第4話 知らない町

「本当にボスコはこっちで間違っていないんだろうな・・・」

 フォルスに教えてもらった通りに海岸沿いを歩いているが、朝から歩き通すも一向に人の気配がない。あれだけ体力がありそうな人の基準で半日ってことで本当は二日ぐらいかかる距離だったりしないだろうな。

「腹減ったな・・・」

 弁当をフォルスにあげてしまったので、昨日の朝ごはんから何も口にしていない。

 日も落ちてきたし、どこかで眠ろう。空腹も寝れば忘れられるかもしれない。

 休めそうなところがないか辺りを見渡していると、沖に光が浮かんでいた。

 舟だ。それも漁師のような人が乗っている。

 力を振り絞り、手を振り、声を張り上げ続けることで、ようやく気が付いてもらえた。

 レベル人でもエイズル人でもいいから何か食べさせてくれ。


 フォルスの言う通りボスコの人達は皆親切だった。

「魚ぐらいしかないけど、遠慮なく食べて行ってよ」

 優しい漁師に助けられ無事に町まで送り届けてもらえた。おまけに食事までごちそうしてもらい至れり尽くせりだ。この二日は身体的にも精神的にも負担が大きかったので、人の優しさが身に沁みる。

 温暖な気候の港町のようだ。船着き場からまっすぐに中央通りが伸び、その通りを挟む様に石造りの建物が並ぶ。

 白塗りの建物が多くを占めており、高い建物もない。

 天気の良い日はとても景色が良さそうな町だ。

 野良猫がたくさんいるようだが、漁師が当たり前のように魚をあげている。大らかな人が多いのだろう。

 若い男にたくさん食べさせたがるのは異世界であっても共通のようで、噂を聞きつけた人が食べきれないほどの料理や果物を振舞ってくれて、宴会のように賑やかになった。

「今はこの町にもイグレシア教徒の方が見えてねえ。ごちそう用意していたんだけど、若い女の子二人だから余っちゃっていたのよ」

 孫を見るような目でご飯を盛りながらニコニコと微笑みかけてくれる。

「この町にはイグレシア教徒が少ないんですか?」

 そうよ、こんな田舎まで足を運んでくれて本当にありがたいわ、と周りのお母さん方も喜んでいる。

 苦しくなるぐらい食べさせてもらい、食休みをしているとイグレシア教徒の方に挨拶にいってらっしゃいと笑顔で見送られた。

 あれだけお世話になっておいて、無下にすることはできず、とりあえずそのイグレシア教徒のいるという宿屋に向かう。

 ここまで暖かい人が多いのであれば、もしかしたら今晩泊めてもらえるんじゃないかと淡い期待をしてしまう。

「ごめんね。こんな田舎だから普段お客さんなんて来なくてね。生憎、埋まっているんだよ」

 二人で埋まってしまうようであれば、宿屋とは言わないのでは? とは口が裂けても言えず、仕方がないのでさっきの人達に相談してみよう。

 諦めて宿を出ようとしたところ、一人の女性に声をかけられた。

「旅の人ですか? 私たちがこちらにご厄介になったばかりに申し訳ありません」

 自分よりいくらか年下であろう俺にも丁寧に接してくれる、まさに大人のお姉さんだった。

 長い髪に白い肌、濃いわけではないが整った顔立ち、妙に色気のある雰囲気、ニコニコとしておっとりした佇まいのその女性を見て思う。

 この人、絶対回復系の魔法使いだ。アラアラ困ったわとか言いながら甘やかしてくれる人だ。

 目を引く容姿と絵に描いたようなお姉さん像に気を取られていたが、この人がイグレシア教徒か。挨拶のことをすっかり忘れていたが、手間が省けてよかった。

 挨拶といっても何を話したらいいのか分からないので、ボスコの人たちに助けられて今に至る経緯を話しておいた。

 素敵な町ですよね、と微笑む姿にドキドキした。大人の女性といえば親ぐらいの年の教師ぐらいしか関りがなかったのだが、年上もありだなあ。

「実はもう一人が留守にしていまして。明日の朝まで戻らないでしょうから、よろしければベッドを使ってください」

 宿屋の主人に説明までしてくれて、お姉さんがそう言うなら構わないよ、と快諾された。

 しかも、ベッドは離れているとはいえ、こんな綺麗なお姉さんと一緒の宿で寝るなんて、ここまで恵まれていて良いのだろうか・・・。色々辛かったが初めて異世界に来て良かったと思えた。

