儀をしてから横断歩道を渡った。当然のことであっても、そこに感謝が混じるだけで、良い気分になる。ここから先は道も入り組んで、老人方の飛び出しも増えてくるだろう。いっそう慎重に運転しなければならない。

 なつかしい駄菓子屋があった。子供のころに、何度も通った覚えがある。通学路の途中なのだ。母校も間もなく見えるだろう。幼少期の思い出が形となって現れ、道々を駆けていった。懐かしい。故郷とは、なんとよいものだろう。近くのコンビニに車を止めて、駄菓子屋まで歩いた。暖簾をくぐると、懐かしい匂いがした。あっという間に体が縮んで、また幼少期に帰ったような気分になった。学校帰り、五〇円玉を握りしめて、その日のおやつを買いに走った。ちょっとずつお菓子を我慢して、友達と示し合わせておもちゃを買って、公園で一緒に遊んだ。写真も、場所も、思い出すための契機だ。もう私は、時々故郷に帰ろうと考えていた。何度も帰りたくなる匂いが、この街にはそこかしこにあふれている。

 駄菓子屋のおばあちゃんは、昔みた姿と大して変わっていなかった。背が、さらに縮こまっただろうか。まだ生きていてくれたことがうれしかった。店内には子供が二人いて、何を買おうかと相談している。いくつか消えてしまった駄菓子もあるが、ここでしか買えない特別がある。私は子供たちを見て、ほほえましい気持ちになった。

 昔好きだったおかしをいくつか買って、車に戻った。見知らぬ大人にも、街は寛容だった。私の匂いに、この街で培った何かが混じっていることを感じ取ったのかもしれない。だとしたら嬉しい。フィルムを剥いて、口に放り込んだ。昔とは感じ方は違っていても、思い出に通ずるものを見出す。楽しかったこと、今は笑い話にできるような黒歴史。すべて、この街には残っている。それは宝箱のようにきらめいて、私の心を躍らせた。この街のそこかしこをじっくりと見て回りたいと思った。

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