第16話 ドラグノン5

 彼女達の荷物と、衣服を及び装身具を集めて、ついでにもう一方の部隊の装備で使えそうな物をかき集めて舞い戻る。それから多分仲間だったであろう男性二人の装備も。

 戻って来ると少女達は薬で傷を治して多少はマシな状態になっていた。ただ近寄ると目に見えて警戒するのが判る。


「アリス様、はやっては駄目です。奴には武器があっても傷を付けられません。亜竜とはいえ竜族。今の私達では下手な抵抗は寿命を縮めるだけです。」

「だがイライザ、私には貴方達を守る使命がある。」

「いいえ、貴女は守られる存在です。守る指名は私達3人のものです」


 あの娘、イライザっていうのか。怖がらせ過ぎて悪い事したな。イライザの言葉にアリスが泣きそうな顔をする。

 驚かさない様にゆっくりと歩み寄り荷物を降ろす。そして少し距離を置く。アリスとイライザが荷物を検めて苦い顔をしながら衣服を纏っていく。そういえば起伏に乏しいとはいえ、年頃の少女の裸体を見ても性的な刺激を感じないな。人の肌より、かつて寄り添った同族の鱗の模様の方がそそられる。尻尾の付け根の腹側の鱗の並びがなあ。

 そんな事を思い出して少し寂しくなる。

 アリスとイライザは落ち着いて来ているが、あとの二人、小柄な魔法使いの方は一方はまだ呆然としているが錯乱している様子は無い。もう一方は姿が見えない。探すといつの間にはこちらに寄ってきていた。


「ねえ、ライアン。どうしてそんなに離れているの?」


 こちらに声を掛けてきた。そして少し呆けてから自分の胸に視線をやり慌てて隠す。小柄ながらも向こうの剣士二人よりは主張のあるものだ。


「ごめんね、そっか気を使ってくれてたんだよね。言ってよエッチ」


慌ててアリス達の下へ駆け戻り一緒に使えそうな装備を見繕い始める。それを見て呆けていたもう一人もそれに混ざる。

 なんだか不穏な気配がする。誰だよライアンって。

 やがて服を纏った所で再び彼女が寄ってくる。


「もう大丈夫。アリス様達の着替えは終わったからこっちに来て。森で離れるのは心配だよ。」


 そう言ってこちらの手を掴んで引っ張る。弱い力だが抵抗する気も起きず引かれて少女達の輪に混ざる。


「ニーナ、そのこいつは」

「アリス様、ライアンを連れてきました。これからどうしますか。」


ニーナか。ナイフで背中を切られた方の娘だな。ああ、アリスって娘の顔が曇ってる。いやニーナ意外皆か。アリスと目が合う。先程の敵意に満ちた警戒の目でなく、救いを求める様な視線だ。


「ライアン、荷物の回収は助かった。ポーションを回収出来たから傷を治せたぞ。」


 イライザが口をぎごちなく喋る。


「そうだなライアン助かった。いつも頼りになるな君は」


 微妙な空気のまま野営に適した場所迄進行する事になった。イライザが前にたって進む。アリスとリノがその後に続き、その後から自分と、そして自分と手を繋いだ状態のニーナが続く。

 程無くして開けた場所に出たので、そこで休むことになった。

 片手でナックルウォークをするのは中々バランスが取れない。

 無言で野営の準備がされていく。簡易なテントが張られ焚火は起こさず魔除けの香を焚いて携帯食を皆が齧る。その輪に混じっている。


「同行した鉄の猟兵の暴挙についてはギルドに報告すべきだろうな。だがどこまで信じてもらえるだろうか。」

「裏で指示した者が居るでしょうからね。狙いは間違いなくアリス様だったでしょう。」


 アリスの言葉を皮切りにイライザと二人で今後の方針を話し始める。リノとニーナと共に黙って聞く。会話の内容から読み取れるのは、アリスがそれなりの身分のある身の上であり、破壊対象だった剣の所持者だった事から特別扱いを受けていた事。あの剣は主人を選ぶ特別な物でその主人は勇者として扱われるらしい。

