裏 つながり

 プロジェクトU:Reを排除することを決めたアクアは、サーシャを誘導して効率よく情報を集めさせた。

 その結果として、すぐにプロジェクトU:Reの関係者を討伐するという計画が実行できることになった。

 そのための計画をサーシャが説明している間、ユーリは強い怒りを抱いているようだった。

 なので、アクアはその怒りをユーリにどう発散させるかを考えていた。

 ユーリのことだから暴力で発散するというのは好まないだろうが、何かいいアイデアがあるだろうか。

 結局アクアは怒りを発散させるという形に拘らず、後で人との交流で癒やすという結論に達した。

 ユーリは人を傷つけるという好意にむしろ傷ついてしまうだろうという判断からだ。


 そして、ミストの町のほど近くにて、プロジェクトU:Reの本拠地を襲撃することになる。

 そのメンバーとして、ユーリと自分、カタリナを選出しておいた。その判断をサーシャを通じて伝えていた。

 この3人の問題として、このメンバーで決着をつけるといい。ユーリに直接関係のないことで、アクアは珍しいこだわりを発揮していた。


 そのまま山の麓にある研究所に侵入していったアクアたち。そこには多くの敵が待ち受けていたが、アクアにとって問題だったのはユーリが人を殺してしまったことだ。

 ユーリは人を殺せば傷つくだろうという事ははっきりしていたから、ユーリに手を汚させないように配慮していた。

 それが結果的にユーリに人を殺す覚悟を決めさせてしまった。


 アクアはユーリが人を殺して傷ついている姿を見て悲しくなった。こんなガラクタたちのためにユーリが傷ついてしまうなんて。

 アクアはプロジェクトU:Reに対する怒りをさらに強めていた。だが、ユーリの心情を思うと嬉しさも浮かんできた。

 ユーリはわざわざ嫌で仕方ないことを自分たちのために行ってくれた。それはユーリが自分たちを大好きでいる証に違いない。

 傷ついたユーリの心を癒やしてあげたいという思いと、その傷を好きだと思う感情の間でアクアは揺れ動いていた。


 自分の行動の方針を決める前に、次の敵が目の前に現れた。ユーリに似ている顔をした少女で、ユーリとの血の繋がりを感じさせた。

 プロジェクトU:Reはユーリの両親が中心であると知っていたアクアは、θをユーリの妹だと確信していた。

 ユーリは明らかにθを殺すことをためらっていたが、情がわく前に殺してしまえばいいと判断してカタリナの体で攻撃を仕掛ける。

 その攻撃は防がれてしまったが、その時のユーリの表情を見てθを殺さないという方針を決めた。

 ユーリはおそらくθが死ぬことで先程よりも傷ついてしまう。そう判断したためだ。


 θがユーリに攻撃を仕掛ける姿には腹立たしさもあったが、どこかθに既視感のようなものを覚えて怒りが和らいでいた。

 そのままθはユーリと和解していく。ユーリの嬉しそうな顔に安心すると同時に、既視感の正体にも見当がついた。

 だから、アクアはθの体を乗っ取らないことにした。ユーリの家族となってくれる相手だろうから、大切にしておけばいい。

 そうすれば、ユーリはきっともっと幸せになってくれる。

 ユーリの幸せな姿を見ることが嬉しいアクアにとって、悪い判断ではないと思えていた。


 その判断の正しさを証明するように、ユーリはθと楽しげに話をしていた。

 θはユーリによく懐いていて、これから自分がユーリに甘える時の参考にできる動きをしていた。

 ユーリに新しい幸せが出来たと喜んだのもつかの間、θはユーリの父親によって昏倒させられる。

 その時のユーリの怒りを見たアクアによって、ユーリの父親の運命はすでに決まっていた。

 ユーリがどんな判断をしたとしても、この男の未来は変わらない。そう考えていたアクアだったが、男の言葉によって思考が止まってしまう。


 自分がオメガスライムであることを意図しないタイミングで露見させられて、ユーリが少しびっくりしたような顔でこちらを見る。

 ユーリなら大丈夫だと信じていたはずなのに、頭が真っ白になっていた。

 それがユーリに男の攻撃を直撃させる隙となってしまい、アクアは大いに自省していた。

 仮に自分が嫌われてしまうのだとしても、ユーリを傷つかせていいはずがない。

 オリヴィエの与えた道具によってユーリは無傷でいたが、それがない状況だったら。

 ユーリに捨てられてしまうかもしれないという不安と戦いながら、アクアは必死にユーリの安全を守ろうとしていた。


 そのままユーリの手によって男は退けられ、ユーリはアクアに近寄ってくる。

 もし決別の言葉を告げられてしまったら。その恐怖を捨てられないでいたが、ユーリはアクアを受け入れてくれた。

 やっぱりユーリは最高だ。いつまでも、どこにいても、ユーリと自分は一緒にいられる。

 そう確信できて、アクアの頭の中は幸せでいっぱいだった。何があってもユーリは自分と一緒にいる。そう心から信じられていた。

 もう何があってもユーリを信じていればいい。高揚感に支えられながら、アクアはユーリの真心を味わっていた。


 そして再びユーリの父親と対峙する時が来た。男のモンスターは道具だという言葉は、ユーリに全く響いていない。

