プロローグ2
よくよく見ると少女の服装には見覚えがある。あくまで服装だけだが。
「セーラー服?」
「ん……?」
「あ、起きたか?」
顔は、やっぱ知らんな。こんな可愛い知り合いはいなかった。
「とりあえず中に入るか……?」
「ここ、どこ?」
何となく懐かしい光景に顔をほころばせながら、少女を店内に迎え入れた。
「すごい!可愛い!ここは天国なんですか!?」
完全に目を覚ました少女は、店内の動物たちに大興奮のご様子だ。
「気に入ってくれたかい?」
「あ、あの……」
動物たちに開いていた心は、俺を前にして再び固く閉ざされてしまう。
「君は店の前に倒れていたんだけど、何か覚えていることはあるか?」
「えっと……」
言葉に詰まる。それなら、こちらから質問をしていきながら現状を確認してもらおう。
「まずは、名前は言えるか?」
「赤峰ほのか」
「赤峰さんか。ああ、悪かった。俺の方も名乗らないとだよな。アツシと呼んでくれ」
「アツシ?」
いまだに警戒心を剥き出しにする少女との会話を何とか成立させる。
見た目は一般的な学園生だろう。肩より少し長いくらいの黒髪、この世界では珍しい黒い瞳、顔立ちは幼く見えるが、十代半ばは過ぎているだろう。幼く見えるのは、“同郷”の人間に見られる特徴の一つだ。
「日本人、であってるか?」
「そうです……。えっと、ここって……」
「この店内の動物を見ただけで何となくわかったと思うけれど」
「ここは、異世界、なんですね?」
「お?理解が早いな……」
俺の時はこの事実を飲み込むのに三日かかったというのに。
「目が覚めたらここにいたって感じだよな?」
「そうです!それで……えっと……」
目が覚めていきなり見知らぬ土地で見知らぬ生き物に囲まれたってわけだな。
対応を間違えたかもしれない……。
今の日本がどうなっているのかとか、俺がいなくなったことについて何かニュースはあったかなど、色々と聞きたいことはあったが、まずは彼女を落ち着かせるべきだろう。
「ここは異世界だけど、俺も日本人だ。こっちに来て5年くらい経つのかな?」
「5年……そうなんですね……」
しまった……。俺からすれば些細なことになっていたが、5年かかって元の世界に戻れていないという事実は伝えるタイミングを考えるべきだった。
「突然こんなことになって戸惑っているとは思うけど……できる限りのフォローはするし、えーっと、そうだな……俺はあんまり帰る気がなかっただけで、帰る手段も……」
「アツシさん、で良かったんですよね?私をここで働かせてください!」
俺の想像より、少女はタフだった。
「ほのかって呼んでください。後、この動物たちのお世話のやり方を教えてください」
「お、おう……」
「えっと……それから……」
終始おされぎみのまま、なし崩し的に彼女を雇うことになった。
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