3 燕の飛ぶ季節の国語の時間
教科書等の教材は昔の中学校のものを用いた。漢字などは教えればすぐに覚えた。これはすごいなと思ったが、難しいのはこれからだった。
『走れメロス』を題材に登場人物の心理描写を読み解くのだが、人を疑うことから教えなければいけなかった。この授業は何時間もかけてロールプレイの手法をとった。ロールプレイとは役を決めて小さい劇をやるのだ。
〜『走れメロス』の簡単なあらすじ〜
メロスは王に意見したら捕まってしまった。友人のセリヌンティウスに人質になってもらい、三日の猶予をもらい妹の結婚式に行った。人を信じることのできない王は、メロスは戻ってこないと言う。友人との約束を守るため満身創痍になって戻って来たメロスを見て王は人の心を取り戻した。
メロス役はタケルが立候補した。サツキが勇気を出してセリヌンティウス役に立候補した。一馬はみんなと関われるようにと思い、ツバサを王役にした。
王に意見する理由から教えなければならなかった。一人一人幸せの形があり、そのために主張が違うのだ。ロボットにはない感情だ。全員が同じでないからこそ成り立つと教えた。
初めは捕まえた王が一方的に悪者のように見えた。しかしその裏にも物語があることに気づき、単純に善悪を決められない。
「なんで妹は結婚したいんですか」女子生徒が聞いた。
「愛する人と幸せを誓いあえるなんて素敵な事じゃないか」と言うと女子生徒は、そうなんですねと真顔で答えた。
初めはこんな調子だったが、桜の木が緑に色づく頃には
「王は戻って来たメロスを罰しなかった。これこそ約束破りなのではないですか」
と生徒が言うと
「王の考えが変わったんだ。優しくなった」と小さい声でサツキが答えた。
わかってるじゃないか。と一馬は笑顔で答えた。
ロールプレイを通し、役になりきる事で人そのものになる。サツキも自分に自信ができてきたようだ。
うまくいっていると感じたのはある頃から生徒の顔つきが多様になったときだ。雨の日は憂鬱そうだったし、遠足の前の日はみんなソワソワした。放課中は何人かでおしゃべりに興じていた。
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