8話 闘技大会

 ぼくの第一試合。対戦相手はマカロフというらしい。ぼくと同じく、剣を使う相手だ。試合開始の合図を前に、マカロフはぼくに話しかけてくる。


「君、武闘大会に出るには随分弱そうだねえ。良かったよ、1回戦くらいは勝てそうで。流石に初戦敗退なんてしたらかっこ悪いよねえ」


「そうですか。ぼくは勝てるように頑張るだけです」


「ふふっ、いいのかいそんな弱気で。強気だろうとぼくに勝てるようには見えないけど、せめて気合くらい見せてみたらどうだい」


 これ以上取り合う意味もないだろうと判断したぼくは剣を構える。

 相手も構えたところで、試合開始の合図が鳴る。マカロフはぼくに斬りかかってくる。数合切り結ぶと、マカロフはいったん距離を取る。


「へえ、思ったよりはやるじゃないか。でも、この程度が僕の全力だと思ってもらっちゃあ困るね」


 そういったマカロフは先ほどよりスピードを上げ、連続攻撃を叩き込んでくる。ぼくは受けに徹しながら様子を見ることにする。どの程度で息が上がるのか確認したかった。


「どうしたどうした。僕の剣技に手も足も出ないのかい? 悔しかったら攻撃してみてごらんよ」


 安い挑発だ。ぼくは聞き流しながらさらに受けを続ける。数十合受け続けると、相手に焦りが見え始める。このまま受け続けるか。そう思っていると、カタリナに声をかけられる。


