裏 未来
カタリナと和解できて、シィが目覚めて、アクアの生活は順調と言ってよかった。
この調子でもっともっとユーリと仲良くなろうと考えたアクアは、2人きりになる機会を作ろうとする。
そして、実際にユーリと2人で少し遠出をしていた。
アクアにはユーリとしたいことは無数にあったので、すでにこれから先のことも考えていた。
周りに人がいないのだから、大きな音を出すことも、激しい動きをすることもできる。
具体的な何かが思いついていた訳では無いにしろ、アクアはこれからが楽しくなると信じられていた。
とはいえ、まずはいまユーリと楽しむことが第一だ。
最初はユーリと手を繋いで、いろいろな握り方をしてユーリの手を楽しんでいた。
それに満足した頃、アクアはユーリとの会話がきっかけで自分の手の感触を変えることにした。
アクアの手の感触を楽しんでいるユーリの姿を見ることは嬉しいし心地いい。
すでに今日という日に満足していたアクアだったが、その喜びはすぐに崩れ去る。
きっかけは突如現れた人型モンスターだった。ユーリの攻撃が通じなかったので、いいところを見せようとモンスターに近づいていくアクア。
どんなモンスターにも自分を傷つけることなどできないと信じたゆえの行動だった。
だが、唯一と言っていいアクアの弱点が突かれてしまうことになる。
それは、アクアの精神が幼いということだった。完全に油断して夢にとらわれてしまうアクア。
そこからの光景は、アクアにとって地獄でしかなかった。
目覚めたという感覚とともに、アクアはユーリと会話をする。
それから、プロジェクトU:Reの拠点を攻撃している場面に移る。
そこでユーリに明かされた自信がオメガスライムであるという事実。そこで、ユーリはアクアに嫌悪感を持った目を向ける。
「ユーリ、隠していたことは謝るから、だから、許して」
「許すわけ無いでしょ? アクアがオメガスライムだなんて知っていたら、ペットになんてしなかった。さよならだね、アクア」
「ユーリ……嫌いにならないで。アクアを捨てないで……」
「捨てるなんて人聞きの悪い事を。化け物と一緒にいるなんておかしいでしょ?」
「待って、ユーリ……」
「じゃあね、アクア。せいぜい討伐されないようにね」
「嘘、こんなの、嘘だ……」
そのまま去っていくユーリ。アクアの視界からはユーリの父親も他のモンスターも消えていたが、そんなことに気づく余裕すらなかった。
どうして。ユーリはずっと信じていてくれたはずなのに。自分がオメガスライムだからいけないのか?
そうだとしたら、こんなふうに生まれたくはなかった。アクアは絶望に沈んでいった。
そして、また目が覚めたという感覚がやってくる。
その感覚によって、先程の出来事は夢だと思えたアクア。だが、アクアの悪夢は始まったばかりでしかなかった。
アクアが進化してすぐ、無事にキラータイガーを討伐したユーリたち。
その成果を楽しもうと考えていたアクアだったが、何故かユーリに自分がカインを殺したことが知られてしまう。
「アクアがカインを殺したんだ? 最低だよ。ぼくはアクアを信じていたのに、裏切ったんだね」
「どうして、それを……」
「反論もしないんだ? やっぱりモンスターなんて信用できないんだ。アクアをペットにしたのは失敗だったよ」
「そんなこと、言わないで……」
「じゃあどう言えばいいっていうの? 人殺しとは一緒にいられない。ううん。アクアは生きてちゃいけないんだ」
そのままアクアはユーリに攻撃を仕掛けられる。
必死に逃げながら、どうしてこんな事になってしまったのかを考えていた。
カインを殺さなければよかった? でも、ユーリを傷つけている相手なのに。
そもそも、どうしてユーリに気づかれてしまったのだろう。上手く隠していたはず。
どうしてユーリに嫌われちゃったのかな。カインを嫌いじゃなかったのかな。
ユーリから攻撃されるつらさをごまかすための考えですら、アクアの心を傷つけていった。
そのままユーリから逃げ去って、これからどうすればいいのか考えて、やりたいことが一つも見つからなくて。
ユーリと一緒にいられればそれだけで幸せだったはずなのに。そう思いながら眠りについた。
再び目覚めたアクアは、今度はどんなふうにユーリに捨てられるのかと恐れるようになっていた。
それでも、なんとかユーリと会話をしようとする。
今回はステラの姿でユーリと食事にでかけたあとだった。そこで、ステラを乗っ取っていることに気づかれてしまう。
「アクア、ステラ先生に何をしたの? ……答えられないんだ。お願いだから、死んでくれないかな? そうすれば、ステラ先生は返ってくるでしょ?」
「ステラの体は返すから。だから、死ねなんて言わないで……」
「その程度の覚悟でステラ先生を弄んだんだ? やっぱりアクアのことは許せないよ。でも、ぼくだけではアクアを殺せない。どうしようかな」
その言葉でアクアはユーリが本気で自分を殺そうとしているのだと察する。
どうしてこんなことに。ただ、ユーリに嫌われたくなかっただけなのに。
それがユーリに殺されそうになっているなんて。これが現実だって言うの?
