117話 余裕
今日はカタリナとノーラと一緒だ。アクアはどこかへ行っている。
冒険が必要になる状況があまり無いので、最近はのんびりできているな。
ずっと完全な平和だと困ってしまうだろうけど、こういう時間があることは嬉しい。
まあ、ずっとモンスターが現れなかったところで、贅沢をしなければ一生暮らせそうだけど。
とはいえ、ずっと目減りしていく資金を見るのはつらそうだから、ある程度はモンスターに現れてほしい。
今はそんな事を考えなくてもいいか。ステラさんの家とはいえ、自宅でゆっくりするのは落ち着く。
ミストの町にいた頃には、あまり自宅の居心地がいいという感覚はなかったけれど。
今は本当にこの家が好きだと思える。ステラさんにはいっぱい感謝しないとね。
それはさておき、カタリナとノーラとの3人で一緒か。アクアもいると楽しそうだけど。
まあ、3人なら3人での楽しみがあるだろう。ノーラはカタリナの契約モンスターだけど、ぼくと一緒にいることが多い。
だから、カタリナとノーラがどういうパートナーになっているのか知る機会にしてもいいかもね。
戦いではうまく連携しているのは知っているけれど。
その辺はゆっくり知っていっても十分だろうけどね。仲が悪い感じではないから。
それはさておき、カタリナがジトっとした目でこちらを見ている。
さて、なにかカタリナが不満に思うことでもしてしまったのだろうか。
「あんた、ノーラとキスしたんだって? まあ、別にそれはいいけど。あんたが女を侍らせたいと思うのなら、それでもいいのよ」
ひどい誤解を受けている。ノーラとキスしたのは事実だけど、あれはペットと飼い主のコミュニケーションだよ。
とはいえ、カタリナは思っていたより柔らかい雰囲気だ。
だから、ノーラとキスしたのを気にしていないというのはきっと事実だ。
本気で不満なら、声色や言葉の選択ももっと刺々しくなるはずだからね。
それでも、カタリナに不誠実なのは確かな気がしているから、謝ったほうがいいかもしれない。
「ごめん、カタリナ。カタリナの言葉に答えもだしていないのに」
「あんたが前向きに考えているってのは分かってるわ。それに、どうせずっと一緒にいるんだから、ゆっくり考えればいいのよ」
そうなのだろうか。まあ、カタリナのことは大好きだし、ずっと一緒にいたいとは思うけれど。
それがどういう感情なのかはまだよく分からない。恋愛感情と言っていいのだろうか。
カタリナを長く待たせたいわけではないし、できれば早く答えを出したいとは思う。
急ぎすぎて妙な答えを出すかもしれないという懸念はあるけれどね。
まあ、仮に結婚したとしても、カタリナとならばうまくやっていけると思うけれど。
恋愛感情ではなかったところで、それでカタリナと一緒に暮らすことが嫌になるはずもないのだし。
「そうだぞ。ご主人がカタリナを嫌いになるなど、考えられん。少しずつ距離を詰めていってもいいと思うぞ」
「あたしがユーリを嫌いになることだってないわよ。だからあんたは急ぎすぎないでいいの。とりあえず受けようなんてのが、一番腹立たしいのよ」
なるほど、カタリナはそういう考えなのか。なら、急ぎすぎるのもダメかもね。
まあ、ぼくがカタリナを嫌いになるなんて、たしかに無いよね。
カタリナがぼくを嫌いになるかどうかは、ミストの町での仲違いを思い出してしまうけれど。
あの事件があったから、ぼくたちの絆がさらに深まったと考えることもできるんだけどね。
仮にカタリナにぼくが嫌われてしまったとしても、またなんとか仲直りできるように頑張ると思う。
そういう意味では、カタリナと離れることなんて考えられないよね。
「カタリナは信じているし、好きなんだけど。それが恋愛感情か分からなくて」
「あんた、そういう所はにぶそうだものね。納得だわ。でも、あたしはあんたのことが好き。男と女としてね。これは、はっきり言っていなかったかもしれないけれど」
そうなのだろうと思ってはいたけれど、言葉にされるとまた感じ方が違うな。
ドキドキするし、暖かい何かで胸が満たされそうになる。
こういう感情が恋だというのなら、それはきっと素晴らしいものなのだろうな。
やっぱり、カタリナと一緒なら幸せになれると思う。それは間違いない。
「それなのに、ぼくが誰かを侍らせてもいいなんて言ったの? カタリナはつらくないの?」
「大丈夫よ。あんたはきっと、あたしのことを大切にしてくれる。そう信じてるわ。まあ、どうせ付き合ったって、他の女に目を奪われたりするのは目に見えているもの」
カタリナは柔らかな表情だから、ぼくを信じてくれているのは本当だろう。
でも、ぼくがカタリナと付き合ったとして、カタリナが他の男に目を奪われていたら。
まだ付き合うと決めたわけじゃないけれど、今後は気をつけたほうがいいかもしれない。
ぼくはカタリナのことを傷つけたいわけじゃないから。それくらい、大切な幼馴染なんだ。
「できるだけ気をつけるよ。そういうのって不誠実に思えるし」
「気をつけたってどうにもならないわよ。でも、あんたってそういうやつよね。無駄なところで真面目というか」
「そこがご主人の魅力でもあると、カタリナも分かっているであろう? うちはご主人にしっかり悩んでもらっていいぞ」
「どうかしらね。まあ、なんでもいいわ。どうせあんたがいまさら変われやしないのよ。だから、受け入れてやるしか無いわ」
カタリナがぼくのことを受け入れてくれると言う。それだけのことが、とっても嬉しい。
ノーラだってぼくを肯定してくれているし、本当にぼくは幸せものだな。
だからこそ、ぼくはカタリナをいつでもどこでも信じていたい。
それが、カタリナを喜ばせることになると思えるから。
だって、誰かに信じてもらえるってことがどれほど嬉しいことか、ぼくはよく知っているから。
カタリナにも同じ喜びを味わってほしいと思えるのだ。
本当にカタリナには何度も助けられてきたから。体も、心も。
「それは、ありがとう。ぼくも、カタリナの全部を受け入れるつもりだよ」
「ふふっ、あんたがあたしをどう思っているのか、よくわかったわ。これなら、そうね。そう待たなくてもいいかもね、ノーラ?」
「まあ、ご主人は心の底では答えが決まっているのだろうな。自分ではよく分かっていないだけで」
カタリナとノーラはぼくの何を分かったというのだろうか。
もうぼくの答えが決まっているって、どういうことだろう。わからない。
でも、カタリナが嬉しそうに見えるってことは、そういうことなのか?