「あんた、一回戦なんかで負けたら承知しないわよ!」


 その言葉を聞いたマカロフは明らかに怒った様子で斬りかかってくる。

 ぼくが応援されているのが気に食わなかったらしい。先ほどより明らかに威力とスピードを上げている。これ以上威力を上げられたらまずいかもしれない。そう思っていると、


「さっきより苦しそうじゃあないか。そろそろとどめを刺してあげるよ」


 と言いながら、全力で剣をたたきつけてくる。ぼくは剣から左手を離して相手の剣を受ける。

 予想通りにぼくの右手の剣は弾かれる。それを見たマカロフはほくそ笑むと、とどめを刺そうと踏み込んでくる。

 ぼくはその足を右足で踏みつけた。相手は体勢を崩したまま、ぼくのほうへと突っ込んでくる。ぼくはその顔面に向けて、左足を踏み込み、全力で左手を叩きつけた。


「この…… 卑怯者め……」


 そう言ってマカロフは気を失う。一回戦はぼくの勝利だ。


 一回戦が終わった後、いくらかの休憩をはさんでから、2回戦に移るらしい。ぼくはカタリナたちと話していた。


「ま、いくらあんたとはいえ、あの程度の相手なら勝つのは当然よね。1回勝ったからっていい気になるんじゃないわよ」


「ユーリ、おめでとう。アクアはユーリを信じてた」


「ユーリ君、おめでとうございます。2回戦まで、ゆっくり休んでくださいね」


「みんな、ありがとう。次も頑張ってみせるよ」


 みんなに祝われるのって、思ってたより嬉しい。

 こんな気分になれるのなら、次ももっと頑張ろうかな。そう思っていると別の方向から話しかけられる。


「ユーリも一回戦を突破したんだ。君が僕と当たるとするなら決勝戦かな? 君と当たっても手加減はしないけど、お互いに楽しめるといいね」


 ミーナは相変わらず楽しそうな様子だ。もう決勝戦の話をするあたり、かなり自信があるのだろう。

 実際、ほかの参加者たちの中では、ミーナが飛びぬけているように見えた。


「決勝戦まで行けるかはわからないけど、できるだけ頑張るつもりです」


「固いね。彼女たち相手程とは言わなくとも、もっと砕けてくれてもいいよ」


「分かった。もし決勝で当たったらよろしくね」


 そうぼくが言うと、ミーナはさらに笑みを深める。

 できればミーナと当たってみたいけど、それよりこれからの試合でちゃんと勝たないとね。


「ふふっ、楽しみにしてるね。もし負けた時は、僕の応援してくれると嬉しいな」


「その時はそうさせてもらうよ。じゃあ、次の試合も頑張ってね」


「じゃあね。決勝で会えると嬉しいな」


 そう言ってミーナは去っていく。

 そろそろ2回戦の時間か。ミーナの試合は見に行こうかな。同じ剣を使うものとして、参考になるところもあるだろう。


 しばらくして始まったミーナの試合。今回もミーナは危なげなく勝っていた。


「あのミーナってやつ、強いわね。あんた、気を抜くんじゃないわよ」


「そうだね。まずは目の前の2回戦だけど、ミーナの相手は大変そうだ」


「ユーリなら大丈夫。次も勝って」


 ミーナは強い。できることなら温存しておきたいけど、それで決勝までに負けたら意味がない。ペース配分が課題になりそうだ。


 それから、ぼくの試合の番がやってきた。次の相手はアーノルド。槍使いだ。ステラ先生に要注意だといわれていた槍が相手だし、気が抜けないな。


「1回戦、見事だった。剣だけに意識を向けず、手足まで使えるとはな。ただの素人ではないらしい。

 だが、それは相手が剣だからだ。槍のリーチ相手に多少手足が使えたところで、役には立たん。お前はここで負ける定めだ」


「ミーナと決勝で戦いたいからね。ここで負けるつもりはないよ」


「ここで勝ったところであいつには勝てまい。あきらめるのが賢明だ」


 そのやり取りの後、試合開始の合図が鳴る。アーノルドは構えたまま動いてこない。待ちの構えのようだ。しばらくたっても攻めてこないので、ぼくから攻撃を仕掛けることにする。


 アーノルドはぼくが間合いに入る瞬間、槍を振り下ろす。速い。

 剣で受けると相手はすぐに槍を引き、突きを繰り出す。受け止められる気がしなかったので避ける。アーノルドと距離ができたが、追撃は仕掛けてこない。あくまで待ち続けるつもりのようだ。


 どうしたものか。槍の先の方はかなりのスピードだ。とにかく近づかなくてはじり貧になるだろう。

 振りは受けることができるが、突きは難しい。槍を横から弾いてみるか。


 ぼくはもう一度近づく。今度は突きで来るらしい。それに合わせて剣を振る。狙い通り槍を弾けた。

 そのまま近づこうとすると、アーノルドは上に弾かれた槍を回して、今度は下から振り上げられる。近づく前にまた攻撃をされたため、ぼくは受けながら槍の進行方向に飛び、また剣の射程外に離れる。


 それから、何度か近寄ろうとするものの、そのたび遠ざけられる。困った。打つ手が思いつかない。少し考えこんでいると、


「いい加減降参したらどうだ。お前では俺には勝てない。これ以上無様をさらす前にあきらめるんだな」


 と降参を持ちかけられる。格好が悪いくらいで降参してたまるか。格好つけて降参するより、格好悪くても最後まであがいてやる。いや、格好をつけるか。他に策は思いつかないしやらないよりはましだ。


