第39話
翌日、一行はフォンフロワドの公共病院のひとつを訪れた。
先頭のオーレリアンに続いてセルジュ、ルカ、アルフォンスの順に病院の門をくぐり、前後には数多くの護衛がついている。
城からここまで歩いてきただけでも市民の注目の的だった。
ルカは明らかに自分は場違いだと思ったが、セルジュに同行を懇願された。命令でもすればいいのに、セルジュは決してルカに何も強要したことはない。
突然のオーレリアンの来訪に、セルジュはかつて見たことがないほど緊張していた。
「これが、セルジュのお母様が作った病院……」
ルカはこじんまりとした石の門を見上げる。
ピンクがかった灰色の石材はとても頑丈そうだ。ほとんど装飾はなく、必要最低限の健在で作られている。建物は中央が二階建て、他の棟はすべて一階建て。
一続きの大きな建物ではなく道を隔てて分けてあるのは、感染症が出た時に棟ごとに人を分けられるよう、対策のためだと文献で読んだことがある。
「ようやく見つけたのだ。そなたの母の死に目を知る者を」
オーレリンが引き合わせたのは、当時の病から奇跡的に回復したという者だった。
「本当に、あの流行病で、お妃さまは逝かれました」
当時、流行病に罹った者を診る病院で奉仕活動をしていたセルジュの母――アニエス妃は、自分その流行病に罹ってしまった。
国王は駆けつけようとしたが、立場上罹患しては困ると病院に入るどころか伯領へ発つことも許されなかった。伯の屋敷に仕える者も、院内には立ち入れなかった。
「何故兄上が私の母の看取りを探していたのですか……?」
「己の心と決着をつけるためだ。母がアニエス妃を毒殺したなどという噂話を信じたことはない。いくら家門が反目しあおうとも、自分の母がそんな強硬に手を染めたなど、子が思えるはずはない」
「ならば」
セルジュは何度も口を開いては閉じ、言葉にならない感情をどう吐き出すか悩んでいるようだった。
「しかし、客観的な証拠が欲しかった。馬鹿馬鹿しい噂を流す恥知らずな者どもに、お前たちは間違っていると確信をもって言ってやるために。胸を張りたかった。私よりお前の方が優秀であることは今に分かるだろう。今はまだ年齢の違いでわずかに私が先を歩いているだけだ。王宮での活躍を待たずとも、フォンフロワド伯として手腕を発揮しはじめれば、次はセルジュだと言われるのは分かっている」
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