第21話

 ルカは寄付奉仕の手伝いのあと、皆が思い思いに街で過ごす時を狙って、セルジュに話しかけた。

 アルフォンスが他の学生と話して、トマシュが子供たちの相手をして、セルジュがひとりになっている時。

 サン・ド・ナゼルのことはよく知っている。聖堂と僧院の間の木陰に、あまり人がいないベンチがあるので、そこなら誰にも見られずセルジュとふたりになれる。

 見られて困るようなものではないが、ただルカが照れ臭いのだ。

 それにもしかしたら、贈り物の作法がなっていないとか、またルフォンスに説教されるかもしれない。目付け役がいては興を削がれてしまう。


「これ」

 何と言って渡せばいいか分からず、結局作法も何もない、ぶっきらぼうな態度になってしまった。

「また衣装も頂きましたし。いっぱいお世話になったから、お礼に何かと思って」

「これは……紅石英アメティストではないか」

 ルカがセルジュの手に押し付けたのは、親指の先ほどの丸い石だった。

 ピンクがかった透明感のある白い石は、ルカの故郷周辺で採れるもので、その美しさから王都でも装飾品として売られている。

 もちろん高値で取引されるような質のいい石は手に入らなったが、レオンの弔いで村に戻った時に、父を手伝って山に入った時に偶然見つけたのだ。

「毎日少しずつ削って綺麗にしたので、部屋に置いて飾るくらいなら、見れるものになったと思うんですけど」

 原石を切り出して、宝石らしい見た目になるよう磨いていたら、指の先ほどの大きさしか残らなかった。しかし、今までルカが自力で手に入れた物の中で一番高価であることは違いない。


「私も、渡したいものがある」

 セルジュはおもむろにベルトからぶら下げたポーチを手繰り寄せた。小銭やちょっとした小物を入れるためのものだが、貴族それはほとんどただの飾りになっている。

 普段何も入っていなさそうなポーチから、赤紫色の綺麗な布に包まれた細長いものが取り出される。

「君にこれを」

 布を取ると、中身は銀製の装飾ペンだった。

「思いつきで注文してしまって、いつ渡そうかずっと悩んでいた」

「そんな、高価なもの……」

「銀のペンが格好いいから欲しいと言っていただろう」

 言われてすぐは、ルカはピンとこなかった。セルジュに物をねだったことなどない。

「あっ、もしかして、トマシュのペンがなくなった時のことですか?」

「そうだ。銀のペンがいいのだろう」

「確かに、持てたらいいなあって言いましたけど」

 セルジュがルカの前にペンを差し出す。その表情は少しだけ口角が上がっていて、ルカが喜んで受け取るのを期待しているのが分かった。

 もう少し前であれば、高価な品を貰うのに躊躇しただろう。

「ありがとう、ございます。明日からこれで勉強しますね」

 ルカは両手でしっかりと受け取った。高貴な赤紫色の布に乗せられた銀のペンを。

















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