 ユーリのモンスターを大切にする姿勢は、絶対に自分のことが大好きだからだ。

 ユーリの思いは何度味わっても最高だ。アクアは強い興奮に襲われながらユーリの戦いを見つめていた。


 ブラックドラゴンφとユーリの戦いはユーリにとって立ち回りにくい状況になっていて、だからこそユーリがどう乗り越えるのかを楽しみにしていた。

 すると、愚かなユーリの父親がブラックドラゴンφにブレスを発射させる。

 ユーリならどうにかできると思っていたが、ユーリに褒められたいという思いがユーリをかばうという判断をさせた。

 それが功を奏したのか、ユーリは指輪の力を発動させる。


 それによってユーリにかばわれるという体験はとても貴重で、アクアは物語のヒロインのような気分を味わっていた。

 さらに雑音まじりとはいえ、ユーリの心が伝わってくる感覚がとても楽しくて、アクアはとても張り切っていた。

 それで、アクア水にアクア自身の全力を込めることにした。ユーリはなぜかそれを感じ取っていたようで、迷いなくアクア水でブラックドラゴンφに攻撃する。

 そのまま、ブラックドラゴンφは両断されていった。自分とユーリの共同作業という感覚はずいぶんとアクアを昂らせていた。


 それから、ユーリと落ち着いて意思を送り合っていたアクアは、ユーリの思いに改めて感謝していた。

 ユーリが自分との出会いを喜んでくれている。大好きだと思ってくれる。

 それらの感覚はアクアに幸せを運んできて、改めてユーリと出会えて良かったという思いを強めていた。


 プロジェクトU:Reに関する事件は一旦落ち着いたが、問題もあった。θが目覚めないということだ。

 ユーリは明らかに悲しんでいて、だからこそどうにかしたいという思いがあった。それでも、θが目覚めない理由はわからない。

 なので、ユーリの両親から情報を引き出すことに決めた。


 アクアはユーリの両親が捕らえられている牢へと向かう。

 そこにはユーリの両親がともにいて、アクアの姿を見て歓喜したような顔をしていた。


「アクア、やはり私に協力したいと考えたのだな。さすがは私の作品だ」


 一体この男は何を言っているのだろうか。アクアには全く理解できないでいた。

 アクアにとってユーリの両親を惨たらしく殺すことは迷うことのない結論である。

 今この男の目の前にいるのも、記憶を覗いてθを助けるための知識を手に入れるためだった。


「ユーリなんてダメな子を生んだときにはどうなるかと思ったけれど、あの子も役に立つものなのね」


 ユーリの母の言葉を聞いて、アクアの怒りは煮えたぎっていたが、それでも努めて冷静にいようと心がけていた。

 情報を引き出す前に死なれる訳にはいかない。それだけが今目の前にいる2人を殺さない理由だった。


「アクアがユーリを裏切るとでも思っている? ずいぶんくだらないことを」


 アクアの言葉を聞いて、ユーリの両親に明らかな焦りが浮かび始める。そして、2人は牢を開いて全力で逃げ出そうとする。

 何故か折られたはずの手足が治っているようだったが、アクアにとっては問題のないことだ。

 アクアは2人の逃走を軽く邪魔するだけにとどめて、いったん2人に牢から逃げ出してもらう。


「オメガスライムといえども、私の研究には及ぶべくもなかったか」


「そうね。あなたのおかげで、また研究を再開できるわ」


 牢から逃げ出した2人は、建物の出口へと向かって進んでいた。アクアの手から逃げられたと判断した2人の気はずいぶんと緩んでいた。

 だが、出口にたどり着いた時に真の絶望が襲いかかる。そこには、無数のアクアがいた。

 どう考えても逃げられないほどに隙間なくアクアがいて、ここでやっと2人はアクアの意図を理解した。


「私達がぬか喜びする姿を嘲笑っていたのね? なぜそんなことを」


「だって、悲鳴がここの人間に届いたら困る。お前たちには、どれだけでも苦しんでもらう」


 その言葉通り、アクアは2人を捕らえると、人気のない場所へと運んでいく。

 まずは二人の脳を支配して、必要な情報を抜き出した。

 それからが、アクアにとっての本番だった。まずは二人の全身の骨を砕き、そして癒す。

 次は手のひらの先から順に溶かしていく。その次はアクア水のようなものに溺れさせる。

 何度も何度も2人をボロボロにしては癒し、ボロボロにしては癒す。

 ずっと悲鳴を上げ続けていた2人だったが、それを繰り返すうちにアクアの仕打ちになんの反応も返さなくなった。

 そろそろ十分だと判断したアクアは、二人を癒してから牢に戻す。

 ユーリに自分がオメガスライムだと疑いをもたせたこと、θを傷つけてユーリを悲しませたこと、そもそもユーリを捨てたこと。

 様々な怒りを全力でぶつけて満足したアクアは、晴れやかな気分で本体でユーリのそばを味わっていた。


 その中で、アクアは自身の過去を思い返そうとしていた。もう過去に何も感じなくてもいい。

 だって、ユーリがくれた幸せは無限だから。落ち着いた心持ちで過去に思いを馳せていた。

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