そうだとして、これからどうすればいいのだろう。
カタリナとアクアとぼくの3人で過ごしたいみたいだったけど。
ノーラも仲間に入れてあげていいのだろうか。
そもそもカタリナはぼくに何を望んでいるのだろうか。
そのあたりが分からないことには、行動の方針が決められない。
「それって、そういうこと? だとしたら、ぼくはどうすればいいの?」
「結論を急がないことね。あんたがあたしと結ばれるつもりなら、あたしとあんたとアクアの3人の子供を作る。そのつもりよ」
「3人のって、2人の子供を3人で育てるってこと?」
「アクアはあたしとあんたの子供に、アクアの要素を付け加えられるそうよ。あとは分かるわよね?」
それは、胎児にアクアが何かをするってことなんだろうか。
アクアのことだから、ぼくたちの子供なら大切にしてくれるはずだし、健康とかには問題は出ないはず。
なら、それでもいいのかな。何となく、倫理的な問題がある気がするけれど。
とはいえ、そうすればアクアもカタリナも喜んでくれるんだよね。それは魅力的だ。
でも、それは子供を道具として扱っているのではないのだろうか。
まあ、今すぐ結論を出さなければいけないことではないか。
そもそも、カタリナと結ばれるかどうかを先に考えるべきだよね。
「それで3人の子供ってこと? アクアなら、子供を犠牲にはしないか」
「そうよ。悪くない考えじゃない? あたしとあんたとアクア。この3人は絶対に離れない。その証にもなるわ」
「うちが全くかかわれんのが残念ではあるが、うちもその子供は可愛がるぞ」
ちょっと悩ましいな。カタリナが実際に子供を持ったら考えは変わるかもしれない。それは前提としてあるけれど。
なんというか、本当に子供を手段の1つとしか思ってないんじゃないかと感じる。
その考えのままだとすると、生まれてきた子供が不幸になってしまうかもしれない。
まあ、周りの人たちにも協力してもらえるのなら大丈夫だろうけれど。
でも、どの程度協力してくれるかはわからないからな。家族の問題なのだから。
「ちょっと考えさせて。すぐに結論を出すことはできないよ」
「ま、あんたならそうでしょうね。でも、それだけでは済まさないわ。ユーリ、こっちを向きなさい」
ちょっと考えるために目線をずらしたからかな? そう考えていると、カタリナはぼくの両頬を手で挟んだ。
そのまま顔を近づけてきて、キスをされる。
カタリナの唇はとっても熱いと感じた。それに、とっても柔らかい。
しばらくくっついていると、カタリナの方から離れていく。カタリナはいたずらっぽい顔をしていた。
「あんたにあたしを刻みつけてあげるわ。これからだって、何度でも。あんたがずっと悩んでいてもいいけど、あたしから逃げられるのかしらね?」
つまり、ぼくがカタリナを選びやすくするための行動なのかな?
それとも、ずっと悩んでいるのならば無理やりでも結びつくという宣言だろうか。
なんにせよ、カタリナを悲しませないような結論にしないとね。
カタリナのつらそうな顔なんて、ぼくは見たくないのだから。
「ノーラ、そんな顔をして、うらやましいのかしら? 別にいいわよ。あなたもキスをしたって。どうせ、それで何も変わったりはしないのよ」
「カタリナ、言質は取ったからな。だから、これも許してもらうぞ」
そのままノーラまでキスをしてくる。
ノーラは激しく何度も唇を押し付けてきていた。
そのままノーラが離れていったのでカタリナが視界に入る。
なぜか輝いて見えるほどの笑顔で、カタリナのことがよく分からなくなりそうだった。
「別に許してあげるわ。ノーラ、あなたもあたしの家族なんだからね」
「そうか。だが、悔しいな。カタリナがうちを許した理由がよくわかったぞ」
「ふふっ、そうね。ユーリ、覚悟しておきなさい。あんたはとっくの昔に、あたしにもアクアにも囚われているのよ。それをすぐにでも実感するでしょうよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます