第13話 ドラグノン
地上から見えない高度迄上昇する。気流等は使わず魔力に依る飛行能力のみでだ。
空気が薄くなるとかよりも気温の低下が堪える。毛皮のある生態じゃないからなあ。雲の高さまでくると、身体も濡れてより冷えて来る。それでも空気の薄さ等は感じない。高山病的な物への耐性は高いようだ。元々山の中で暮らしてるし、空も飛ぶしな。ただ低温への耐性は限度があるようだ。
ログインボーナスは相変わらず回復薬の類と、それに加えて現金だ。多分この世界の通貨。スタートアップキャンペーンは今日が最終日。インベントリに入ってきたのは紙切れだ。中級オーブ以降のキャンペーンの品は通貨と人間用の装備品だ。この装備の剣は凄いぞ獲得経験値とレベル上昇時に貰えるポイントの増加効果があって、しかも耐久値が無限と来た。装備に耐久値があるゲームなのか。確かに初期のレベル上げや雑魚狩りに有用な装備だ。自分は装備出来ないけどな。
そして最終日の紙切れ。品名ガチャチケット。しかもガチャの最高レア品確定チケットだ。凄いなぁ。どうやって使えってんだろう。
豪華特典を受け取りながら雲の更に上を目指す。ここまで出ると気流が凄く姿勢制御もままならない。姿勢を崩して落下して風が弱まった所で立て直す。飛行の高度はこの辺りが限界だろう。
そこから地上を見下ろす。距離でいうと数キロ離れている。今の自分の最高射程はミーティアの魔法で数百メートルと行った所か。この距離から地表の1点を狙い射つのは未だ無理そうである。
それが出来れば通り過ぎて来た街の破壊対象を狙えるのだが。目立つのは構わないがこの世界の住人から脅威とみなされ攻撃されるのは望ましくない。この姿になっての期間よりは人で居た期間の方が長いのだ。
子ども達や孫のいるコロニーに人が攻め入ってでも来ない限りは進んで敵対しようとは思わない。
取り敢えずの方針としては半年程でミーティアの熟練度を上げてこの高さから地表を攻撃する。もしくはもっと簡単に岩などを落とす等の方法の物理的な破壊を目指す。
インベントリに岩を詰めて落とせば出来そうな気がするそれでも正確に一点に落とす為の能力が必要だ。外して無関係の人間に被害は出したくない。ミーティアなら射程が伸びれば狙い撃てるので、その問題は解決する。バレない様にするだけで中々ハードルが高くなるものだ。
高度を落とし地上を見やる。そろそろマップにある次の対象が見えてくる筈だ。視線の先には立派な外壁に囲まれた街が見える。街の上空には飛行出来る魔物が旋回しているし、うっすらと膜の様な物が街を覆っている。
魔法の障壁だろうか。前の街には無かった。ここでは上空からの侵入や攻撃は難易度が高そうだ。
“おお、来たね。”
聞こえたくなかった声が聞こえる。
“この街は国内でも王都に次ぐ規模の都市だからね。見ての通り魔法障壁もあって守りでいうなら国境に面した防衛都市と王都には劣る物の、充実しているよ。その分の標的も多いよ。”
何とも面倒そうな話だ。
“そう言うなって、前の水源の装置みたいに急ぎで壊して欲しい物は無いからさ。”
それを聞いて少し安堵する。というか急ぎの物はそれとわかるように教えて欲しい。
“君が野生に生きている間に余裕が無くなったんだよ。こっちも直ぐに人里に出てくると思って探さなかったのは悪かったけどさ。だからこうしてわかりやすい能力を解禁してるだろ?”
確かにこの地図この機能やログインボーナスは良い物もあった。金や武器もその内使い道が出来るだろう。薬は使い道に困らない。
“ガチャチケットに関しては、ちょっと待ってくれ。”
期待しておこう。
さておき、これ以上近付くと警戒されそうなので高度を下げて近くの森に入る。
街道からも離れていて人の気配は無い。そこで腹ごしらえをして一休みだ。夜になったらまた高高度から見下して街の様子を伺おう。
日が落ちて夕闇の中を飛び立つ。見下す街はまあ平和そうだ。街を囲む外壁と内に入るための門。その門の近くは自然発生的に集落が形成されている。夜は門が閉まり、入れなかった人達が集まっているのだ。
おや?門の外に破壊対象がある。動いている?