 悶々としてしまい眠れないのではないかと心配していたが、体力は限界に達しており、満腹になったことも手伝ってお姉さんを意識する間もなく、泥のように眠りに落ちた。


 虫の羽音で目が覚める。

 一瞬で朝を迎えてしまった。寝起きの頭で見慣れない部屋に戸惑っていると、ぐっすり眠っていましたね、とお姉さんが微笑みながら俺が座る分の椅子を用意してくれる。

 まだ少ししか話しておらず、自分の素性も明かしていないのに警戒心が一切ない。男として見られていないという残念な気持ちもあるが、この人のことが少しだけ心配になる。

「もう一人の方はまだ戻らないんですか?」

 ついでもらったお茶をすすりながら、本来のベッドの持ち主にも感謝したいと思い尋ねる。

「思っていたよりも時間がかかっていますね。それだけセイレイと強い契約を結べているということなので良いことなのですが」

 顔に手を当てて困りましたね、と言うものの、とても困っているようには見えない。

「私の魔力は人並なので基本的な契約で終わってしまったのですが、それでも半日ぐらいはかかってしまいました」

 お茶を飲んでホッとする姿に癒されるが、聞き捨てならない単語を耳にした。

「魔力っていいましたか? 魔法が使えるんですか?」

 食い気味に喋ってしまったことに少し驚かれたが、どちらかというと昨日のフォルスのような不思議なものを見るような顔をされた。

「えっと・・・、それは魔法を使いこなしているかという意味でしょうか。私はまだイグレシア教徒としても駆け出しなので、そんなにたいしたものではありませんよ」

 都合よく解釈してくれたみたいだったが、魔法の存在そのものについては否定されなかった。

 自分が何も知らないことを隠しても、今みたいにボロが出るだけだろうから正直に打ち明けてみよう。このお姉さんなら親切に応えてくれるはずだ。

 何となく他の人には聞かれたくなかったので、少し外で話せないかとお願いしてみる。

 相変わらずニコニコと着いてきてくれるが、この人いつか攫われたりしないだろうか。


 町の外れの木陰になっているところまで歩く。

 野良猫が集会をしているが、人に慣れているのか近づいても動かない。

 座れそうなところを探して、自己紹介もまともに出来ていなかったことを思い出す。

「今更ですが、犬飼アルタといいます。実は俺この世界のこと何にも知らなくて・・・・。多分別の世界から来たんです」

 実際に口に出してみると、自分の怪しさに気づく。やっぱり話しちゃまずかったのではないか・・・。

 目を見開き驚かれるも、すぐに真面目に答えてくれた。

「こちらこそ申し遅れました。イグレシア教徒のフェーデといいます。別の世界から来たというのはどういう意味でしょうか・・・。海の向こうの国から、という意味でしょうか」

 フェーデさんは困惑しながらも、とりあえず話を聞いてくれそうだった。

 日本から来たこと、遺跡の近くで目が覚めたこと、攫われかけたが助けられて一人でこの町に来たこと。

 出来るだけシンプルに、言い訳や嘘に聞こえないように話してみたが、異世界人が頻繁に現れないようであれば、なかなか理解はしてもらえないだろうな。

 要所で気になった点があるような反応だったが、最後まで遮らずに話を聞いてくれた。状況は何も変わっていないが人に話すだけで随分と楽になれた。

「正直に申し上げて、アルタさんに起こった出来事、元の世界に戻る方法については全く分かりません」

 せっかく話してくださったのに申し訳ありません、と頭を下げられる。

「ただ、アルタさんがこの世界についての記憶喪失だと思って、日常生活や会話に不便しないような常識であれば、何でもお答えさせていただきます」

 これ以上無い申し出だった。元の世界の戻り方なんて、そうそう簡単に分かるものではない。今知るべきなのはこの世界の常識だ。まだエイズル人とレベル人がいるということぐらいしか分かっていないのだから。