 そして、剣の所持者として魔物退治に明け暮れるアリスを快く思わない勢力がある事。アリス達ほ部隊が幼馴染である事。


「私のせいでオスカーとライアンは」

「アリス様、それ以上は」

「そうですよアリス様。確かにオスカーの事は悲しいですし、今も信じられません。でもライアンはこうして無事ですし。」


 ニーナがアリスとイライザの会話に割り込みながら視線をこちらに向ける。

 それを追って向けられる視線がいたたまれない。

 二人は言葉に詰まるし無言だったリノは今にも泣き出しそうだ。


 そこで話は終わる。イライザが何とか交代で番して休むという話を切り出し、そのまま休む流れとなる。

 二人が番をして3人が休む。最初の組み合わせは自分とイライザになった。


 こんな状態でもテントから直ぐに3種類の寝息が聞こえてくる。疲労の度合いが伺える。


 イライザは暫く黙ってこちらを見つめていた。自分は目を合わせない様に視線を外す。


「奇妙な魔物だな。竜族は高い知性を持ち、意思の疎通が出来るらしいが、亜竜のお前もそうなのか?」


 イライザの言葉に視線を向けて

目が合う。そしてその瞬間、何かが通じるのを感じた。それはイライザも同様の様だ。


「まさか、これは。そうなのか。言葉がわかるのか?」


質問調だが確信を持ち確認する為の言葉に首を縦に振る。

 この仕草が偶然では無く、意味のある物だと通じた様だ。イライザが絶句する。

 それからは怖ず怖ずとだが質問を話しかけられる。それに肯定と否定のみだが返事を返した。


「まさか、偶々居合わせただけだったのか。しかも私達を助けてくれたのに、錯乱した私が落ち着く迄木の上に拘束したのか。」


 結果として色々と都合よく解釈してくれた。


「最初から敵意は無かったのだな。だからニーナは。あの娘は感受性が高いからな。」


 そこで何か言い淀んてから言葉を続ける。


「ニーナはあの娘はこれからどうなるのだろう。」


 それはこちらに問うというよりも自問する様だった。そこからニーナについて話を始める。

 ニーナはアリスの幼馴染であり学友との事だ。付き人であり護衛でもあるイライザとオスカー、ライアンとは異なりアリスの通う教室の生徒であり優秀な成績を修めていた。そしてイライザ同様に護衛として付き従っていたライアンに想いを寄せていた。付き合いは長く初等教育の頃からで十年近いそうだ。そして、ライアンもニーナに対して同じ想いでいたらしい。正式な交際はしていなかったが、ちょっとした切欠で二人の仲が進展するのは周囲の目には明らかであったという。


「このまま帰るのが怖いよ。街には今回の事を仕組んだ権力者がいるし、ニーナの事を彼女の両親に話さなくては。私やライアン達はアリス様の盾となって散るなら本望だが、彼女は違う。共に学び共に笑う友人だったんだ。」


 目を伏せて掠れる声を漏らす。かける言葉が見つからない。


交代の時間になり、アリスとリノが出て来る。イライザは天幕に戻る。自分はその場に残る。


「アリス様、リノ、あの亜竜は言葉が通じます。敵意も無いようです。必要以上に恐て逆に怒らせない方が良いかと。」

「なんと、言葉が?竜の仲間は賢いと聞くが亜竜もか。」


 そんなやり取りが聞こえた。そして好奇心に満ちた視線をこちらに向けている。

 そしてイライザと同様に質問をしてくるのでそれに返事を返していた。

 途中喉が乾いた様なので浄化の聖水を使うと、とても驚かれた。


「君のような魔物が街の近くに縄張りを持ってくれると、助かるのだがなぁ。」


 アリスの言葉には首を振っておく。


「ねえ、貴方は他にどんな魔法が使えるの?」


 横からリノが声をかけてきた。今まで無言だったが魔法の事には興味がある様だ。ミーティアを使って地面を射つ。


「もしかして、星の魔法?」


 肯定する。


「凄い、御伽話でしか見た事無い。」


 スターセイバーを出して草を刈る。


「光の剣の魔法!!凄い、もしかして貴方は昔の勇者に星の魔法を授けた賢竜なの?」


 リノが興奮しているが彼女の言葉には否定する。古の賢竜を知らないのかという問には肯定。そんなお伽噺がこの世界にはあるらしい。知らないと判るとリノが教えてくれた。


 お伽噺の中でも有名な話で、様々な地域で多少の差異はあれど同じ話が伝わっている。

 かつて6人の魔王が世界を支配していた時代の勇者の物語。

 禄に武具も作れない環境にあった勇者は古の賢竜から魔法の手解きを受け、魔王達に立ち向かい人類を開放したという。その時に活躍したのが魔王達の中に使える物が居なかった星の魔法であったという。魔王達は其々の苦手な属性を互いに補完しあい、協力して居たが誰も星の魔法には対策が取れ無かった事が打開の切欠となったそうだ。

 そして、どの物語でも共通して勇者は光の剣の魔法を得意としていたとなっている。


「星属性は魔法使いの憧れなの。でも光属性と違って複合属性を極めても覚えられない選ばれた者だけの叡智でもあるの。」


 光と星の属性は魔法使いの目標との事。闇は魔王達の得意属性だった為に不人気だそうな。リノは風属性に適性があり、自力でいくつか魔法を習得している。最も早く光属性を習得する方法は体系化されていて、火属性、風属性を習熟し雷属性に至り、その三属性を更に習熟する事で光属性に目覚めるのが早道との事だ。

 生まれた時から光の属性に適性がある者や他の属性を極める事でも光属性に到れるが、リノは火属性を覚えて行く方向で修行しているそうだ。ただ、新しい属性に目覚めるのは中々難しいらしい。


「どんなに弱い物でも、火のオーブがあれば身につくのだけど。オーブは、今までの話で解る通り貴重で、特に火の魔法は弱くても便利だから手に入らないの。売っていても、貴族ですら中々手が出ないの値段で。」

「すまないな。友人として協力したくはあるが、オーブは王族とそれに連なる家の管轄でな。」


 オーブねえ。初級のオーブがインベントリにあった筈。2個あるな。属性は火と土。

 取り出してリノに差し出す。

 何が起きて居るのか理解出来ない様で、ぼうっとこちらの手の上のオーブを見つめている。

 使用対象を選べる様なのでこっちで使ってしまおう。


『リノがフラムを習得しました』


 頭の中に表示される


「え、ええ?」


オーブが消えさり、リノが困惑の表情を浮かべる。


「フ、フラム」


 言葉と共にリノ眼前の小さな火が灯る。


「うそ、本物。」


 リノが目を見開きこちらを凝視する。その反応に満足して目を逸らす。


 それ以降、二人は何も言わなくなった。

 静かに時間は過ぎてニーナとアリスが交代する。ニーナは迷わずこちらの隣に座りニコニコしている。それを見ながらリノは表情を完全に殺している。ただ、目を見れば瞬きを細かく繰り返し、視線も定まって居ない。

 もたらされた新たな魔法を得て混乱状態になり、さらにニーナの素振り、それに疲労からの眠気も重なりパンクしているのだろう。余計な事を口走って、今のニーナを刺激するのは避けたいので沈黙してくれるなら問題ない。今のニーナは襲われた恐怖と意中の相手を喪った喪失感で心が壊れかけている。防衛の為にこのような状態なのだ。せっかく助けた相手が、精神病んで廃人になるとか、後味悪いのでこれ以上悪化する前に安全な場所で落ち着かせたい。

 幸い友人には恵まれている様なので、慰めて貰いながら思い切り泣いて落ち着いて欲しい。


 リノがイライザと交代し、空が明るくなってきた。

 夜明けと共に移動を始め、もう一晩森で過ごしてその翌日の午後に漸く森を抜けた。まだ遠いが彼女達の住む街の外壁が遠くに見える。街道を行く人の姿も。四人が安堵の空気に包まれた。ここからは大きな危険は無いだろう。何かあるとすればアリスを亡き者にしようとした者達だろうが、態々森の奥でことに及ぶ連中だ。余り表立っては仕掛けられない立場なのだろう。今しばらくは街中の方が安全だ。

彼女達の冒険はここからは一先ずのエンドロールといった所だろう 

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思いつき。ドラグノンと、幼馴染は転生者、お兄様も転生者 @mAcchang

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