6章 ユーリとアクアの世界

116話 ペットたち

 今日はアクアとノーラと3人で過ごす予定だ。

 そういえば、2人共大切なペットではあるけれど、3人一緒というのは寝るときくらいだったな。

 今ではカタリナとシィもいるから、余計に珍しい時間と言える。


 それ以外にも、アクアとノーラの会話はあまり見たことがないかもしれない。

 まあ、仲良くやっているのだろうけれど。そうでないなら、こうして3人で過ごそうとはしないだろうし。

 アクアもノーラもとっても可愛いから、2人が同時にいると、可愛いが多すぎるくらいかもしれない。

 こうしてステラさんの家で誰かと一緒に過ごす時間はだいたい癒しだ。

 けれど、やっぱりペットである2人が一番癒されるかな。


 色々と甘えてくるのは嬉しいし、落ち着くし、良いことばかりだからね。

 やっぱりペットは良いものだ。もっと増えてもいいかもしれないと考えたこともある。

 でも、それは贅沢すぎるかな。それに、今いるアクアやノーラをしっかり可愛がるほうが大事だよね。

 ただでさえ、ノーラを悲しませちゃったことがあるのだし。

 アクアが一番なのは揺るがないと思うけれど、ノーラだって大切なのだから。

 それを考えるならば、もっとペットを増やすというのは、不誠実かもね。


 まあ、今はアクアとノーラとの時間を楽しもう。

 それにしても、本当に可愛いな。アクアもノーラも楽しそうな顔をしていて、こちらまで嬉しくなってしまう。

 アクアもノーラもぼくのペットでいることを幸せだと感じてくれているんだろうな。本当にありがたい。


 今はアクアが右側に、ノーラが左側にへばりついてきている。

 とても動きづらくはあるけれど、ああ幸せだなと感じられる。

 可愛い可愛いペットが2人同時に甘えてきてくれる。これ以上に素晴らしい時間があるだろうか。

 改めて同時に甘えられると、2人の違いをつぶさに味わえるな。

 アクアは動きを止めてじっとくっついてくる感じで、ノーラは体を擦り付けてくる感じだ。


 なんだろうな。2人の性格が違うからなのだろうか。それとも、種族が関係しているのだろうか。

 まあ、なんでもいいか。2人はそれぞれ違っていてそれぞれ可愛い。それで十分かな。


「ユーリ、気持ちいい? せっかくノーラと一緒だから、2人じゃないとできないことをする」


「ご主人は罪な男だな。アクア様もうちも侍らせているのだから」


 ノーラの言うことは分からなくもないけど、ひどい言い方だ。

 それでも、ノーラらしくて可愛いんだよね。なんというか、ちょっと生意気な感じが好きだ。

 それにしても、アクアとノーラの2人じゃないとできないことか。

 こうして、両側から抱きつかれるというだけでも、それを満たしているとは言えるのかな。

 まあ、間違いなくこれから楽しくなるだろう。そもそも、2人と一緒ってだけで嬉しいからね。

 そんな風だから、どんな遊び方だとしても満足できるだろう。

 せっかくだから、新鮮な遊びをできたらいいなとは思うけれど。


「それで、どんな遊びがしたいのかな? 2人と一緒なら、何でも楽しいとは思うけどね」


「アクアも同じ。ユーリとノーラが一緒なら、何でも楽しい」


「ご主人もアクア様も嬉しいことを言ってくれるな。アクア様、つぎは何をする?」


「手を繋いでみるのもいい。ユーリ、アクアとノーラの違いを楽しむといい」


「なるほどな。ご主人はペットを並べて吟味するのだな。贅沢なことだ」


 ノーラの言う通りに贅沢な話ではある。可愛いペットが両側で手を繋いでくれて、それぞれの違いまで楽しめるのだから。

 そのままノーラとアクアが目を合わせたかと思うと、ノーラが左手を、アクアが右手を握ってきた。


 ノーラの手は温かくてちょっとザラザラしている。それで、ギュッと握りしめてきているんだよね。

 アクアの手はひんやりしていてつるつるって感じだ。握りながら、力を強めたり弱めたりしてくる。

 本当にまるで違う感覚で、肉と魚をいっぺんに食べているかのように思える。

 どちらもとても魅力的ではあるのだけれど、なかなかに感覚の処理が難しいな。

 片方に集中することができなくて、どちらも中途半端な味わい方になっているような。

 せっかく可愛いペットなのだから、余すところなく堪能したいところなんだけれど。

 とはいえ、2人が食べ比べのようなものを望んでいるのだろうから、これでいいのかもしれない。


「ユーリ、楽しい? ペットが2人いてよかった? 大好き、ユーリ」


「ご主人、うちももっと構ってくれていいのだぞ? 愛しているぞ、ご主人」


 2人が両側からささやいてくる。耳元がくすぐったいような気がするけど、なにか背中にゾクゾクしたようなものが走った。

 アクアもノーラも好意を表に出してくれて、とっても嬉しい。

 でも、それだけじゃないな。なんというか、神経にまで心地よさが送られているような?

