第2話 ドラグノン2

 地図機能について話をしよう。周囲のマッピングをしてくれて拡大縮小や高低差の表示や通った時の視覚映像を表示可能な超高性能地図アプリが頭の中に搭載された感覚だ。なんだろう頭の中に見えないスマホが入っていてそこにソフトが入れられた感覚だ。画面も見える。SFで頭脳の拡張として外付けの電子頭脳を取り付けられた改造人間の気分だ。

そんなわけで拡張された頭脳領域にスマホかパソコンがある感覚だ。

 そしてこれをわかって貰わないと説明しにくい出来事が起きている。


『ログインボーナスを受け取りました』

『スタートアップキャンペーンです。初心者向けのアイテムを配布いたします』


そんな言葉が頭の片隅に表示された。

 そしてインベントリ内に新たな項目イベントアイテムの欄が追加されてそこにアイテムが2つ追加された。液体の入った瓶のに数字が表示されている。


治療薬 5回

回復薬 5回


 何が違うのかと思えば治療は傷や病を癒やし、回復薬は魔力と体力の回復させるそうだ。


声の主に取ってはこの世界は遊戯の一種か何かなのかと。しかも絶対にシステム流用して雑に扱ってる。


 夜明けから少しした頃に表示された。この内容に少し呆れた。

 旅立った二日目にこれである。異世界の情緒も何もあったものではない。だが一応回復アイテムは使い道は困らなさそうだし、何より新たなインベントリ内で場所も取らないのでこれ以上文句は言わないでおこう。

 

 明るくなったので休んでいた大木の枝から飛び立つ。昨日の日暮れ前には山を抜けて遠くに人の居そうな街らしき物と、細い街道と思われる物を見つけていたのだ。地形も森から平野になるなので身を隠せて、かつ地上から近寄り難い樹上で休み夜が明けてから街を目指す事にした。

 そしていまその街に向かい飛んでいる。見下ろせば街道を進む人影見える。先頭らしき人がこちらを指さして何か言っている様だが遠くて聞こえない。

 普通に考えて自分は魔物と呼ばれる類の存在だ。そりゃ普通に近寄れば警戒もされるだろう。腕を広げなくても人間より少し背が低い程度の大きさなのだし、肉食性の強い雑食だし。人間からしたら危険な生き物だよなぁ。

 このまま街に近寄れば問答無用で攻撃されても不思議では無いだろう。急かされてここまで来てしまったが、はてさてこれからどうしたものだろうか。仮にここから見える街に件の嫌がらせ対象がいて街を襲って混乱を起こせば嫌がらせにはなるかも知れないが、無関係の人への被害は極力抑えたい。思案しながら森から地階平野の上を旋回し、日が暮れたら森に戻る。街道は森に入らず平野との堺にそって進みそこを通り街に向かう馬車をチラホラと見かける。どうやら山越えの道があるようだ。そして街からも武装した者達が森のそばにやって来て、野営をし始めた。武装した人達の自分を見る目が厳しい。恐らく街の近くに現れた魔物を討伐に来たのだろう。

因みにこの日のログインボーナスはハッピースナックというお菓子だった。

スタートアップボーナスは水のオーブ。ランダム属性のオーブが配布され手に入ったのは水属性だった。

使うと対応した属性の魔法が習得出来るそうだ。しかもこのオーブは中級レベルらしい。レベルってなんだよ。明日のログインボーナスはランダムで何かの属性のオーブが貰える。多分そっちは初級なのだろう。


 取り敢えず日が暮れてから手に入れたアイテムを使ってみる。オーブがインベントリから無くなって、


『浄化の聖水』を習得しました


と、アナウンスが流れる。


水属性の中級魔法で聖水を生み出し汚れを浄化。ステータス異常の回復や所持品の呪いの解除を行えるそうだ。使うと空中に五百ml程の水球が生まれた。暫くはそれを動かしたり操作出来たが数分で操作を失い地面に落ちた。

 見るからに綺麗で安全そうな水だ。当然再度使って味も確認した。かなり美味である。ただの水で味は無い筈なのに、身体が求める感覚というか、いくらでも飲めそうだった。これは良い魔法である。魔力で飛行する種族なだけあって保持する魔力量も回復力も優れている。このくらいの魔力なら使い放題だ。つまり、水に困らなくなった。しかもこの水で身体を洗えば汚れもよく落ちて、悪い病原菌なども退治できる。衛生環境も整った。

 群れで伴侶だった個体の事を思ってしまう。産卵後に体力が戻らず儚くなってしまったが、この魔法があれば少し持ち直せたのではと思ってしまう。弱った時に明らかに何らかの病気にかかっている様子だった為だ。深く考えるのは止めよう。静かに朝を待つことにした。


 翌朝、ログインボーナスを確認する。予想通り初級のオーブ。属性はランダム。得られた属性は星


星?