混乱の中にいるアクアだったが、やがて眠りへと誘われていった。
それから、何度も何度もユーリに嫌われる夢を見て、何度も何度もアクアの心は傷ついた。
こんな夢を見続けるくらいなら、生きていたくないとすら感じていた。
ユーリに大切にされていた感覚を忘れそうになって、そのたびに必死に思い出して、それでもユーリに嫌われてしまう。
やがて生きることを諦めることすら考え始めたアクアだったが、つぎにみた夢で世界は変わる。
カタリナを解放した際に、カタリナからユーリに真実を告げられてしまう。
そして、ユーリはアクアを敵でも見るかのような目で見るのだ。
恐れていた事態が現実となって、それでもユーリと関係を修復することを諦めきれなくて。
アクアは必死になって言葉を紡ごうとしていた。
「ユーリ、カタリナのことは助けたでしょ? だから、お願い……」
「それで、ステラさん以外に誰を乗っ取っているの? 本当のことを言ってよ」
「それは……」
「答えられないんだ。アクアはやっぱり最低だよね。信じていたぼくがバカだったよ」
「ユーリ、嫌……許して……」
「許せるわけがないでしょ? そうやってぼくのことを弄んでいたんだ? 楽しかった、アクア?」
「ユーリ、ごめんなさい……違う、違うから……」
「じゃあなんだって言うの! ぼくの大切な人を奪って何が嬉しいっていうの!」
「ユーリに嫌われたくなかっただけ。お願い、信じて……」
「それでどうして信じてもらえるって思うのかな? 化け物の考えは理解できないや」
これまでで最も大きい絶望の中に沈みそうになったアクアだったが、不意にユーリの声が聞こえたような気がした。
耳を澄ますと、たしかにユーリの声が届いたと感じた。だが、それは頭の中に響いていた。
何故頭の中に声が響くのだろう。そう考えたアクアに、ユーリとの記憶が蘇る。
これはステラの指輪の力。思いを送り合う力でユーリの心が届いているんだ。
それでも、ユーリに嫌われることをアクアは恐れていた。だが、ユーリの言葉によってその不安は吹き飛んでいく。
ユーリともう一度会って、また楽しくて暖かくて幸せな時間を過ごすんだ!
その決意とともに、アクアの意識は目覚めていった。
それからのアクアは最高の気分を味わっていた。ユーリが言葉にできないでいるアクアへの思いが伝わってきたし、はっきりと言葉で好きを伝えてもくれた。
悪夢で味わった苦しみなど帳消しにして余りあると思えるほどの幸福を感じて、アクアはどうにかなりそうだった。
ユーリは誰よりも自分のことを好きでいてくれる。そう強く感じられた。
それからアクアがユーリにキスをねだると、今度は悩むこともなく受け入れてもらえた。
だから、アクアはユーリとの絆が深まったような感覚を味わえた。
自分に対する欲望がユーリから伝わってきて、なんだか心地よさもあった。
ユーリの欲望ならなんだって叶えてあげるのに。そう考えていたが、ユーリの心を口にすることは止めた。
我慢するということは、自分のことを思いやってくれている証だ。
いずれユーリの欲望を全部味わってみるにしろ、今はこの感覚を楽しんでおけばいい。
ユーリの唇の感触を感じることも楽しいが、ユーリの心を味わうことはもっと楽しい。
アクアはステラには深い感謝をしていたが、申し訳無さも感じていた。
ユーリは強く自分のことを信じてくれている。だから、それを裏切りたくはない。
ならば、ユーリの大切な人たちに体を返すべきなのだろうか? でも、カタリナのように許してもらえるだろうか。
本当は、自分だってあの人達ともう一度話をしたいし、ふれあいたい。
だけど、きっとカタリナが特別なだけなんだ。アクアはカタリナ以外との未来を諦めていた。
カタリナといえば、3人の子供を作るという約束があった。
その未来を現実にするために、まずはユーリとカタリナの距離を縮めよう。
そう考えたアクアは、ユーリにカタリナをどう思っているかを確認した。
その結果として、自分とカタリナで夢見た未来をつくることができると判断したアクアは、ユーリにカタリナと住む提案をする。
ユーリは乗り気なようだったので、まずは3人で一緒に寝るところからだ。
ユーリとカタリナと自分と、その子どもたち。そんな人達と過ごす未来のために、アクアはこれからも頑張ると決めた。
まずは、ユーリとカタリナを結びつけるところからだ。そうしないと子供は生まれないのだから。
子供ができたら、ユーリもカタリナもきっと幸せになってくれる。
だから、その未来に向かって突き進むだけだ。アクアは新たな先を夢見ていた。
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