 珍しい体験をして、心や体がびっくりしちゃったのだろうか。

 それとも、好意をはっきり告げられることが嬉しいのかな。まあ、気分がいいからなんでもいいのだけれど。


「ぼくも2人が大好きだよ。これからも、ずっと一緒にいようね」


「当たり前。何があっても離れたりしない。そんなこと、絶対に許さない」


「うちもアクア様と同じ気持ちだぞ。ご主人はうちらを飼った責任があるのだからな」


「望むところだよ。アクアもノーラも幸せにしてみせるから」


「それはもう叶っている。だから、ユーリはこれからもユーリのままでいい」


「そうだぞ。それに、ご主人も幸せになるのだからな」


 アクアもノーラも手を繋いだままこちらを向いて笑顔をみせてくれる。

 この顔が見られるだけでも、嬉しさであふれてしまいそうだけれど。

 同じ様な喜びを、この子達にも感じていてほしい。

 きっと、それは大丈夫だと信じてはいるけれど。それでもね。

 アクアもノーラも、どれだけだって幸せになってくれていいのだから。


「ぼくもすでに幸せだけど、これ以上があるっていうのなら味わってみたいかな」


「どうだろうな。うちはこれ以上の幸せなど想像できんが」


「アクアも同じ。ユーリと一緒なら、いつだって最高だから」


 アクアもノーラも今が幸せなんだな。その事実が、ぼくを最高の気分にしてくれる。

 やっぱり、大切な人の幸福は嬉しいものだ。

 アクアもノーラもぼくのペットになってくれてよかった。

 お互いがお互いを幸せにできる最高の関係だってことは間違いないからね。


「それにしても、アクアとノーラの手は随分違うよね。まあ、種族から何から違うから、当たり前といえば当たり前なんだけど」


「そう。だからこそ、2人で一緒に繋いでみた。ユーリ、どっちも好きでしょ」


「それで否定が帰ってきたらどうするつもりなのだ、アクア様は。まあ、ご主人から肯定以外が返ってくるとは思えんが」


「もちろん、2人共好きだよ。アクアの手はより繋がりを感じられるし、ノーラの手は手応えがはっきりしている。それぞれに違いがあって、とても楽しいよ」


「ユーリも褒め方が分かってきた。昔なら、どっちもいいで全部終わってた」


「ああ、たしかにそんな感じがするな。ご主人も成長しているのだな」


 それは喜んでいいのだろうか。まあ、成長しているのだからそれでいいか。

 それよりも、アクアやノーラを喜ばせやすくなったということだよね。

 それなら、もうちょっと言葉の勉強をしてみてもいいかもしれないな。

 それで、ぼくの感じているアクアやノーラを好きだという気持ちを、もっとしっかりと伝える。

 うん。ただの思いつきだけど、これは良いかもしれない。頑張ってみようかな。


「なら、もっとうまい褒め方を覚えたいね。そうすれば、もっと2人をうまく喜ばせられるからね」


「別に今でも伝わるけど。でも、ユーリがやりたいのならやってみればいい」


「ご主人がさらに魔性の男になってしまうのだな。楽しみなような、怖いような」


 ノーラは本当にぼくを何だと思っているのだろう。

 まあ、ノーラがぼくを魅力的だと感じてくれていることは嬉しいんだけどね。

