107話 好意
今日はアクアとカタリナと3人で過ごすことになっている。ステラさんの家の空き部屋で3人になっているのだ。
この3人は久しぶりって気分になるな。プロジェクトU:Reの拠点に攻め込む時は一緒だったけれど。
休日をこの3人で過ごすことなど最近はなかった。だから、今日はうきうきしているかもしれない。
最初はこの3人だけだったし、ずっとこの3人でやっていくつもりでいた。
それが、あんな大所帯になるのだから分からないものだ。
とはいえ、それはぼくにとっては良いことだった。これまでの出会いにはとても感謝している。
それでも、この3人でいると特別な感覚があるんだよね。やっぱりずっと一緒にいたからかな。
アクアもカタリナも、記憶が怪しくなるくらい昔から一緒だったんだからね。
「カタリナ、ユーリと一緒に寝るの、ユーリは良いって言ってた」
「あなた、急ぎすぎよ……でも、それならユーリ、同じ部屋で過ごしましょう? あんたにあたしに手出しする度胸があるわけないんだから、構わないわよ」
まあ、カタリナが望むわけでないのなら、そういう行為をするつもりはないけれど。
とはいえ、同じ部屋で過ごしていいと思える相手な割に、ずいぶんな物言いだ。
それがカタリナらしさだとはいえ、相変わらずの口の悪さだな。そこが可愛いところなのかもしれないけれど。
「いや、嬉しいけど……いくらなんでも危機感が薄くない? ぼくだって完全に何もしない保証はできないよ?」
「どうかしらね。あんたくらいなら、あたしだけでもどうにでもできるんだから、心配する必要はないわ」
どうだろうな。ぼくがカタリナを本気で襲おうとすれば、手段がないわけじゃないと思うけれど。
アクア水をうまく使えばノーラとの契約技だって対処できると思う。
まあ、カタリナが嫌がることをしたいわけではないんだけどね。でも、カタリナがそれに全く対策しないのはどうなのかな。
とはいえ、シィも一緒に住むのだから、変なところを見せる訳にはいかない。
多分なんとかなるか。カタリナはきれいだし可愛いし好きだけど、だからこそ傷つけたくはないのだから。
それに、アクアとの絆の証を変なことに使いたくはない。その思いがあれば、きっと大丈夫。
「アクアも止めるだろうし、そのへんは大丈夫かな。でも、カタリナは魅力的なんだから、気をつけてよね」
「当たり前よね。だけど、あんたがどうしてもっていうのなら、受け入れてあげてもいいわよ」
そんなことを言われて、ついカタリナの方をじっと見てしまった。それに、余計なことも考えてしまっている。
カタリナがぼくの欲望を受け入れてくれる……いや、シィもいるんだから、変なことはできないよ。
でも、カタリナは冗談で言っているのだろうか。なんとなく、本気が混ざっているような気がしなくもない。
そうだとすると、断りを入れるのも問題な気がするけど。カタリナが望むことなら受け入れたい。
とはいえ、今この環境では厳しいか。もし関係を持つのなら、ちゃんと準備が必要だろうな。
「あはは……流石に今の状況では難しいよ。絶対みんなに気づかれてしまうからね」
「それはたしかに問題よね。あんたとそういう事をするかはともかく、周りにバレバレってのは勘弁してほしいわ」
「そうだよね。そんなことになったら、恥ずかしいでは済まないよ」
「なら、アクアが音を消しても良い」
アクアにとんでもないことを言われてしまった。話の前提が完全に壊れてしまう。
いや、カタリナとそういう事をするのが嫌なわけじゃないけど、勇気がいるというか。
ぼくは誰に言い訳をしているんだろうか。でも、本当に困ってしまう。
アクアに見られるのも恥ずかしさはあるとはいえ、まあ耐えられる範囲ではある。
ぼくはアクアになら何をされてもいいと思っているんだからね。
だけど、それをカタリナがどう思うかだ。いやいや、カタリナがぼくのことを好きという前提で考えを進めるのは……
でも、カタリナにはキスまでされたわけだし。あれでぼくをどうとも思っていないってことはないでしょ。
「あんた、ずいぶんあたふたしてるわね。ま、いいわ。時間はいくらでもあるんだから、ゆっくりと考えていけばいいわ」
今の台詞からすると、カタリナは乗り気なように思える。
なんとなく、今のカタリナの表情は読みづらいんだよね。今まではずっとわかりやすかったと思うけど。
声色からも感情が上手く読み取れない。いつの間にそんな技術を覚えたんだろう。
まあ、カタリナが感情を隠したくらいでぼくに不利益があるとは思えない。だから、問題というほどではないかな。少し寂しくはあるけれど。
それよりも、アクアとカタリナはなにか結託している? なんとなく、そう感じた。
理由を説明しろと言われたらできないんだけど、何故か正解だと思える。
まあ、仮に当たっていたとして、それがなんの問題なのかって話だ。2人共信頼できる大切な存在なんだからね。
だから、何かを画策していたとしても構わない。ちょっと気になりはするけれど。
「まあ、急ぐことではないよね。結論がどうなるにしろ。でも、これからずいぶん生活が変わりそうだね」
