第15話 ドラグノン4

 最初は何かの見間違いかと思った。若い青年達が武器を下ろした所で先ず襲われたのは青年達の部隊の男だ。頑丈そうな鎧と大盾を持った部隊の盾役だった青年が首に短剣を突込まれ倒れた。他のメンバーは何が起きたかわからないという様子だ。そのままもう一人の男にも剣が振り下ろされるが、彼はそれを防いだ。そこでようやく事態を把握するが、動きの止まった所を後から刺されて絶命する。

 そこからは数に押されてしまう。相手は非常に連携の取れた部隊だ。数で不利となると為す術もない。青年意外の女性達はそれぞれ武器を奪われ押し倒される。男達と違い一息に命を奪わないのは、わかりやすい目的あっての事だろう。衣服を引き裂いていく。青年は剣を輝かせようとするも、女達を盾にされ躊躇した所を殴り飛ばされ倒れた所で剣を持つ手をメイスに潰されて、武器を手放してしまう。

 そこで青年は引き起こされ下の衣服ごと胸当てを剥ぎ取られる。顕になった上半身は起伏はささやかなれど女性のソレであった。

 むき出しの腹部メイスが打ち込まれる。先端は鳩尾に食い込み柄が肋を砕いただろう。

 それでも吐瀉物を吐きながら青年改め彼女は砕けた手を自分の愛剣へ伸ばす。それを見透かした様に凌辱されかけていた少女の一人にナイフが振り下ろされる。

 遠目に見ていた自分にもその悲鳴は聞こえた。それにより再度意識を剣から離した所で暴漢と化した部隊のリーダーが彼女の剣を拾い上げる。そしてこれ見よがしにその剣で彼女の胸を浅く切りつけ、地面に投げ捨てる。そしてその剣へメイスを振り下ろす。金属音が響く。剣は折れない。だが男は2度3度とメイスを振るう。何度目だろうか、剣が目に見えて曲がって来た所でマップから破壊対象のマークが消えた。

 それでも男は見せしめの様にメイスを振るった。そして使い物にならなくなった剣を、呆然して胸元を隠す仕草も忘れた女へ投げ付ける。

 そこで彼女の表情に恐怖が浮かぶ。他の女性への凌辱も再開される。



 まぁ、いくらなんでもこれ以上手出ししないというのは無理だ。あまりに気分が悪い。

ミーティアがリーダー格の男の頭部を穿つ。男の頭が大きく揺れ足から力が抜ける様に倒れる。そこへ飛びかかり、足の鉤爪で首から上を鷲掴みにして振り回す。獲物を仕留めるのと同じ要領だ。

 続いて、丁度ズボンを下げた所だった男に飛びかかる。肩に食らいつき振り上げて近くの木に叩き付ける。勢いで腕を食い千切ったのでそのまま咀嚼して飲み込む。唸りながら他の男に視線を向けると一人は武器を手にこちらへ駆け出しており、その後ろで二人は凌辱しようとしていた少女達に反撃されていた。

 向かって来る男に集中する。男の振り下ろす手斧を持ち手を掴み受け止める。もう片方の手で殴りつけると首から上が可動域を超えて曲がる。血の混じった泡を吹いて倒れるのを見下して振り返ると、少女達が半裸のあられもない姿になりながら、こちらに武器を向けて臨戦体勢を取っている。

 ただ。先程の男達に殴り倒され、凌辱の手から必死に抵抗していた為に足は震えて立っているのもやっとの様だ。リーダーの少女に至ってはまだ倒れたままだ。

 大百足との戦闘の直後でもある。体力の限界であろう。特に先頭で3人を守ろうという姿勢の長身の少女は悲壮な表情だ。その足元には先程絶命した男達のリーダーの亡骸。破壊対象のマークはその男についている。困ったな近寄ると絶対攻撃される。少女達が持っていた破壊対象は既に無いしこのまま形振り構わず逃げ出して欲しい所だ。どうした物だろうか。


「リノ!ニーナ!アリス様を頼むぞ!」


 僕と向き合っていた長身の少女が叫ぶと後の二人が倒れている少女を抱き起こす。


「こっちを見ろ化け物め!私が一番食いでがあるぞ」


叫びながら少女が切りかかって来る。止めてくれよ。そんな覚悟決めた顔で。人なんか食べる気しないよ。ああ、さっき男の腕を食ったもんな。男達を威圧する為とはいえ、それで人食いの化け物と思われてるな。ちょっと短慮だった。取り敢えず切りかかって来たのでその剣を打ち払う。