目を凝らして見る。高度も落とす。対象はウサギの様な姿の小動物だ。草むらに隠れながら森の中に消えていく。おそらくあのサイズなら通り抜けられる穴がどこかにあるのだろう。それはさておきこれは願ってもない好機。森に入って動きを止めた小動物を着地と同時に踏み潰す。一瞬で原形を留めず散らばった。
その破片を観て何となくだがこの小動物の正体を察する。
多分人造生命体だ。自然のものではない。魔物がいる世界においても不自然な魔力を感じる。そしてこの使い道は魔法の中継地点。この魔物を通じて魔法を行使する為の存在だ。
大方、連絡手段か何かだろう。
“凄いね、こいつ認識阻害の能力で僕の目すら逃れて来たのに“
結構厄介な奴なのか。
”マップにマーキングされるが人には見えないんだ。だから今まで探させた僕の使徒は見つけられなかった。君は認識阻害の範囲外から視認して逃げるまもなく仕留める事が出来るからね。素晴らしいよ。コイツを処理出来ただけでもここでの成果は充分だな。“
相当、コイツに苦しめられたのか。
”お察しの通り、魔法による連絡係でね。何が厄介かというと、元になった小動物が特殊個体でね。僕の気配を察知出来たんだ。向こうからは僕が見えて、僕には向こうが見えない。連絡役や偵察役として本当に厄介な個体だったよ。でも今まで平気だったからと油断したね。こんな無警戒に活動してるなんて。“
結構な成果だった様だ。その夜はこの成果で満足する事になった。声の主はこれにより何か情勢が変わるらしく少し離れるそうだ。半年以内に件の水源さえ壊してくれれば今の所は十分な嫌がらせになっているらしい。まだ人に見つかって居ないし、暫くこの辺りで活動しても良いかもしれない。
街と街を繋ぐ街道を外れれば身を隠すには困らない程度に木々は茂っている。樹上を枝から枝へ跳んで移動する。木よりも高く飛ぶと遠目に見つかるので人目を避ける。
森の中の地表は外からはわからない程に起伏に富んでいる。木の根が押し上げた地面や突き出した岩石、地下水の吹き出した跡の穴。
そんな地面を見下ろしながら飛び回り、丁度よい場所を見つける。密集した太い枝が絡み合って足場を作っている。下からは他の枝が邪魔で登って来れない。上からしか見つけられない場所だ。
気に入った。暫くはここを拠点に活動しよう。
よい場所を見つけたので、この場所に営巣する。巣作りは初めてじゃない。ほんの数年前を懐かしく感じながら良さげな枝や乾いた枯れ葉で寝床を作っていく。だが時間が良くない。直ぐに日が落ちて暗くなってしまう。暗くなったら休む。隠れる必要の少ない上位の捕食者の権利である。樹上の巣も子供がいないなら敵を避けるというより、他の動物が入ってくるのが煩わしいからの物だ。
暗い森の中で静かに身を休めるのだった。
森に居を構えて数日が経った。自然の中で暮らしていて森の食物連鎖の上位に立ち、生活は安定している。この森の主は大型のムカデだった。コイツも最近外から流れて来た存在のようで、元々この森の一帯の主であった猪型の魔物に勝利し、その後見境なく生き物を食い荒らし生態系を破壊仕掛けていた。近いうちに倒さねば森の生き物を食い尽くし近隣の街にまで獲物を求めて出てきただろう。
街の住人も警戒しているようで、調査員らしき人員を森に送っていた。自分は見つからぬ様に隠れていた。
このムカデを自分が倒して、その事が知られると次の警戒対象が自分になるだけだ。誰が倒したか不明なのも望ましくない。倒した存在を警戒し捜索される。
既に自分は前の街で警戒されている。情報がここに届いていたら、同様に警戒されるだろう。
そうした警戒をしながら過ごすのも、今の身体ならそこまで難しい物でなかった。
暮らしの中で、例の俺をこちらに転生させた存在が度々やってきては話を聞く機会があった。相変わらずログインボーナスでは薬と現金。偶にオーブ。オーブは使わずにいる。火球を飛ばしたり、石礫を飛ばすのは覚える気にならない。それより星属性のミーティアを極めたい。今も樹上のから地面に連射している。連射性や狙いに精度が向上しているのが判る。
数日過ごす中で、声も度々聞こえてきた。そこで魔法について色々と教わった。
自然の摂理のように明確な法則性があるわけでは無いが、傾向として一般的に認知されている範囲の話だ。
基本的に2つの体系があり、典型的な火、水、風、土の4属性。そしてそれらを組み合わせた複合属性がある。火と風で雷、水と風で氷と言った感じだ。
それとは別に光、闇、星の三属性による体系がある。
光も闇は先の複合属性のさらに上位に位置する属性である。それと並ぶ位置に独立属性として星がある。かなり特殊な属性だ。この三属性は複合属性を作らないが、作用しあって独特な効果を発揮する使い方もあるそうだ。
魔法の習得方法は一番簡単なのはオーブの使用。次いで魔法の効果を込められたアイテムを使用続けて、その魔法を身体で覚えるとアイテム無しに使える様になる。
また、相応の修練を必要とし既に何かしらの魔法を使える前提だが、魔法を使い続けると、新たな魔法を閃くというか、学習して使える様になるという。
そんな話を聞いたのもあって、火や水のオーブを使って初級の魔法を覚えるよりも星属性のミーティアを鍛えると同時に新たな星属性の魔法を習得出来ないかと考えている。
取り敢えず寸分違わず打ち込まれる地面に小さな穴が空いている。
連続して放たれるミーティアの光芒。連なって棒状になる。ふとその棒状に並んたままにミーティアを操作する。
あ、何となくわかった。
スターセイバーを学習しました。頭の中に文字が浮かぶ。
覚えた。ちょっと感動。
使ってみると手から棒状の光が生えてくる。聞き覚えのある音と共に。
巣から出て手頃な藪に振るう。なんの手応えも無く切り払われる。切られた所が少し焦げてる。持っている自分は熱を感じない。地面に突き立てると枯葉が燃える。フォースでも使える気分になる。今は片手から一本出すしか出来ないが、これを習熟させるとどうなるか。楽しみだ。
そんな時間を過ごしていると地図に反応があった。街から破壊対象が二つ。こちらに向かってくる。気持ちを切り替えて木の上に戻り様子を伺う。十人程の集団が森へ入ってくる。
観察していると、それが2つの部隊だと判る。一緒に行動はしているが、それぞれ連携は取れていない様だ。
ただどちらも迷わず森の奥へ、大百足のいる場所へ向かっている。どちらの部隊もリーダーと思しき人物が破壊対象の品を持っている様だ。
片方は若い、青年が率いる部隊。面子も6人中3人が女性で二人の男性もそれぞれ眉目秀麗な男だ。もう片方は統一された装備に見を包んだ部隊だ。
やがて2つの部隊は大百足へ接近する。その頃には大百足も彼等に気が付き餌が来たとばかりに移動を始める。そして接敵する。
遠目には2つの部隊が連携する様子は見られないが、それぞれの部隊内での連携はよく取れている。美青年の部隊はリーダーとなる青年が振るう剣が強力なもののようで、その一太刀をあてるために上手く動いている。因みにその凄そうな剣が破壊対象だ。
もう一方の部隊はまるで1つの生き物のような連携で加えて個々の能力も高いようだ。突出した強さは見られないが、弱みも見せない。
大百足もこれには分が悪い。攻めあぐねてドンドン傷を負っている。
やがて青年の剣が眩い輝きを放ち、その後の一太刀が大百足の頭部から胴体の中ほど迄を縦に両断する。これは一目で致命傷と判る。暫くはのたうった後に百足は動かなくなった。
青年達は歓声を上げて戦いの終わりを迎える。そして武器を下ろした彼等を、もう一方の部隊が強襲する。
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