第16話 単行本サイズのラノベはこう使え

「えっと……つまり、これをすれば宇井くんは私の胸が支えられる、と……?」


「うん! 我ながらいい作戦だと思うんだ! とっさに思いついて、これだ、って」


「…………な、なるほど……。むーん……」


 俺の大好きなラノベを使って胸を支える方法。


 それを説明し終えたところなのだが、どうも欅宮さんの反応はイマイチなものだった。


「……とりあえず試してみようとは思うよ。宇井くんがわざわざ考案してくれた作戦だし、何も試さないで最初から否定するのも違うと思うから」


「だね! ぜひとも一度試してみて欲しい!」


「あんまり上手くいきそうにない気はしてるけど……」


「え、えぇっ!?」


 呆れ色の混じった表情で苦笑する欅宮さんに、俺は思わず頓狂な声を上げてしまう。


 上手くいかないなんて、そんなことはないはずだ。


 制服の内側に入れたラノベで胸を支えれば、それこそ絶対に誰も気付かないはずなんだから!


「これを……制服の内側に入れるんだっけ? 前に宇井くんの読んでたエッチなライトノベルとは大きさが違うんだね」


「そうそう。これは単行本サイズのラノベでね、文庫本サイズのラノベとは少し大きさ違ってちょうどいい高さを誇ってるんだ。太もものところに立てるように置いて、胸の下部分にそれが上手いこと届くはずだから。それで支えられる」


「ん……。ま、まあ、一応高さは……。でも、一冊じゃ厚みが……」


「オーケー。当然そうなるのはわかってた。だからこいつを二冊用意してるんだ。さすがに二冊あればどうにかなると思うんだけど……試してみて?」


「う、うん……」


 もう一冊を渡し、座った状態で制服の内側に入れてもらう。


 で、言った通り太もも部分に立てかけるようにして置いてもらった。


 うーん、しかしあの小説二冊は家宝にした方がよさそうだ。欅宮さんの制服の内側に入った小説なんて、一生の宝も――


「う、宇井くん……これ……」


「上手いこといった?」


「……そうでもないかも……」


 申し訳なさそうに俺を見上げ、状況を見せてくれる欅宮さん。


「お、おぉふ……」


 その状況に、俺は思わず情けない声を漏らしてしまった。


「に、二冊でも敵わないというのか……」


「かも……。あと、本の重みもあるし、これ以上乗せたら次は太ももが痛くなってくるし、何よりも小説のせいでさらに胸が前に押し出されて……」


「ご、ごめんなさい。やめましょう。ダメですね、さすがにこれは。さらに注目を集めてしまう」


「う、うん」


 作戦は完全に失敗だった。


 単行本サイズのラノベなら高さもあるし、いけると思ったのだが、考えが甘かったらしい。


突発的に思いついた作戦とはいえ、一応風船を胸部分に入れてみて、疑似的な実験もして、成功の可能性を見出せたから欅宮さんに教えたのに……。


 彼女のおっぱいは風船なんかじゃ測れないものだったらしい。恐るべしJカップ。俺の大敗北だ。


「ごめんね……。私の胸が……こんなに大きいから……」


「そ、そんな! 欅宮さんは謝らなくても!」


「おっぱいが大きくて……ごめんなさい……」


「っっっ……! いや、その、あの、ええっと……」


 なんて返したらいいんだこれは……!!!


 上目遣いで申し訳なさそうにしながらそんなことを言われると、関係ない別の感情が文字通りムクムクと湧き上がってくる。


 状況の知らない人に見られたら、何かのプレイの最中なんじゃないかと勘違いされそうだ。


 おもむろに辺りを見回してしまった。


 欅宮さん、その謝罪は色々とマズいです……!


「と、とにかく、胸を上手いこと支える方法ってのは、今度一緒に考えましょう! 俺一人だとどうしても実際の胸の重みとか、大きさとかを正確に測れないからこういうことになっちゃうし!」


「うん……」


「やっぱりなんでも二人で協力することが大事だなって今回は思わされました! それだけでも収穫です! 一人で突っ走っても意味ないですよ! は、ははは!」


「ん……」


 微妙な空気だ。


 すごい立派な作戦だと思われてたんだろうなぁ。


 ほんと、こういう時に俺は役立たずだ。申し訳ない気持ちでいっぱい。


「……ねえ、宇井くん……?」


「は、はい。なんでしょう?」


「二人で協力することが大事だって、今言ったよね?」


「う、うん。それはもう」


「だったら、今度こそ……ちゃんと私の家へ来ない?」


「……へ……?」


「今週の土曜日と日曜日ね、お父さんとお母さん、結婚記念日で旅行に行くの。家では私一人だし……ど、どうかな? そこで一緒に色々考えるのは……」


「……あ……うぇ……」


「わ、私の胸のサイズ感とか……重さとか……そ、そこで……全部教えて……あげるし……///」


 俺の中で時が止まった気がした。




 マ ジ で す か ?




 固まってしまった俺の耳に入ってきたのは、ホームルーム終了を知らせる鐘の音で、目から入ってくる情報といえば、勇気を振り絞って誘ってくれてるのがわかる、うつむきながらも赤くなってる欅宮さんの姿だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る