 お言葉に甘えて質問させてもらおう。

「魔法が使えるというのがまず信じられないのですが、炎や氷を自在に操れるんですか?」

 いわゆるゲームのような攻撃魔法なのだろうか。コメディ漫画に出てくるような体が大きくなったり、生活が便利になるような魔法なのだろうか。

 実際にお見せするのが良さそうですね、とフェーデさんは俺に向けて右手を突き出す。

 目を瞑り、集中しているようだが何が起こっているのか分からない。

「どうですか? 痛みが軽くなったり、疲れが飛んだりする感覚はありませんか?」

 やっぱり回復魔法が使えるんだ、という答え合わせは置いておいて、

「・・・何も変わりありません」

 不思議そうな顔をして、再度えいっと魔法をかけてくれている。その姿が可愛らしく元気になる、という意味では魔法にかかっているが、恐らくそうではない。

 こっちならどうでしょう、と今度は右手を前に突き出した。

 突然、風が吹いたようにフェーデさんの長い髪がたなびいた。偶然かもしれないが、確かに不自然な気もする。

「治癒魔法が得意だったのですが、実力不足だったみたいですねで。この町は風のセイレイの加護があるので、風のエーテルを上手く扱えたので成功しました」

 分からない言葉が次々に出てくる。フェーデさんには申し訳ないが、開き直って端から聞いていこう。

「セイレイっていうのはピクシーとかシルフとかそういった神話や伝説に出てくる精霊ですか? エーテルは魔力を回復するようなものですか?」

「ピクシーやシルフといったセイレイがいるかは分かりませんが、星の力を私たちに貸してくださる存在のことです。『星の霊』で星霊と呼びます。例えば、この村ですと風の星霊であるマーリの加護を受けています。エーテルは空気中に含まれる魔法の材料のようなものをイメージしてみてください」

 星の霊と書いて星霊か。言葉が通じるのはご都合主義だと受け止めていたが、漢字まで存在し音読みまで共通なのはどういうことなんだ?

 しかし、なぜ言葉が通じるのかと聞かれてもフェーデさんも分からないだろう。あまり深く考えないことにしよう。

「各地に星霊が祀られており、その加護を受ける土地や人は星霊の力を借りることができます。この町にはマーリという風の星霊がいるので、風の魔法が比較的使いやすいです」

 話しながら俺の表情を読み取り、ついて来られているかを気にかけてくれる。

「この町から離れても風の魔法を使うことができますが、余程魔力が高くないと強力な魔法は使えません。星霊との契約や育ちによっても使える魔法は変わってきますが、一般的には星霊を祀るイグレシア教への信仰心や、エーテルの操作が上手いことで、より大きな魔力を借りることが出来ます」

 信仰心はあるつもりなのですが、エーテルの扱いはまだまだ未熟です、と自戒している。

「イグレシア教に入信すると魔法を使えるようになる、というイメージですか? この前イグレシア教徒に会ったのですが、どうも魔法を使えるようには見えなかったのですが」

「厳密にはイグレシア教に入信することは必須ではありません。エーテルの操作を感覚的につかんでいる方であれば、料理をするための火を起こしたり、水の流れを少し操ることは子供でも使えます。イグレシア教の教えに従うことで、より星霊について知れる、エーテルの操作について理解できるようになる、という意味ですね。なので、イグレシア教徒であっても魔法が苦手な方はいるはずです」

 魔法が使えるようには見えない、というのは初めて聞きましたが面白いですね、とクスクスと笑ってくれる。

 恐らくこの世界ではごく当たり前なことなんだろう。太陽が昇ると朝が来て、沈むと夜になるといった類の常識のようなのに、嫌な顔をせずに丁寧に教えてくれた。

 フェーデさんは人柄が素晴らしいな、と改めて思い、綺麗で優しいお姉さんから綺麗で頼りになる大人へと印象が変わっていった。

「それで、フェーデさんは何のためにこの町に来ていたのですか?」

「イグレシア教徒としての修行の旅です。各地に赴き教えを説くこともしますし、それぞれの町で星霊と契約をして、自分の研鑽に励みます。実は私はイグレシア魔導団に入団するのが夢でして。あ、イグレシア魔導団というのは魔王軍討伐のために作られた魔法使いの軍隊みたいなものです」