 ちょっと苦笑していると、ノーラとアクアが両側から頬にキスをしてきた。

 ちょっとびっくりするけれど、そろそろ頬へのキスには慣れてきたな。

 とはいえ、2人に同時にされるのは初めてだ。いけないことをしている気分になるな。


「ユーリ、嬉しい?」


「ご主人、しっかり堪能したか?」


「あはは……ありがとう、2人共。唇の感触も結構違うんだね」


 なんてことを言っているんだぼくは。

 実際、アクアの唇は引っ付くような感じで、ノーラの唇は反発する感じだ。

 だから事実ではあるんだけど、それを口に出してしまうと変な趣味みたいじゃないか。


 ちょっと発言を後悔していると、アクアがなんだか笑顔になっていた。

 そのまま、こちらの耳元にささやいてくる。


「唇どうしの感触が、アクアとノーラでどう違うのか比べてみればいい」


「え、ええっ!? そ、そんなの耐えられないよ」


「どうしたのだ、ご主人?」


「ノーラもユーリとキスしたいでしょ?」


「なんだ、そういう話か。アクア様が許可してくれるのならば、ぜひ頼むぞ」


 ぼくは何も言っていないのに、いつの間にか2人とキスをすることになっている。

 カタリナに悪い気もしてしまうけれど、アクアもノーラもペットってことでいいんだよね?

 それなら、まだ納得できる範囲なのかもしれない。

 犬や猫にキスをするのは、聞かない話ではないのだから。


「ユーリ、早く」


 そのままアクアにねだられるがままにキスをしてしまう。

 今回のアクアはぼくの唇すべてを飲み込んでしまいそうな感触だ。

 唇の全てからアクアを感じて、ドキドキが収まりそうにない。

 少し経つと、アクアの方から離れていった。少し名残惜しさがあった。


「ご主人、次はうちの番だぞ」


 ノーラにもおねだりされる。

 今度は覚悟が必要だったけど、気合を入れてノーラにキスをする。

 ノーラの唇は弾力があって押し返してくる。

 感触の話をされたせいか、より詳細にノーラの唇を感じている気がする。

 ノーラは一回激しく唇を押し付けてきて、離れていった。

 ちょっと胸がどうにかなってしまいそうだけど、深呼吸して落ち着かせる。


「ユーリ、これからもずっと、アクアもノーラもユーリのペットだから。ちゃんと可愛がって」


「そうだぞ。万が一捨てようとしたならば、ご主人はどうなってしまうのだろうな?」


 アクアもノーラもとても色気のある表情をしていて、つい目を引きつけられてしまった。

 可愛い可愛いペットである2人を捨てるなんてあるはずがないけど、ちゃんとそれを分かってもらおう。


「アクアもノーラもぼくの幸せなんだから、2人こそぼくを捨てないでね」


「当たり前。ユーリは絶対に離さない。ノーラだってそうでしょ?」


「無論だぞ。ご主人の全部を奪ってやるぞ。せいぜい覚悟することだな」


「ユーリ、逃げようって考えても無駄。だから、アクアたちをペットにしたことを後悔しても遅い」


 後悔だなんて、そんな事をするわけがない。だから、逃げられないのは嬉しいくらいだ。

 これからもずっと一緒にいようね、アクア、ノーラ。

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