第19話

 王都の西側には川が流れ、橋の向こうには城壁の中に収まりきらなかった家が溢れたかのように、街道沿いに建物が立ち並ぶ。

 反対の東側には、墓地がある。

 墓地を街の外側に作るのは古代帝国の頃から変わらないらしい。人々は古くから習慣的に知っていたのだ。病を得て亡くなった人の体、亡くなった後に朽ちていく肉体から、また生者が病をもらうということを。

 だから王都の墓地も、街の喧騒から離れ、第二城壁を出てしばらく歩いた場所にある。


「レオン。昨日、ジルに会ったよ」

 ルカは街で買った花を手向け、祈りを捧げてからレオンに話しかけた。

「見ないうちに背が伸びたなあ、大きくなったなあって。去年の秋にも同じこと言ってたよね」

 いつも花選びに悩む。ルカもそうであるようにレオンも花に興味などなかったので、兄の好きな花が分からない。しかし死者の国へ旅立った者に、いくら好物だとしても雉肉を備えるわけにもいかない。

 ルカは悩んで、黄色の花をつけたミモザの枝を選んだ。

 春の花といえば、やはりミモザだ。


 城壁の崩落事故で亡くなったレオンは、王都郊外の共同墓地に葬られた。墓石は大きいものがひとつだけで、被害者全員の名で表はいっぱいだ。

 なのでルカは、小さな墓石を作った。聖堂の弔いに則って、レオンの名と生没年、故郷と職業を刻み、共同の墓石の隣に置かせてもらっている。


「マリィと結婚するんだってね。レオンが本当はマリィのこと好きだったの、ジルも気付いてたよ」

 兄と同い年の若者が、村一番の美人を射止めた。親友のレオンが亡くなったからと、一年以上も喪に服してくれていたのだ。

 墓地にも至る所に花が咲いている。春が来ると一斉に綻ぶ蕾たちが、陽の光を受けて競い合うように色とりどりの花びらを見せつけている。誰かが植えたものではなく、土があるからそこに芽が出るのだ。自然と根付いたそれらを、墓地を管理する僧たちが手入れしているのだろう。


 今年も、春はやってきた。


 レオンが事故で死んで、翌年の春は祭りの期間もルカは自室でじっとしていた。喪に服するというより、何もする気が起きなかったのだ。

「今年は、また手伝いに行ってみるね。マルティネス先生たち、大変そうだし」

 他に誰もいない、静かな場所で話していると、自分の声が以前より低くなったことがわかる。

 もしかしたら、兄より体が大きくなっただろうか。

 比べることができなくて、もう分からないけれど。

















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