『ミーティア』を習得しました


使って見ると星型の小さな光弾が出現し尾を引きながら飛んて行きぶつかった所で弾けた。速度はかなり速く、破壊力もありそうだ。そして連射も効く。それから2つ目の魔法を習得した事で気が付いたが、呪文やら何やら必要とせず頭の中で選択してスイッチを入れるだけで発動させられる。頭の中中のスマホでワンタップ発動といった感覚だ。

さておき、このミーティア。初級にしては強力な気がする。一発が小さいので攻撃力はあれど被害自体は少ないが連射することで補えるし、チマチマとだが確実に削れる性能だ。狙いも正確だし。数本の木を倒した所で試し打ちを止める。便利な飛び道具である。空から撒き散らしたら集団相手でも数をねじ伏せることが出来そうだ。


そんな事を考えながら今日も平野と森との境で旋回する。相変わらず野営をしていた武装集団が矢を射かけ出来たので、ミーティアでその矢を迎撃する。飛んでくる矢を視認して撃ち落とせるのはドラグノンの身体能力の為せる技だ。

 さらに集団の中に魔力を集めて居るものを見つける。見た目は典型的なローブに杖の魔法使い。やがて集まった魔力が火球となって飛んでくるがこれもミーティアで撃ち抜く。一発では貫通して少し弱めただけだったが数発で打ち消す事に成功する。

 それ以上はこちらからは攻撃はしない。向こうからすれば街の近くに現れた魔物を退治にしにきただけだ。それもおそらくは仕事で。そう考えると積極的に敵対する気にはなれない。

 向こうも攻撃手段を躱されて今日のところはこれ以上手出しをする様子が無い。

 しかし、このままでは何も進展は無い。そして、今回地上からの攻撃に対応が出来たので、ひとまずある程度の高度を保ちながら街へ行って見ようと思う。早速高度を上げて飛び出つ。下では先程の人達が慌てた様子をみせる。

 それを尻目にひとっ飛びだ。外壁に囲まれた如何にもファンタジーなゲームに出てきそうな街並み。こちらに気が付いた人々が指差して騒いでいる。上空を一回りして目についた大きな鐘のある塔の屋根に降りる。街で一番高い建物では無いが見たところ周囲の警備が一番ゆるい高層建築だ。

 ここにいれば飛び道具が届く所まで登るなり、塔を壊すなりで暫くは時間がかかるだろう。ここでマップに表示される目的地と街の様子を見比べる。目的地はこの街ではなく更に先の様だ。しかし、別のアイコンがマップには表示されている。


“辺境の街だからね、アイツはここには居ないよ。でもアイツの作った物はあるし、なかでも壊してほしいものが表示されているよ。”


 声が教えてくれる。だが見たところ噴水の様な物も中にあり明らかに生活に必要そうなインフラが含まれている。それを壊すのは如何なものか。


“そこは安心して欲しい。遅かれ早かれあの水源は枯れる。あれは細かくは違うけど、簡単に言うと遠くの水源から水を転移させている装置に過ぎない。その転移元の資源はもう直枯渇するし、その水を利用している現地に生態が崩壊しかかっている。この街は他にも水源を持っているから多少の混乱はあれど大丈夫だ。”


 声の言い分を信じるなら壊しても良いだろう。信じられるならだ。信じるぞ。


“信じてくれて構わない。水の転移元の人々に君の功績を伝えさせて貰うよ。水が奪われているのに気が付いている者もいるからね。”


でもそれするとこの街の人達に恨まれそう。ただでさえ魔物として攻撃対象にされてるのに。


“うーん、猶予的には半年かなぁ。半年後に水の転移元は乾季が来て、おそらく今年はもうもたない。ここに奪われる水が無くなれば来年の雨季までしのげるだろう。”


わかった。それまでに僕の仕業とバレない手段を考えよう。


“そんなの簡単だよ。夜中に視認不可能な距離から魔法で狙撃すれば良い。幸運にも星属性の魔法を習得してのだろう。あの属性はちょっと特殊な物でね。初級魔法でさえ、鍛えると他の属性の上位魔法程度の性能をしているからね。君は運が良い”


 星属性、特殊とは思ったがかなりのもののようだ。詰まる視認し不可能な高高度からのミーティアによる狙撃。


“覚えた魔法は使い込めば洗練されていき性能も上がるし、その属性への適性が上がり、魔力も上がる”


ミーティア自体の熟練度、星属性のレベルと魔法に関するステータスが成長する感覚だろう。ゲーム的には。声の主にはゲームみたいなものだろうし。


“そんなところだね。君は飛行して高速で移動出来るし後回しで良いと思う。後で忘れず壊しに来てくれるなら。”


そんなわけでもこの街は素通りだ。でも人間の暮らしを少し除いてこの世界に興味も湧いた。既に伴侶を得て子育ても終えて孫の顔すら見たのだ。

しんどくなったらあの営巣地に戻って過ごせばよいのだ。余生で少しくらいは冒険を楽しむのも悪くないだろう。


 そう思い前向きな気持ちで空へ飛び立つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る