回転猿⑪(終)
入り口まではゴボウとジャガイモが送ってくれた。彼らはこの猿山の看守らしい。理屈や道理は、いつまでも行方不明なまま。それを追い求めることは、気の抜けた炭酸には不可能だった。
帰り際、猿山の前を通りかかる。内側から見た景色と同様に、猿たちは賑やかに、今日を謳歌しているように見える。そんな中、時折、自己犠牲の影が覗く。皆が見ないふりをして通り過ぎる中、立ち止まる猿がいる。餌の時間、猿流が激しくなり、立ち止まった猿の姿も見失ってしまう。
私は、檻に向かって、コバヤシを探していた。猿山でよき友となった猿。種族が変わろうとも、彼の姿を見まがうわけがない。彼に一言のあいさつもなく、猿山を立ち去ってしまった。ボス猿になった時点でいつか別れの時が来ることは覚悟していたが、こう檻の向こう側に立つ機会を得ると、何か一言くらい、言伝を残したい。
ゴボウの話に拠るならば、コバヤシもまた、罪を犯した受刑者なのだろう。長く、この猿山にいながら、一度もボス猿の地位まで上りつめずにいる。彼に種明かしすることもできるが、私は心の片隅に妙な胸騒ぎを感じている。
餌場の端に、うずくまる老齢の猿を見た。コバヤシは、また私に教えてくれたのと同じように、こぼれた美味い餌を拾って食べている。私の視線に気づいたのか、彼はゆっくりとこちらを振り返った。
目が合う。
コバヤシと私の気が合ったのはなぜだろう。人間として出会えていたなら、同じように仲良くなれただろうか。コバヤシは、じっとこちらを見つめている。餌を持つ手をぶらんと力なく下に落とす。彼が何を考えているのか、もうわからなくなっていた。私であることに気づいたのだろうか。手を振ろうとするも、身体は動かない。私には気になっていることがあった。
ゴボウの話では、「ボス猿」のみがこの猿山を立ち去る権利を得るという。それが更生の証明であり、それまではこの猿山で暮らさなければならない。
ならば、「ボス猿」と連れ立ってまた何匹かの猿が姿を消していたのはなぜなのだろう。それは、この猿山のシステムの意図するところなのだろうか。彼らの行方はどこに消えたのだろう。
部外者となった私には、もう突き止めようのない話だ。
老いた猿は瞬きが少ない。コバヤシはこちらにうつろに目を向けたまま。
時折、目の奥を大きな影が過ぎ去る。
「キーキーキー」
コバヤシが鳴いた。私は檻から離れ、帰路についた。帰る先は、まだ考えていない。聞きなれたはずの声が、妙に嘘くさく聞こえた。今はただ、早くこの場を離れたかった。
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