第15話 おっぱいの感触と本当の意味
場所を移して、体育館から少し離れた水飲み場。
そこで俺は欅宮さんを背から下ろし、傷のケアをし始めた。
簡易消毒液とバンソウコウとティッシュ。
これくらいなら常備してるのだ。もしもの時のことを考えてな。
「ちょっとだけしみるけど、どうか我慢してください。まずは水洗いして、それから消毒からのバンソウコウ行くんで」
「う、うん。……でも、たぶん痛いのはちょっとだけじゃないと思う……」
「……まあ、土手じゃなくて体育館内なんで、傷はそこまで深くないと思うんですけどね」
「こういうのって傷が浅い方が痛かったりしない? 私の経験からして、浅いすりむき傷を消毒するのが一番痛い気がしてる……」
「ほんと……? 俺は深い傷に消毒液かける方が圧倒的に痛い気がするんだけど」
歴戦の猛者のようなことを言う欅宮さん。
なんかこう聞くと、今まで傷をたくさん負ってきたみたいな感じに捉えられるので、心配になってくる。
外見は長く艶やかな黒髪を下ろしてて、教科書や参考書、委員長日誌を抱きかかえてることが多いから、あまり活発に運動をするタイプの女の子には見えないんだけれども、もしかすると結構昔はやんちゃだったりしてたのかな。
胸の成長と共にそれが邪魔になって運動を控え出した……とか?
なんかそれ、ありそうじゃないか? どうなんだろう。
「――痛っ……!」
「ごめん、一瞬だけ我慢して。水で流して……はい、もういいですよ」
本当に軽くだ。
水道水から出た水で傷口を洗って、それから消毒液で濡らしたティッシュをさらに傷口へあてがう。
そして、最後にバンソウコウをペタリ。
たかだか体育館でこけただけなのに水で洗う必要ある? なんて思われそうだけど、油断しちゃいけない。こういうのはちゃんとしたケアが必要だからな。
「あ……ありがと、宇井くん。なんか、手慣れてるね」
「俺、実は一人だけ妹がいてですね。その妹が昔よく転んだりしてたから、よく手当とかしてあげてたんだ。それで手慣れて見えるのかも」
「そう……なんだ」
「うん」
相槌を打つかのように頷く俺。
対し、欅宮さんはおもむろに辺りをキョロキョロ見回したかと思うと、いきなり――
「へ……!?」
遠慮がちに、ゆっくりと俺に抱き着いてきた。
突然のことで、一気に体中の血液が沸騰し始める。
な、なぜにいきなり!?
「け、けけ、欅宮さん……!? ど、どないしましたですか……!?」
「…………ごめんなさい…………」
「え、ご、ごめんなさい……!?」
混乱してるせいで、何に対する謝罪なのか即座に判断できなかった。
ただただ、胸の感触が俺の心臓部分を撫でるようにフニフニと伝わってくる。
理性が飛びそうになるけど、どうにか持ちこたえ、俺は頭を回して返した。
「も、もしかしてそれは、追いかける俺から逃げたことに対する謝罪……!?」
「……もだけど、土曜日のことが主です……」
「あ、あぁ! あ、あれはその、一言に言って俺の方が全然悪いから! だから欅宮さんが謝ってくれる必要なんて一ミリもないよ! むしろ謝らないといけないのは俺の方! ごめんなさい!」
混乱してるのに乗じて、超早口で謝罪文句を並べる俺。
けれど、欅宮さんは「ううん、違うの」と言い、腕を俺に絡ませた状態で、俺の顔をしっかりと見つめながら続けた。ものすごい至近距離でだ。俺、たぶん今顔真っ赤だと思います。
「あれは私が前々から『宇井くんなら触ってもいいよ』とか言ってたし、宇井くんが私の胸を……その、さ、さわ、触ろうとしてくること自体は全然問題じゃないと思うの……!」
「い、いやいやいやいやいや!」
「いけないのは私だよ……。そうやって言ってたのに、いざ触られそうになると恥ずかしくなって……つ、通話切っちゃうとか……」
「普通です! 全然普通! 罪悪感なんて感じないで!」
「だから……ごめんなさい……。お詫びに……は、恥ずかしいけど……触っていいから……///」
「触らないよ! 触れない! もっと自分の体を大事にしてください! お願いですからぁ!」
「……うぅぅ……/// や、やっぱり、宇井くんは小さい胸の方が好きなのかな……?」
「そんなことはない! そんなことはないけど、話を聞いてぇ! ご自分のお体を大事になさってください!」
「えいっ……!」ふにゅ
「――っっっっっっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?」
俺の手を掴んだと思うと、それを自身の豊満な胸へ持って行く欅宮さん。
俺の指は……なんとそこで沈んだ。
沼にハマるかのごとく、夢と希望の詰まったおっぱいに、しっかりと――
「ど、どど、どうでひゅか……/// わ、わわ、わ、私の……胸は……///」
「……あ……あ……あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……///」
言語機能停止。
しかしながら動く俺の指。
もはや脳内の行動指令を出してるのは、俺に似た何かだった。理性のある俺は脳を動かす活動を止めてしまっている。おっぱいの力、恐るべしだ。
――が、
「ち、違う! そうじゃなくて!」
「きゃっ!」
気合と根性と使命感で、理性を一瞬で取り戻した。欅宮さんには悪いけれど、本当に悪いけれど、俺はその場で立ち上がる。
そうじゃない。そうじゃないだろ、宇井圭太!
「欅宮さん! 俺が土曜、あの通話で最後に『胸を支えさせてください!』って言ったのは、そういう意味じゃないんだ! 単純に触りたいとかじゃないんです!」
「ふぇ……?」
「俺が言いたかったのはつまり……!」
言いながら、ゴソゴソと制服の内側にある胸ポケットを探り、一つのバイブルを取り出してみせた。
「これです!」
「そ、それって……」
「ラノベです! 俺の大好きなラノベ! これを使って欅宮さんの胸を支えたかったんですよ俺は!」
「???????」
ポカンとし、女の子座りをしたまま可愛らしく小首を傾げる欅宮さん。
……まあ、そういう反応になるのも無理はない。
俺はこれを使ってどう胸を支えようとしたのか、一から話し始めた。
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