 その間に二人の少女はアリスと呼ばれた少女を助け起こして迷わず逃げ出した。片方はナイフで切られた筈だが、実際は浅く切られただけの様だ。だが白い肌に赤い線が付いて痛々しい背中だ。


「よそ見をするな、お前の獲物は私だろう。」


 少女の拳が飛んできて頭を殴られる。さほど痛くない。何度か殴られるも、ダメージは無い逆に殴る少女の手が腫れている。多分拳の骨が折れてるな。そう思った所で手の甲の皮膚を裂いて骨が突き出した。それでも拳を振りかぶるので慌てて腕を掴み抑えつける。

 そこで間近に顔を突き合わせる。


「ど、どうした臆したか化け物」


震える声で強がって見せるも、膂力の差を感じて怯えが見える。歯をカチカチと鳴らして震えているし、遂には泣き出した。小声で助けてと呟きながら涙を流し始める。完全に心が折れている。

 掴んで居た手を離す。もう殴りかかっては来ない。その場にへたり込む少女を尻目に男の遺体を漁る。破壊対象の品は男の首に掛かったネックレスに付いたメダルの様な装飾品だ。毟り取る。

 このメダル、結構丈夫だ。全力で噛んでも傷付かない。

 インベントリに収納してみる。どうやら仲間に意思を伝える効果のあるアイテムらしい。あの連携はこのアイテムの効果だったのか。耐久値無限かぁ。

 そうだと思いつき、メダルと一緒にスタートアップキャンペーンで手に入れた剣を取り出す。耐久値無限同士だ、ぶつけりゃ壊せないかな。地面においたメダルに切っ先を押し当てて見る。何か違う。上手く剣を持てていない。壊せそうだが自分にはこの剣をうまく扱えない。掴んでもすっぽ抜けそうな感じて力が加えられない。装備出来ないってこんな感じなのか。

 視線を泳がせるとへたり込んだ少女がいる。

 彼女の目の前にメダルを置き、再び剣を押し当てる。彼女の目線が僕に向いたのを確認して剣を彼女の前に置く。

 暫く動かないがゆっくりと折れていない方の手で剣を持つ。柄を握った所で彼女の表情が変わる。

 空を切る音ともに地面のメダルが両断され、破壊対象のマークが地図から消えた。剣を握る少女の瞳に光が戻る。そして強い敵意と共に僕に向き直る。

 構える前にミーティアで剣を持つ手を打ち弾き飛ばす

 あっ、と声を上げて拾いに向う少女より早く剣を回収しインベントリへ収納。この諦めの悪さは感心するよ。武器を失い、更には僕を怒らせたと思った少女は再び恐怖の表情を浮かべる。

 ただこれも演技かもしれないので少し怖がらせよう。そう思いつき、座り込む彼女の周りに転がる男達の遺体に目を向ける。その内一つを掴み近くの木に飛びのる。枝の間に挟むように固定して落ちない様にして降りる。再度、遺体を掴んで樹上のへ。

 再び降りてきた所で彼女はこちらが何をしているか悟ったらしい。目があった僕から視線をそらして覚束ない足取りで逃げ出す。それを後から押し倒し足を掴んで引きずりながら木のそばへ歩みよる。

 必死の命乞いの声が聞こえるが無視だ。体力がもう無いため抵抗も弱々しい。樹上に上がり他の遺体と同じように固定する。下手に暴れれば落下してしまう。木の高さは普通に命の危険がある高さだ。あまり激しく暴れない様に念入りに固定する。暫くこれで怖い思いをしてもらおう。

 少女を固定した所で、先に逃げた3人が気になった。3人とも手負いである。何事も無くても森を無事に出られるか心配な状態なのに、冷静さも欠いているだろう。

 特に助ける義理も無いのだが、見捨てる道理も無い。様子を見に行って見よう。そう思い飛び立った。


 亜竜が飛び去り、取り残された少女は絶望と恐怖で半ば錯乱していた。身体は木の上で拘束され頭を動かす程度しか出来ない。鳥の仲間に捕えた獲物を木の枝に刺して保存する習性がある物がいるのを知っている。今、自分がその速贄にされているのだ。何もかもが突然で目まぐるしく事態が変化していて、全くついていけてていない。討伐対象の大百足を倒した迄は良かった。落ち着くまもなく嫌な事は続く。何処からか這い出て、或いは飛んできた虫が彼女の傷口に群がる。チクチクとした痛みで、自身が貪られているのを感じる。悲鳴は森のさざめきにかき消される。傷口に小さな虫が潜り込む様を見て、体力の限界を迎えていた少女は意識を失う。ほんの短い間だがそのまま眠り夢を見る。手の傷から虫が這い出て顔にまで集ってくるのだ。不快な感触が肌を走る。同時に先程の暴漢と化した男の手を思い出す。下半身を弄られた感触。経験の無い彼女にはひたすらに不快なものであった。