 サラッと聞き捨てならないことを言われた。

「この世界には魔王がいるんですか?」

 俺の言葉にフェーデさんも首を傾げる。

「アルタさんの世界には魔王がいないのですか?」

 魔王がいない世界なんて素晴らしいですね、と言う言葉に元気はなく、いかに驚異的な存在なのかが伝わってくる。

 あまり気持ちの良い話にはならなそうだが、魔王がいるなんて話を聞き流せない。どう切り出そうか悩んでいたところ、一人の女性が慌てた様子で走ってきた。

「町の外に魔物が現れました! 助けていただけませんか!」

 フェーデさんは返事をするよりも早く立ち上がり、魔物が出たという方向に走っていく。

「君も手伝って!」

 説明もなくそれだけ言い放ってフェーデさんを追いかけた。

 魔物の存在を耳にしてから、いつか来るのではと薄々覚悟していたが、初の顔合わせを心の準備も出来ないまま迎えた。


 船着き場から町の中央通りを進みながら、初めての魔物に不安がよぎる。

 魔物が現れたのは町中に伝わっているようで、みんな近くの建物に避難していた。

 ちょうど男性たちは漁に出てしまっていたようで、老人と子供、女性しか村にいないみたいだ。年頃の男となれば素性も分からない俺に声が掛るのも無理はない。

 フェーデさんを追いかけながら通りを走っていると、昨日お世話になったおばさんに声をかけられた。

「お兄ちゃん、これ使いな」

 京都に売っていそうな木刀を渡された。思いっきり振れば当然痛いが魔物相手に木刀でいいのか?

 頼んだよ、と家の中から声をかける雰囲気から、魔物が現れること自体そこまで珍しいことではないのではないかと思えた。畑で野生動物が悪さしているから懲らしめてくれ、といった感じなのだろう。

 こんな装備で大丈夫か、と新たな不安は浮かぶものの、武器を持てるだけで心強かった。

 フェーデさんに追いつき、町を出たところで馬車が見えた。三匹の魔物が様子を伺いながら馬車ににじり寄っている。

 獣とも悪魔とも形容しがたい異形の姿に驚いたが、子供ぐらいの大きさなので強くはなさそうだ。

 よく見ると一人の女の子が必死に馬車を守るように手を広げている。

「アンナさん!」

 魔物の注意を引きつつ、フェーデさんは杖を構える。

 アンナと呼ばれた少女は安堵の表情を浮かべたが、恐怖からか足がふらついている。

 まともに戦えるとは思えないが、ふらつく女の子を目にしたら、身体が勝手に動いてしまった。

 木刀を構え、意を決して少女の前に立つ。

「私が二匹を相手にしますので、アルタさんは残りの一匹をお願いします」

 フェーデさんはきっと俺に戦闘経験がないことを知らない。

 無理もない。みんなの様子を見るにとんでもない大事件が起こっている、というわけではないのは分かる。これぐらいの男なら何度か出くわす状況なんだろう。そりゃ頭数に入れられてもおかしくない。