「それはね。だけど、あたしたちならうまくやっていけるわ。なにせ、ずっと仲間だったんだもの」
「ぼくもそう思うよ。カタリナのことは信じられるんだ」
「どうせ誰にでも似たようなことを言っているんでしょうに。ま、いいわ。あんたが優柔不断だってことはよくわかっているつもりよ」
「カタリナとアクアのどちらかを選ぶの、ずっと悩んでそう」
アクアにまで肯定されてしまった。そんなに優柔不断に見えるかな。
でも、2人のどちらを優先するのかは悩ましい問題だ。アクアがいちばん大切だと何度も言っているけれど、カタリナだってとても大切な存在なんだ。
それこそ、2人がケンカしてしまったら、ぼくは右往左往してしまうかもしれない。
そういう意味では、2人の言っていることは正しいとしか言いようがない。
とはいえ、折衷案を出すのは得意なつもりだから、もしケンカになったら上手く2人をとりなしたいところかな。
「あはは……否定はできないかもしれないね……でも、それは2人がどちらも大事だからだよ」
「知ってるわ。でも、情けない話じゃないかしら? ま、ユーリがヘタレなのは分かってて一緒にいるのよ」
「それは喜んでいいの? まあ、カタリナが一緒にいてくれるのは嬉しいけどね」
「アクアも嬉しい。これからが楽しみ」
ほんと、アクアの言うようにこれからの生活は楽しみではある。
カタリナと過ごすのは恥ずかしさもあるけれど、喜びのほうが明らかに大きい。
やっぱりぼくはカタリナのことが大好きだ。それが恋とか愛とかなのかはわからないけれど。
カタリナはぼくのことを恋愛的な意味で好きなのだろう。キスするくらいだし。
カタリナと付き合うのも、結婚するのもまんざらではないけれど、変化が怖くもある。
これまで上手くやってこられただけに、なにか失敗してしまうのが恐ろしいんだ。
まあ、ケンカしても仲直りはできるはず。モンスターの異常発生からカタリナを助けたときのように。
「これまで一緒に住んだことがないし、ルールを決めたほうが良いかな?」
「不都合が起きてからでも良いんじゃないかしら? お互い、嫌がることはある程度分かっているでしょうよ」
「アクアは何でも良い」
確かに、いきなり相手の堪忍袋の緒が切れるような真似はしないか。
とはいえ、一切ルールがないまま上手くやっていくのはむずかしいだろう。
それでも、カタリナに反対してまでルールを作るほどではないと思う。本気で嫌がることくらい分かるからね。
ちょっとした不満はあるかもしれないけれど、それもある程度は察せるはず。カタリナがずっと隠しきってしまうならダメだけど。流石にそこまではないでしょ。
「なら、カタリナの言うようにしようか。それで何とかなるでしょ」
「そうね。強いて言えば、あんたがあたしの魅力に我慢できるかどうかかしら?」
「カタリナが嫌がるなら絶対に我慢するから、心配しなくてもいいよ」
「ま、あんたはそういうやつよね。ヘタレだもの。でも、どうしても我慢できなくなったらあたしに言えばどうにかしてやるわ」
どうにかって、何をするつもりなんだろう。まあ、カタリナだって無茶はしないはず。
とはいえ、カタリナに我慢ができないって言うのは恥ずかしいな。
まあ、きっと大丈夫だろう。今までだってどうにかなってきたのだし。カタリナが一緒に住むくらいでそこまで変わらないはずだ。
「そんな事を言えっていうの? 自分でどうにかするから、心配しないで」
「それくらいのことで恥ずかしがっていて、本当に同じ部屋で過ごせるのかしらね? ま、いいわ。あんたが望むのなら、あたしはあたしの全部をあげる。それは本当よ」
とても真剣な顔でカタリナは言うので、本気なのだろう。
まあ、ぼくだってカタリナにあげられるものなら何だってあげて良い。
でも、カタリナの全部か。色々と考えちゃうけれど、ぼくはカタリナの幸せそうな顔が見たい。
だから、カタリナが本当に望んでいないのなら受け取る訳にはいかない。
とはいえ、全部を拒否したってカタリナを傷つけてしまうようなきがする。どのあたりを選べばいいだろう。
「それは嬉しいけど、無理はしないでね。ぼくはカタリナに幸せになってほしいんだから」
「あんたと一緒にいられれば、あたしは幸せよ。だから、そんなに心配しなくていいわ」
花の咲くような笑顔で言っているので、今は本当に幸せを感じているのだろう。
ぼくと一緒にいられることがその一因となっていることがとても嬉しい。
カタリナと一緒にいられるのなら、ぼくだって幸せになれる。だから、ぼくたちはきっと上手くやれる。
「これからよろしくね、カタリナ。大好きだよ」
「まったく、どんな意味で言っているのやら。でも、あたしも大好きよ。これはあたしの本音だから」
「アクアも、ユーリが大好き。カタリナも」
「あたしもアクアが大好きよ。前にも言ったけどね」
「ぼくも2人が大好きだよ。これからずっと一緒にいようね」
それから、シィも一緒に同じ部屋に住む生活が始まった。その生活に、確かにぼくは幸せを感じていた。
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