そんな悪夢から直ぐに目を覚ます。現実には手の傷に虫は潜り込もうとし、あぶれた虫が顔へ這い上がって来ようとしている。悪夢と現実の区別がつかない。

 もう悲鳴も上げられない。歯を食いしばり過呼吸になり、全身を硬直させる。既に身体の制御を失い何も出来る事は無かった。

 そこへ亜竜が戻ってきた。死の恐怖と共に嫌悪感から開放される安堵が浮かび、全身が痙攣する。


 ちょっと逃げた3人の様子を確認して、向こうも駄目そうだったので、取り敢えず少女達を合流させて少しでも落ち着かせようと戻って来たら、木の上で虫に集られ凄い有様になっていた。白目を向いて色々漏らしてたれ流しながら痙攣している。


使えて良かった水の中級魔法。浄化の聖水。汚れと虫を洗い流す。普通の虫は水に浮かんて引き離されるが、何匹か溶けるように消えた。小型の虫の魔物が混じって居たようだ。

 綺麗になった少女を木からおろして、治療薬をインベントリから取り出して振りかける。

 そして動かない少女を小脇に抱えて3人の下へ向う。青年に見えた男装してたのがアリスで、小柄な魔法使い二人がリノとニーナと呼ばれていたかな?

 先程見つけた3人の様子も酷かった。

 アリスを二人で肩を貸して歩いて居たようだが、魔法使いの一人、背中を浅く切られて居た方が転んだらしく倒れていた。足首が普通は曲がらない角度に曲がって居た。骨は折れてなくてもまともに歩けないだろう既に体力も限界をらしく浅い息をしながらむせ込んで胃液を吐いていた。

背負われて居たアリスは囮になった少女を救うつもりなのか、来た道を這って戻ろうとしている。しかし、砕けた手はどんなにしても地を撫でるだけて前に進む推進力を得られない。泣きながら地面の撫で続けている。その横では四つん這いになり無表情で涙を流している少女。このままではこの三人は間違いなく行き倒れるだろう。

 もう見るに堪えない。速贄にして怖がらせた少女を抱えて戻った時も状態変わっていなかった。いや四つん這いの娘はちゃんと呼吸してないな。緊張と混乱がピークに達して身体の制御を失っている。酸欠になりかけて顔色がヤバい事になっている。取り敢えず摘みあげて口に指をかけて開かせる。引きつけを起こしたようになり、噛まれるが痛くは無い。そしてそのショックで荒く呼吸を始める。良かった。

 その様子をアリスが物凄い形相で見ている。

 小脇に抱えてきた剣士の少女をそのアリスの目の前にの置き、治療薬と回復薬を並べて樹上に戻り隠れる。どうなるやら。そうだ彼女達は衣服を剥ぎ取られていたな。それも回収してきて返した方が良いだろう。肌の露出が多くの擦り傷だらけだ。


 樹上にあった魔物の気配が去った事でアリスはようやく目の前の少女に目が向く。先程の迄命の危険を省みずに助けようとしていた幼馴染の少女だ。


「イライザ、ねえ聞こえる?」


呼び掛けに定まらない視点で空を見つめて居た少女がこちらに向き直る。


「アリス様、どうして。まさか奴に?逃げ切れなかったのですか。」


 イライザの声は心底悔しそうだ。


「違うのよ。亜竜が貴女をここに置いて行ったの。そこの小瓶と一緒に。」

「小瓶、私の夢かもしれないのですが、恐らく治癒のポーションかと。」

「貴女の傷が治ってるのを見るとそうなのでしょうね。」


 アリスは潰れていない手で小瓶を掴もうとする。それを見てイライザが小瓶を取り中身を潰れた手にかけると、傷口が塞がっていく。

 傷が治ったが所でアリスはイライザと共に未だ混乱しているリノとニーナを宥め治療する。


「イライザ、オスカーとライアンの二人は?」


 アリスの問いかけにイライザは首を振る。


「そう」


 呟く。背中の傷を治し足の捻挫も治ったがニーナはまだ錯乱している。リノはイライザに抱きつき嗚咽を漏らしているが落ち着きを取り戻しつつある。

 そんな時、樹上に再び魔物の気配が戻り少女達は表情を強張らせるのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る