 心臓がバクバクいっているが、とりあえず間合いをとって威嚇をする。

 この魔物がどれぐらいの知能を持っているのかは分からないが、キーキーと鳴いてくるのを見るに、敵意は伝わっているようだ。

 大丈夫、この木刀で思い切り殴れば、いくら魔物とはいえダメージがあるはずだ。

 そう自分を奮い立たせて見様見真似で木刀を振る。

 ブンッと言う音を立てながら空を斬る。後ろに下がって躱されてしまった。

 あくまでこの少女と馬車を守ることに専念しろ。深追いしてもしょうがない。

 お互いに睨み合っていると少しずつ呼吸が整ってきた。

 勇気を出して、一歩踏み込んでみる。剣先が魔物をかすめるが致命傷にはならない。

「大丈夫だよ。しっかり振れているから、よく見れば当たる」

 少女が背中越しに励ましてくれる。そういえば俺が自慢できるのなんて視力ぐらいじゃないか。

 深呼吸をして、じっくりと相手の動きを見る。

 魔物が一層甲高い鳴き声をあげて襲い掛かってきた。目を逸らさないことだけを意識していたが、反射的に迎え撃ってしまった。

 カウンターになるように横面を攻撃された魔物は明らかにダメージをくらっている。やればできる。不格好でもいい、思いっきりぶつけてやる。

 気合を入れ両手で思い切り木刀を振り下ろす。

 踏み込みが浅かったのか気もするが、脳天を打撃された魔物は断末魔と共に消えていった。

 倒すと消えるのか。グロテスクなのは苦手なので魔物とはいえ死体は見たくなかったので少しホッとした。

 状況を思い出し、フェーデさんに加勢しようとするも三匹目の魔物が炎に焼かれて消滅していくところだった。

 頭では分かった気になっていたが、魔法も魔物も間違いなく存在する世界に俺はいる。

 ほどいた手には魔物を殴った感触がハッキリと残り、小刻みに震えていた。


 町へ戻ると、みんなから感謝の言葉をかけてもらえた。しかし、町を救った英雄のような迎え方ではなく、馬車を守った衛兵への労いといった感じでたいしたことではないのを痛感する。

 木刀を返し、先に宿に戻っていたフェーデさんに合流しようとすると、先程の少女と話していた。

 どうやら昨日戻らなかった連れというのは彼女のようだ。

「遅くなっちゃってごめんなさい。でもフェーデさんが助けに来てくれて良かった。疲れてとても魔法が使える状況じゃなかったから・・・」

「当然ですよ。星霊と契約するのに随分と魔力を消耗したことですし、今はゆっくり休んでください」

 遅れてきた俺に二人が気付き、フェーデさんが改めて紹介してくれる。

「こちらはアンナさんです。先程お話に挙がったもう一人の魔導師です。で、こちらがアルタさん。国に帰る為に旅をされているそうです」

 フェーデさんが簡潔にお互いに挨拶をさせてくれる。こういう細かい気遣いができる大人になりたい。

 さっきはありがとうございました、とアンナさんが深々と頭を下げる。

 バタバタしていたので漸くしっかりと顔を見たが、同年代の美少女で今まで会った女性の中で一番綺麗だと直感する。

 チャイナドレスやアオザイに似た身体のラインをハッキリさせる白い服が、短パンから伸びた健康的に焼けた小麦色の肌とのコントラストを際立たせている。目も大きく鼻筋も通っている顔は立体的でありながら骨ばっておらず、モデルのような等身をしている。後ろに結んだ髪が

 細い首を強調していた。

 こちらこそアドバイスをくださってありがとうございました、と頭を下げるが緊張で舌を噛みそうになる。

 昨日のレベル人といい、フェーデさん、アンナさんといっぺんに綺麗な人と出会いすぎだ。

 これから出会う女性の綺麗さを凝縮でもしたのか、今後これ以上綺麗な人が現れなくても文句は言わない。

「そういえばフェーデさん、ハムン行の船には間に合いそうですよね」

 アンナさんが約束を思い出したかのように時間を確認する。

「そうね。アンナさんがお疲れじゃなければ予定通りの船で出発しましょうか。三日ほどかかるから十分休めるかとは思いますが」

 どうやら二人は村を出発して次の目的地を目指すらしい。

「もし大丈夫であればですが、お二人に着いて行ってもいいですか? まだ知らないことがたくさんあるので、是非お話を聞きたいのですが・・・」

 二人が美人だからこそ、変に意識してしまって下心があると思われたくなかったが、困っているのは本当なので、素直に同行させてもらうことをお願いしてみた。

「ええ、もちろん。初めからそのつもりでしたよ」

 ニッコリといつもの笑顔でフェーデさんが了承してくれた。アンナさんは状況が読み込めず、俺とフェーデさんの顔を見比べていたが、成り行きに任せたような笑顔で迎えてくれた。

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