第14話 おんぶ。二人きり

「待って、欅宮さん! お願いだから止まって!」


「無理だよぉ!」


「な、なんで無理なの!? やっぱり土曜日が影響してる!? 通話中に俺があんなこと言ったから、それに怒ってるってこと!?」


「怒ってはないけど……! 怒ってはないけどぉ……!」


「怒ってない!? なら、なんで逃げるの!? これじゃあ俺は嫌がる女の子を追っかけまわす変態不審者男だよ! 捕まるのも秒読みだよ!」


「そ、それはダメっ! 宇井くんが捕まったら私、どうしようもなくなっちゃうから!」


「じゃあ、止まって!? そう言ってくれるのはすごくありがたいし、嬉しいけど、発言と行動が一致してないよ欅宮さん! 捕まりそうだし、体力ももう俺、限界に近いから!」


「っっっ~~~! 無理なのぉ!!!」


「何でぇぇぇぇぇ!?!?!?」


 堂々巡りの掛け合いを繰り返し、俺たちは中庭横の長い渡り廊下をドタバタ、この時間帯人気のない文化部棟をドタバタ、そして遂には体育館内に侵入し、ドタバタと追いかけっこを続けていた。


 朝のホームルームまで時間もあまりないが、今の俺にしてみればそんなことはもはやどうでもいい。


 今はとにかく逃げ惑う欅宮さんを捕まえて、俺がしたかった話の重要な部分を聞かせてあげないといけないわけだ。


 でないと、勘違いは収まらない。俺は一生欅宮さんにこうして逃げられ続けるハメになる。それだけは嫌なのだ。彼女に拒否され続けたら俺、控えめに言って死んじゃうまである。


もっとも、好きな人に拒否されて正常でいられる男の方が珍しいと思うわけなのだが、それもまた今はどうでもいいか。


 とにかく、とにかく、今は彼女を立ち止まらせないと。


 疲労困憊状態の中、強くそう思っていた矢先のことだった。


「ふにゃっ!」


 俺の前を走っていた欅宮さんが盛大にずっこけた。教室内じゃ絶対に出さないであろう声を出して。


「だ、大丈夫、欅宮さん!?」


 俺はすぐに尻もちをついて泣きそうになってる彼女の元へと駆け寄った。


 よく見ると、膝の部分をすりむいてる。


 こりゃいかん。すぐに治療しなければ。


「うぅぅ……痛い」


「だと思うよ。でも大丈夫。すぐに俺が治療してあげるから、ちょっと水道のあるところまで行こ?」


「で、でも……」


 口元をもにょもにょさせて、チラッと上目遣いで俺を見つめた後、一瞬のうちに目を逸らし、やがて両手で顔を隠してしまう欅宮さん。


 これはもう完全に俺が悪い。


 あんな風に言うべきじゃなかったな。もっと発言は考えないと。


 反省しつつ、しゃがんだ状態のまま、俺は欅宮さんに背を向けた。


「乗って? おんぶ。ホームルームには遅れるけど。ごめん、俺のせいで」


「宇井くんは悪くないよ……。悪いのは私と言いますか……。前、宇井くんに胸を触られてもいいみたいな発言したのに……こんなことで顔が見れなくなっちゃうなんて……」


「どっちにしろ、俺が悪いのは間違いない。欅宮さんに傷も負わせちゃったし、最悪だよ俺」


「そんな……」


「とにかく、治療させて? 俺、色々救急用品持ってるから」


 自虐的でどこか誤魔化すような笑みを浮かべつつ言うと、欅宮さんは少しした後、俺の背に体を預けてくれた。


 俺は彼女が背に乗ってくれているのを確認し、立ち上がってゆっくりと歩き出した。


 いつ以来だろうか。誰かをおんぶするなんて。


「重くない……かな?」


「んーん、全然。大丈夫だよ。余裕余裕」


 むしろ問題なのは体重とかよりも、俺の背中に当たってる胸と手で触れてる彼女の太ももなんだが、それついては何も言わないことにする。


 これ以上爆弾発言を重ねるのもマズい。空気を読まねば。


 と、そんなことを考えつつ歩いてると、朝のホームルーム開始を告げる鐘が鳴った。


 普段ならこの時間、欅宮さんは教壇前に立ち、先生と一緒に司会役を務めてる。


 それを抜け出し、今日は俺と二人きりだ。


 全校生徒全員がホームルーム中なため、辺りにはどこを歩いても人がいない。


 ここはまさに二人だけの世界だった。


 俺と欅宮さんだけの空間。


 そんな中で、か細く背から声が聴こえてくる。


「私の方こそごめんね……? 宇井くん……」と。


 俺は首を横に振った。


「欅宮さんは謝らないで」


 彼女の頭を優しく撫でるように、優しい声音でそう返すのだった。










※作者のつぶやき※

次回予告詐欺してますね。はい。


本当に申し訳ない。次回こそ作戦内容というか、宇井くんが本当に伝えたかったおっぱい目立たせない対策方法を明かします!


文字調整難しすぎィ!

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