 ぼくはもう一度アーノルドに近づく。槍を振り下ろしてきた。

 策はないが、剣で槍を受け止める格好で、狙い通りだというつもりで笑った。

 アーノルドは剣に槍が当たることを避け、槍を戻し、突きを繰り出した。無理に軌道を変えたため、いつもほどのキレがない。

 ぼくは剣を槍に横から合わせると、槍をずらしながら接近する。近づききったところで、アーノルドの首元に剣を突き付ける。


「はっ、やられたな。今回はお前の勝ちということにしておいてやる」


 そう言うと、アーノルドは槍を投げ捨て、両手を挙げる。2回戦もぼくの勝ちだ。


 試合を終えて休憩していると、また皆から祝いの言葉をかけられる。


「おめでとうございます、ユーリ君。この大会で剣が槍に勝つのは本当に珍しいんです。ユーリ君が大きな壁を乗り越えられて、先生は嬉しいです」


「あんた、少しはやるじゃない。この調子であのミーナをコテンパンにしてやりなさい」


「ユーリ、さすが。次も頑張って」


 この瞬間が本当に嬉しい。勝った瞬間より今のほうがいい気分だ。問題なく終えられればそれで十分だと思っていたけど、本気で優勝を目指したくなってきた。まずは準決勝だ。


 そして始まった準決勝。ミーナは今回も特に苦戦することもなく勝ち上がっていた。次はぼくの番だ。


 ぼくの相手はスタン。弓使いだ。弓でここまで勝ち上がるなんて、とんでもない人だな。ぼくは警戒心を強める。彼は話しかけてくることはせずに構える。

 試合開始の合図が鳴ると、即座に距離を取りながら射かけてきた。早い。

 それを避けると、もう次の矢が迫ってきていた。慌ててそれも避ける。

 なるほど。このペースで撃たれるなら、弓使いに不利なルールで勝てたのも納得だ。それから必死で避け続けていると、カタリナから檄が飛ぶ。


「あんた、そんな奴に負けるんじゃないわよ! あたしの足元にも及ばない奴でしょう!」


 すごい物言いだ。だけど、避け続けている中で勝機が見えてきた。

 スタンはぼくから見て左に射かけるときは右目を細め、右に射かけるときはそのままみたいだ。それに、移動したい方向へ先に体重をかけている。


 カタリナならこんな分かりやすい癖はないし、カタリナの言うことも、そこまで滅茶苦茶というわけではないのかな。


 射かけるスタンは、次の矢をつがえながら右目を細めた。つまり、左に射かけてくる。

 なら、ぼくは右だ。ぼくの動きが予定から外れたのか、スタンは少しだけ撃つタイミングを遅らせた。


 次からも同じようにしながら近づくと、右側に体重をかけながらも右目を細めない。

 つまり、ぼくから見て右に矢を撃ってきて、右側に移動することになる。ここだ。

 ぼくは素早く右に動き、放たれた矢を迂回しながら、相手の進行方向へと向かう。

 ぼくが左に避けると思っていたみたいで、スタンはぼくの動きに明らかに対応できていない。そのまま弓を弾き飛ばすと、スタンは両手を挙げた。

 良かった。準決勝も勝つことができた。


 準決勝までは、あまり休憩時間は取られなかったけど、連戦になるぼくに配慮したのか、決勝戦までは少しばかり多めの休憩時間が与えられた。


 休憩時間にはこれまで通りに、みんなと話すことにする。


「あんなザコ相手なら、あんたが勝つのも当然よね。あんな奴に負けてたら、あんたと組んでるあたしが恥ずかしいのよ。

 ほんと、あんな奴でも準決勝に出られるっていうなら、あんたの代わりにあたしが出てやっても良かったかもね」


「弓使いはこの大会に出たことがありませんでしたから。しかし、彼が良い成績を収めたことで、今後のこの大会の歴史が変わるかもしれませんね」


 確かにそうかもしれない。カタリナならスタンにも勝てるだろうし、そういう人がこれから出てきてもおかしくはないよね。


「本当に驚きましたよ。ぼくが弓を使っていたなら、この大会に出場することを検討すらしなかったでしょうし。あの挑戦する姿勢は見習いたいものですね」


「カタリナ、自信満々。でも、ユーリの方がすごい」


「はいはい。あんたは誰が相手でもそう言うんでしょうね。さすがにそこまで好かれると、ある意味で羨ましいかもしれないわね。ま、あたしは別にアクアなんかに好かれたくはないけど」


 カタリナはアクアなんかと言うが、アクアを見る目はちゃんと優しい。カタリナはアクアの事を大切に思ってくれているのは間違いないだろう。

 でも、アクアのことをちゃんとフォローしないとな。


「ぼくはアクアに好かれるのは嬉しいからね。まあ、カタリナならこの大会でもいい結果を出せたかもしれないね」


 それからもしばらく会話を楽しんでいると、決勝の時間が近づいてきた。これに勝てば優勝。相手はミーナだ。

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