4 長雨の上がる季節の体育の時間

 体育館で跳び箱の授業だ。動きはプログラムされておらず、一馬の動きを見て真似させる。すぐできる生徒は多くない。知識を与えられても、行動にするのは難しいようだ。

 走り込みの歩幅や、手をつく角度やなどを具体的に教えると徐々にできるようになった。

 みんなが続々と跳んでいると「痛いっ」と声が聞こえた。

 すぐさま行くと、ツバサが跳び箱を跳んだ後、女子とぶつかって転んでいた。女子はぶつけた足が痛いと言っていたがすぐ大丈夫と言って跳び始めた。一方、ツバサは膝を擦りむいて血が出ていた。保健室に連れて行き、人工皮膚を傷にのせるとすぐに一体化した。

 ここで事件は終わらなかった。

 ツバサの治療を終えてツバサと体育館に戻ると、生徒は跳び箱十五段に挑戦していた。流石に人間離れしていた。

 ふざけて十五段の一番上に立っていたタケルが、ツバサを見てみんなに聞こえるように「ツバサはとろいな」といった。男子の半分ほどが笑っていた。

 ツバサは「だまれ」と俯きながらボソッと言った。聞こえてか聞こえずか。

 「悔しかったらここまで来てみろ」とタケルが言いやいなや、

 「降りてこいっ!」一馬は叫んでいた。人をバカにするために感情を教えているのではない。間違えは正す。

 どすの利いた声で「どうした聞こえないのか。ここに来るんだ」自分の前を指差した。

 しゅんとしながらタケルは降りて来た。全員が息を飲んでやり取りを見守る。

 「どういうつもりでツバサをバカにした」

  長い無言の後

 「すいません。調子に乗っていました。自分ができることを自慢したくて」と小さい声で言った。

 一馬は「自尊心は大切だが人を下げて自分を上げてはいけない。タケルはクラスで一番できるから、ツバサに飛び方を教えてやって欲しかったのに。まずは謝って許してもらいなさい。できるか」と聞くと、タケルは下を向いたまま頷いた。

 タケルはゆっくりツバサに近づいて行き「ごめん」とだけ言った。ツバサは無視をした。ここでチャイムが鳴り、生徒はバラバラに教室へ戻った。

 人間らしくなったと思う一方、ツバサの孤立が心配だった。


 放課後、一馬は白衣の男に呼び出された。定期的なヒアリングだ。

 ロボットはどうだと聞かれると

「幼稚園児程度の倫理観だけは持ってますが、まだ人間ではありません。これぐらいの受け答えができるロボットなら僕の時代にもありました」と答えると白衣の男は順調なら良いと答えた。

 一層努力しますと残し一馬は帰った。


 一馬が家に帰った頃、白衣の男は一人の生徒に会っていた。

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