はじめての体験
「可愛い……こんな可愛い生き物がいたんですね……」
「フェリスか。そいつは確かに元の世界にはいないタイプかもしれない」
フェリスは耳がやたら大きいねずみの仲間だ。耳が大きいというのは他のサイズ感を小さく見せるため、全体の見た目は可愛らしくなる。日本でも珍しいペットとしてフェネックなんかは人気だったし、世界一可愛い動物に選ばれたこともあったはずだ。
「フェネックより小さいですね?」
「フェネックはきつねだけど、こいつはねずみだからな。これでアダルトだ」
「こんな、手のひらサイズで……」
恍惚の表情でフェリスをなでるほのか。どちらも単体で可愛らしいものが一人と一匹で互いを引き立てる。
立派な看板娘として活躍してくれそうだな。
「こっちのコーナーは……」
「えさコーナーだな。ある意味そこが一番売れ筋だ」
「えさって……ひっ!」
「小動物はほとんど虫が主食だからなあ……」
衣装ケースのような大き目の半透明のケースの中、蠢きあう虫たちというのは慣れていても結構気持ち悪い。
ダンゴムシが平たく、大きくなったような、ダイオウグソクムシのようなフォルムの虫。爬虫類飼育をしているとデュビアというゴキブリの一種がまさにそれなのだが、あえて彼女にゴキブリの名前を告げることは避けよう。
見た目はダンゴムシかワラジムシなのだから。
「これ……何が食べるんですか……」
「フェリスもこれあげたら喜んで食べるぞ」
「ひぃ……」
ペットという感覚に馴染みの薄い世界。人工フードというものがない以上、野菜や果物だけでは栄養が偏る。どうしてもこういったもので直接たんぱく質を摂取させていくことが、雑食性の動物たちの飼育には必要不可欠だった。
「メインは奥の爬虫類系の餌だけどな」
「爬虫類!トカゲとかですか?」
「大まかなくくりで言うと、ヤモリ、トカゲ、ヘビあたりだなあ」
「ヘビ!」
「あ、そっちはいけるのか」
てっきり虫と同様の反応かと思えば、その辺には抵抗がないようだ。むしろ、目を輝かせてうきうきしている。
「その虫たちを越えていかないと、爬虫類たちのところへはたどり着けない」
「なんでですか!?」
「んー、哺乳類とか鳥類は割りとなんとかいけるにしても、その奥にいるやつらはそこを通り抜けるくらいができないと飼いきれないんだよ。期待を持たせておいて結局“かえない”っていうのは、お互いのためにならないからな」
「なるほど……。飼えると思っていた期待と、買ってもらえると思う期待ですね」
「そういうこと」
とはいえ、ほのかは客というわけではないので、虫を隅に避けて道を空ける。
ここで働く以上いつかは慣れてもらわないといけないが、今はまあいいだろう。
「わあ!」
「このコーナーでそんな喜んでもらえるとは……」
人が二人すれ違うには狭すぎるようなスペースに、ケージが積み上げられている。
基本的には一つのケージに一匹、ヤモリやトカゲ、ヘビがいる。
「可愛いですねえ」
「そいつは今は可愛いけど、俺よりでかくなるぞ……」
「それはそれで、育てがいがあっていいですね!」
かなりこの道のポテンシャルの高さを感じさせる発言だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます